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病院の一角にあるリハビリ室。 窓際のスペースには、誰が置いたのか分からない古いアップライトピアノがあった。 志歩は点滴台を押しながら、ゆっくりとその前まで歩く。 管を伝って揺れる透明な液体。 腕の痛みと一緒に、少しだけ胸が締めつけられる。
日野森志歩
鍵盤に指を置く。 音が出るまで、ほんの一呼吸。 弾いた瞬間、病室の静寂に小さな音が広がった。 ベースの低音じゃない、けれど確かに“音楽”だった。 そのとき―― 「お姉ちゃん、ピアノ弾けるの?」
振り向くと、帽子をかぶった幼い男の子が立っていた。 腕には小さな包帯、手にはお気に入りらしいミニカー。
志歩は少し驚きながらも微笑む。
日野森志歩
男の子
日野森志歩
男の子はしばらく考え込むように首を傾げ、それから笑った。
男の子
その言葉に、志歩の指が止まる。 心臓の奥で、何かが温かく弾けた。
日野森志歩
志歩は再び鍵盤を押した。 ゆっくりとした旋律。 その音に合わせて、男の子が小さく手拍子を始める。 誰かの笑い声。 それが、志歩にとって“生きてる 証”のように響いた。 点滴の滴る音とピアノの音が重なり、 小さな病院の空間に、 確かな“希望の音”が息づいていた。
検査の時間で
看護師
白衣の看護師が優しく声をかける。 志歩は小さく頷きながら、腕を差し出した。 冷たいアルコール綿の感触。 チューブが巻かれ、血管を探す指先の圧。 ――わかっていても、怖い。 針が刺さる瞬間、体がびくっと震えた。 痛みというより、“自分の中に薬が入る”という現実の方が怖かった。
看護師
看護師の笑顔に、志歩は小さく笑い返す。 でも胸の奥は重かった。 点滴のポタリ、ポタリという音が時間を刻む。 そのリズムに合わせて、意識が少しずつぼやけていく。 ──数時間後。
病室に戻った志歩は、 そっとベッドに体を横たえた。 天井の白がにじんで見える。 寝返りを打った瞬間、枕の上に何かが落ちた。 細い髪の束。 それを見た瞬間、息が止まった。 手で触れると、簡単に抜けた。 何本も、静かに。 志歩は手を握りしめて、声を出さずに震えた。
日野森志歩
誰に言うでもなく、そっと呟く。 けれどその言葉の裏で、 ほんの少しだけ「怖い」と思う自分が確かにいた。 窓の外で夕陽が沈む。 光が薄れていくように、 志歩の瞳にも静かな涙が溜まっていた。
男の子
日野森志歩
男の子
日野森志歩
男の子
男の子の問いに
日野森志歩
男の子
日野森志歩
男の子
日野森志歩
男の子
小児科の看護師
男の子
小児科の看護師
男の子
日野森志歩
東雲絵名
宵崎奏
日野森志歩
お見舞いに来た25時、ナイトコードでの宵崎奏と東雲絵名がやってきてお土産を持ってきた。
東雲絵名
小さな紙袋を差し出す。 中には、ハーブティーと手書きのメッセージカード。
宵崎奏
志歩は袋を受け取り、指先でカードを撫でた。 筆跡の優しさが伝わってくるようで、胸が少しあたたかくなる。
日野森志歩
東雲絵名
日野森志歩
軽く笑いながらも、絵名の目の奥には心配の色があった。
奏は病室の窓から差し込む光を見つめながら、静かに言った。
宵崎奏
志歩は目を瞬かせ、そして微笑む。
日野森志歩
その言葉に、絵名がにやりと笑う。
東雲絵名
病室に柔らかな空気が流れる。 外では夕焼けが広がり、 カーテンの隙間から差し込む光が志歩の髪を照らしていた。 奏が帰り際、そっと志歩の手に何かを渡す。 小さなICレコーダー。
宵崎奏
志歩はしっかりとそれを握りしめた。
日野森志歩
その瞬間、志歩の瞳に少しだけ“光”が戻っていた。
その次の日、VividBADSQADのBADDOGSの東雲彰人、青柳冬弥がお見舞いにやってきた瞬間...
日野森志歩
東雲彰人
青柳冬弥
青柳冬弥
東雲彰人
日野森志歩
その言葉の途中で、志歩の体が前のめりに崩れた。 「っ……!」 喉の奥からこみ上げる激しい痛み。 次の瞬間、赤い血がこぼれ落ちる。
青柳冬弥
東雲彰人
床に滴る赤。 彰人は慌ててナースコールを押し、 冬弥がタオルで志歩の口元を押さえる。 志歩の唇は青白く、目の焦点が合わない。
東雲彰人
青柳冬弥
ドアが開き、看護師が飛び込む。
看護師
酸素マスク、ストレッチャー、 慌ただしい声。 志歩の手がわずかに震えながら、彰人の袖を掴む。
日野森志歩
東雲彰人
声がかすれる。 冬弥は俯き、ただその光景を見つめることしかできなかった。
― 手術室の灯 ―
赤いランプが点滅する。 手術中のサイン。 廊下の椅子に座る彰人と冬弥は、 何も言えずにただ祈るように時間を見つめていた。
青柳冬弥
東雲彰人
言葉の奥に、震えた決意があった。 数時間後―― 手術室のランプが消え、医師が姿を現す。 「手術は成功しました。 ただし状態が不安定なので、しばらくICUでの管理が必要です。」 冬弥と彰人は同時に立ち上がった。 安堵と、まだ拭えない恐怖。 病室へ運ばれる志歩の姿。 透明な管に包まれたその体を見て、彰人は小さく呟いた。
東雲彰人
ICUの扉が静かに閉まる。 夜の病院に、機械の音だけが規則正しく響いていた。
ICU
一歌咲希穂波「志歩!/志歩ちゃん!!!」 緊急だと冬弥から聞いて駆けつけた一歌たち。
日野森雫
姉である雫は駆けつけてICUの方へ向かい、志歩の姿を見ると崩れ落ちる。
廊下を駆け抜け、息を切らしながらICUの前まで来た。 ドア越しに見えたのは、無数の管に繋がれ、酸素マスクをつけた 志歩の姿。 その光景を見た瞬間、 雫の足が止まり、次の瞬間、崩れ落ちた。
日野森雫
看護師が慌てて支える。 その横で、彰人と冬弥が沈黙のまま立ち尽くしていた。 冬弥の手はまだ震えていて、彰人は拳を握りしめたまま動けない。 医師が淡々と説明を始める。
医師
雫は涙をこぼしながら、震える声で問う。
日野森雫
医師は静かに頷いた。
医師
雫はその場で顔を覆った。 ステージの上では決して見せなかった泣き顔。
日野森雫
その声は、ドアの向こうの志歩には届かない。 けれど、その“想い”だけがICUの静寂に確かに滲んでいた。 彰人が小さく呟く。
東雲彰人
雫はゆっくり顔を上げ、目元を拭った。
日野森雫
モニターの音が一定のリズムを刻む。 それが、かすかな“希望の音”の ように聞こえていた。