TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

病院の一角にあるリハビリ室。 窓際のスペースには、誰が置いたのか分からない古いアップライトピアノがあった。 志歩は点滴台を押しながら、ゆっくりとその前まで歩く。 管を伝って揺れる透明な液体。 腕の痛みと一緒に、少しだけ胸が締めつけられる。

日野森志歩

……久しぶり、だな。

鍵盤に指を置く。 音が出るまで、ほんの一呼吸。 弾いた瞬間、病室の静寂に小さな音が広がった。 ベースの低音じゃない、けれど確かに“音楽”だった。 そのとき―― 「お姉ちゃん、ピアノ弾けるの?」

振り向くと、帽子をかぶった幼い男の子が立っていた。 腕には小さな包帯、手にはお気に入りらしいミニカー。

志歩は少し驚きながらも微笑む。

日野森志歩

うん、ちょっとだけね。

男の子

なんで弾いてるの?

日野森志歩

……音が、好きだから。

男の子はしばらく考え込むように首を傾げ、それから笑った。

男の子

ぼくも、好き。

音があると、怖くなくなるんだ。

その言葉に、志歩の指が止まる。 心臓の奥で、何かが温かく弾けた。

日野森志歩

そうだね……。
じゃあ、怖くなくなる音、
いっしょに探そうか。

志歩は再び鍵盤を押した。 ゆっくりとした旋律。 その音に合わせて、男の子が小さく手拍子を始める。 誰かの笑い声。 それが、志歩にとって“生きてる 証”のように響いた。 点滴の滴る音とピアノの音が重なり、 小さな病院の空間に、 確かな“希望の音”が息づいていた。

検査の時間で

看護師

日野森さん、採血しますね

白衣の看護師が優しく声をかける。 志歩は小さく頷きながら、腕を差し出した。 冷たいアルコール綿の感触。 チューブが巻かれ、血管を探す指先の圧。 ――わかっていても、怖い。 針が刺さる瞬間、体がびくっと震えた。 痛みというより、“自分の中に薬が入る”という現実の方が怖かった。

看護師

これから抗がん剤を始めますね。少し長いけど、がんばりましょう。

看護師の笑顔に、志歩は小さく笑い返す。 でも胸の奥は重かった。 点滴のポタリ、ポタリという音が時間を刻む。 そのリズムに合わせて、意識が少しずつぼやけていく。 ──数時間後。

病室に戻った志歩は、 そっとベッドに体を横たえた。 天井の白がにじんで見える。 寝返りを打った瞬間、枕の上に何かが落ちた。 細い髪の束。 それを見た瞬間、息が止まった。 手で触れると、簡単に抜けた。 何本も、静かに。 志歩は手を握りしめて、声を出さずに震えた。

日野森志歩

……これも、治すための痛み、だよね。

誰に言うでもなく、そっと呟く。 けれどその言葉の裏で、 ほんの少しだけ「怖い」と思う自分が確かにいた。 窓の外で夕陽が沈む。 光が薄れていくように、 志歩の瞳にも静かな涙が溜まっていた。

男の子

お姉ちゃん!来たよ!

日野森志歩

あっ、あの時の、お名前は?

男の子

健太!

日野森志歩

健太くんか....

男の子

お姉ちゃんはどこが痛いの?

男の子の問いに

日野森志歩

心臓かな。健太くんは?

男の子

僕はね...頭の病気

日野森志歩

そっか、治るといいね(撫でる)

男の子

お姉ちゃん、ピアノ弾かないの?

日野森志歩

私ね、髪の毛が抜ける抗がん剤ってわかるかな?それでね行けないんだ

男の子

そっか....

小児科の看護師

あーいたいた!健太くん、ダメでしょ?勝手に行くのはって...Leo/needの日野森志歩さん!?

男の子

...ごめんなさい...

小児科の看護師

ほら、病室に戻ろうね

男の子

お姉ちゃん、バイバイ!

日野森志歩

バイバイ

東雲絵名

志歩ちゃん!来たよ!

宵崎奏

日野森さん、こんにちは

日野森志歩

絵名さんに宵崎さん、来てくださったんですね...

お見舞いに来た25時、ナイトコードでの宵崎奏と東雲絵名がやってきてお土産を持ってきた。

東雲絵名

うん。
まふゆと瑞希も来たがってたんたけど、まふゆは塾で瑞希はバイトでね。
代わりにこれ。

小さな紙袋を差し出す。 中には、ハーブティーと手書きのメッセージカード。

宵崎奏

まふゆが、“香りが落ち着くやつがいいんじゃないか”って選んでくれたんです

志歩は袋を受け取り、指先でカードを撫でた。 筆跡の優しさが伝わってくるようで、胸が少しあたたかくなる。

日野森志歩

ありがとうございます……。

こんなにしてもらって、なんだか悪いです。

東雲絵名

何言ってるの。こういうときくらい、素直に甘えときなよ。あとはこれだよ

日野森志歩

帽子?

軽く笑いながらも、絵名の目の奥には心配の色があった。

奏は病室の窓から差し込む光を見つめながら、静かに言った。

宵崎奏

音って、すごいよね。

耳で聴けなくても、心には残る。

……日野森さんのベースの音、

今でもちゃんと覚えてる

志歩は目を瞬かせ、そして微笑む。

日野森志歩

宵崎さん……ありがとうございます。
……私、もう少しだけ、あの音を追いかけてみたいです

その言葉に、絵名がにやりと笑う。

東雲絵名

ほらね。やっぱり志歩ちゃんはそうじゃなきゃ!

