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朝の光が白いカーテン越しに差し込んでいた。 志歩はゆっくりと上体を起こし、 深呼吸をする。 昨日より少し体が軽い気がした。 枕元のスケッチブックを開くと、 前の夜に書いた言葉が残っている。 『明日、行ける。』 その文字を指でなぞりながら、 志歩は小さく微笑んだ。 ⸻ 支度といっても、まだ完全には元気じゃない。 それでも今日は特別だ。 お気に入りだった帽子を手に取り、鏡の前で被ってみる。 髪はもう短く、帽子の下から少しだけのぞくくらい。 それでも、悪くないと思えた。 病室のドアがノックされる。
看護師
看護師が顔をのぞかせ、優しく言った。
看護師
志歩はスケッチブックを掲げて“ありがとうございます”と書く。 ⸻ 外に出る前、窓を少しだけ開けると、春の風が頬を撫でた。 “こんなに暖かい風、久しぶりだな……” そう思いながら、志歩はカーテンの向こうの青空を見上げた。 スマホが震える。 画面には“彰人”の名前。 『病院の前で待ってる。ゆっくりでいいから。』 その短いメッセージを見て、志歩は胸の奥がじんと熱くなった。 ⸻ 小さなカバンを肩にかけ、 ナースステーションへ挨拶をして、 エレベーターのボタンを押す。 「退院じゃなくても、今日は特別な日だ」 自分にそう言い聞かせながら、 志歩は外の光へと歩き出した。
病院の玄関を出ると、少し眩しい光が目に刺さった。 久しぶりの外気は少し冷たくて、それでも心地よい。 志歩は帽子を押さえながら、 ゆっくりと歩を進める。 その先に、待っている人がいた。 街灯の影にもたれ、スマホをいじっていた彰人が顔を上げる。 目が合うと、彼は小さく笑った。
東雲彰人
志歩はスケッチブックを開き、 ペンを走らせる。 『約束だから。』 その一文を見た彰人は、少しだけ照れくさそうに頭をかいた。
東雲彰人
短いやりとりだけど、そこにはいろんな想いが詰まっていた。 無言のまま並んで歩き出す。 車の音、人の話し声。 世界が、まだ自分を受け入れてくれているような気がした。 ⸻ 近くの公園に着くと、桜がちらほら咲いていた。 志歩はベンチに腰を下ろし、息を整える。 彰人はコンビニの袋を差し出した。
東雲彰人
日野森志歩
東雲彰人
彰人が顔を背け、志歩はくすっと笑う。 その笑いは、久しぶりに音を伴った。 かすれた声だったけど、確かに笑っていた。 ⸻ 風が髪を揺らし、空を流れる雲が ゆっくり形を変える。 志歩はスケッチブックを膝の上に置き、少しの沈黙のあと書いた。
日野森志歩
彰人は少しだけ間を置き、真っ直ぐに答えた
東雲彰人
その言葉に、志歩の目が潤んだ。 "ああ、ここが生きてる世界なんだ。” そう感じられた瞬間だった。