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刹那
急ぎすぎて、準備をするのを 忘れていた
刹那
多分、一日では終わらない
それくらい本気だから
だから、時間がない
急がないと、
電車の音が近づいている
刹那
部屋の中は、やけに静かだった
カバンに荷物を詰める音だけが、 小さく響いている
何を持っていけばいいのか、よくわからない
でも、急がないといけないことだけ わかっていた
母親
後ろから母の声がした
振り返ると、心配そうな顔でこちらを見ている
刹那
短く答える
それ以上の言葉は、うまく出てこなかった
母親
母が言いかけて、止まる
その隣で、父が静かに首を振った
父親
低い声だった
母は何も言えなくなって、ただ俯く
その空気が、少しだけ苦しかった
どうしてそんな顔をするんだろう
ただ、会いに行くだけなのに
刹那
自分でも驚くくらい、軽い声がでた
刹那
その言葉に母は小さく笑った
でもその笑顔は、無理しているように見えた
----どうして?
胸の奥に、違和感が残る
でも、それを考える前に
刹那
そう言って、家をでた
外の空は、少しだけ冷たかった
空を見ると、薄い雲が広がっている
雨、降るかも
そんなことを思いながら歩き出す
駅までの道
一回しか通っていないのに、 何回も通ったような感覚
刹那
信号の前で、足が止まる
横断歩道
白い線が、やけにくっきりと見えた
--キキィィィッ___
また、あの音
思わず肩が揺れる
刹那
なんで
なんでこんなに、怖いんだろう
ただの道路なのに
青に変わっても、すぐには歩き出せなかった
後ろから人が来て、やっと足が動く
胸の奥が、ザワザワする
理由はわからない
でもここにいると、何か思い出してしまいそうで
早足でその場を離れた
刹那
駅につく頃には、少しだけ息があがっていた
改札を抜けてホームへ向かう
電車の音が、遠くから聞こえてくる
ベンチに座って、カバンを抱える
その時、スマホが震えた
画面を見る
知らない通知
------録音ファイル
刹那
再生ボタンを押す
少しだけ、ノイズ
それから、
『未来の自分へ』
聞こえてきたのは、自分の声だった
思わず息を飲む
『これを聞いてるってことは、多分もう色々忘れていると思う』
淡々とした声
でもどこか、焦っているようにも聞こえた
『だから、これだけは言っとく』
一瞬、間が空く
『絶対、時雨にあってね』
刹那
その名前を聞いた瞬間、胸が強く締め付けられる
痛い…でも、暖かい
『理由はわからなくても良い』
『忘れてても良い』
『それでも、会いに行け』
声が、少しだけ震えていた
『じゃないと、多分___』
そこで音が途切れた
刹那
画面を見る
再生は終わっている
続きは…ない
刹那
呟いた声が、小さく震えた
どうしてこんなものを残したのか
どうして、ここまで執着するのか
わからないことばかりなのに
それでも
行かなきゃいけない気がする
強く、そう思う
気付けば、手の甲を見ていた
『しぐれに会え』
同じ言葉
少しにじんで、消えかけている
刹那
誰に言ったのか、自分でもわからない
それでも、そう呟いた
電車がホームに入ってくる
風が吹いて、髪が揺れた
その一瞬、
どこかで、懐かしい匂いがした 気がした
雨の、匂い
顔をあげる
空はまだ、曇ったままだった
それでも、何故か思った
刹那