病室に柔らかな空気が流れる。 外では夕焼けが広がり、 カーテンの隙間から差し込む光が志歩の髪を照らしていた。 奏が帰り際、そっと志歩の手に何かを渡す。 小さなICレコーダー。

宵崎奏

これ、私が最近作ったメロディ。

……夜、眠れないときに聴いてみて。

音の代わりに、心が揺れるように。

志歩はしっかりとそれを握りしめた。

日野森志歩

……はい、聴きますね。
ありがとうございます。

その瞬間、志歩の瞳に少しだけ“光”が戻っていた。

その次の日、VividBADSQADのBADDOGSの東雲彰人、青柳冬弥がお見舞いにやってきた瞬間...

日野森志歩

ゲボっゲボっ...!

東雲彰人

日野森さん、大丈夫か!

青柳冬弥

日野森さん!!!

青柳冬弥

彰人!先生を呼べ!

東雲彰人

……志歩、少し顔色悪いぞ。無理して話してねぇか?

日野森志歩

……大丈夫、だよ。ちょっと疲れただけ――

その言葉の途中で、志歩の体が前のめりに崩れた。 「っ……!」 喉の奥からこみ上げる激しい痛み。 次の瞬間、赤い血がこぼれ落ちる。

青柳冬弥

日野森さん!!!

東雲彰人

おい、志歩!!しっかりしろ!!

床に滴る赤。 彰人は慌ててナースコールを押し、 冬弥がタオルで志歩の口元を押さえる。 志歩の唇は青白く、目の焦点が合わない。

東雲彰人

医者!!誰か医者を呼べ!!

青柳冬弥

……頼む、まだ喋るな!

ドアが開き、看護師が飛び込む。

看護師

すぐに医師を呼びます!!
東雲さん、青柳さん、下がってください!

酸素マスク、ストレッチャー、 慌ただしい声。 志歩の手がわずかに震えながら、彰人の袖を掴む。

日野森志歩

……ごめ……なさい……

東雲彰人

謝るな。……謝るなよ!

声がかすれる。 冬弥は俯き、ただその光景を見つめることしかできなかった。

― 手術室の灯 ―

赤いランプが点滅する。 手術中のサイン。 廊下の椅子に座る彰人と冬弥は、 何も言えずにただ祈るように時間を見つめていた。

青柳冬弥

……俺たち、何もできないのか ...?

東雲彰人

違う。
……できることはある。
志歩が帰ってきたとき、笑って
“おかえり”って言えるようにしておく

言葉の奥に、震えた決意があった。 数時間後―― 手術室のランプが消え、医師が姿を現す。 「手術は成功しました。 ただし状態が不安定なので、しばらくICUでの管理が必要です。」 冬弥と彰人は同時に立ち上がった。 安堵と、まだ拭えない恐怖。 病室へ運ばれる志歩の姿。 透明な管に包まれたその体を見て、彰人は小さく呟いた。

東雲彰人

……次に目を開けたとき、また“音楽”の話をしような。

ICUの扉が静かに閉まる。 夜の病院に、機械の音だけが規則正しく響いていた。

ICU

一歌咲希穂波「志歩!/志歩ちゃん!!!」 緊急だと冬弥から聞いて駆けつけた一歌たち。

日野森雫

しぃちゃん!!!

姉である雫は駆けつけてICUの方へ向かい、志歩の姿を見ると崩れ落ちる。

廊下を駆け抜け、息を切らしながらICUの前まで来た。 ドア越しに見えたのは、無数の管に繋がれ、酸素マスクをつけた 志歩の姿。 その光景を見た瞬間、 雫の足が止まり、次の瞬間、崩れ落ちた。

日野森雫

うそ……やだ、なんで……こんな……!

看護師が慌てて支える。 その横で、彰人と冬弥が沈黙のまま立ち尽くしていた。 冬弥の手はまだ震えていて、彰人は拳を握りしめたまま動けない。 医師が淡々と説明を始める。

医師

急な吐血により、出血性ショックを起こしました。
ですが、手術は成功しています。
今は安定していますが、意識の回復には時間がかかるかもしれません

雫は涙をこぼしながら、震える声で問う。

日野森雫

……目を覚ます可能性は、あるんですか?

医師は静かに頷いた。

医師

ええ。彼女の体力次第です。
ただ――今は祈るしかありません。

雫はその場で顔を覆った。 ステージの上では決して見せなかった泣き顔。

日野森雫

しいちゃん……お願い。
置いていかないで。

その声は、ドアの向こうの志歩には届かない。 けれど、その“想い”だけがICUの静寂に確かに滲んでいた。 彰人が小さく呟く。

東雲彰人

……日野森さん、志歩は強い。
絶対、戻ってきます。

雫はゆっくり顔を上げ、目元を拭った。

日野森雫

……えぇ。信じる。
だってあの子、私の妹だもの。

モニターの音が一定のリズムを刻む。 それが、かすかな“希望の音”の ように聞こえていた。

日野森志歩と病と共に

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

15

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