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他人の心を操る、ですか。

そうです。
ただ、少し言い回しが違います。

他人を「操作」するんです。
彼は。

ははあ。
私などには、同じに聞こえますが。

そんな事が可能なんですかね。

出来ます。
皆知らないだけで、同じような事は意識的に、無意識的に行われてるのです。

彼だけが特別ではないです。

具体的には、どのような?

その、彼は「自分を好きにならせる」とか仰ってましたが。

はい。
彼は、自分に「好意を向けさせる」天才だったのです。

それは、ええと、失礼ですが女たらしなだけとは、違うのですか?

違います。
まず、目的が違う。

目的?

いわゆる女たらしは、その、女性と「そういう関係」になる事を最終目的にしているじゃあ、ありませんか。

ははあ。
ヤり捨て、というヤツですな。

こほん。

失礼。
続きを。

彼の場合は違うのです。
彼の目的は

「好意を向けさせる事」

それ自体にあるのです。

それは、また、いったい何故。

解りません。
解りませんが、彼は、他人からの好意を集めていたのです。

それが出来るなら羨ましい話ですが、そんな事が本当に?

出来ます。

彼は、相手の欲望を読み取ります。

そして、相手が「言って欲しい言葉や反応」を与えます。

可愛いと言って欲しい人には「可愛いね」と。
能力を認めて欲しい人には、「凄いね」と。

それは、とても良い事ではないのですか?

一見、そう見えます。

でも彼は、相手が「して欲しい事」は行いません。

ほう?

相手に「期待」させて、それ止まりにするのです。

期待、とは?

「自分を好きになってくれる」期待です。

ははあ。

人間には、返報性の法則というものがあります。
ご存知ですか?

貰ったら返さなければならない気になる、という、あれですか。

そうです。
逆に言えば、人間は、返ってこない相手には与えようとしません。

与える。
返る。

人間は、そういったやり取りで、関係性を築いていくものなのです。
だから。

脈の無い相手には、ハナから与えようとしない。ですか。

そうです。
そうです。

人は、好意が返るのを期待するから、好意を向ける。

あ!
解ってきましたよ。

つまり、その彼は、好意を返される期待を、相手に持たせる訳ですか。

そうです。
そうやって、相手に好意を向けさせる訳です。

ははあ。
なるほど。

それと、今回の事件と、どんな繋がりが?

信じて頂けないとは思います。今は。

それは、聞いてからですよ。

はい。

彼は、

彼は、「好意」を収集したのです。

んー。
人気を集めるのは悪い事ではない気が。

違います。

文字通り「集めた」のですよ。
コレクション。

ほう?

信じては頂けないとは思いますが……

蝶なのです。

蝶。

彼に魅了された女性は……女性に限りません、が

絶望する事になるのです。

何故です?
望む言葉をくれるのでしょう?

そりゃあ、恋は叶わないかも知れませんが、そんなのは良くある話だ。

叶う者も居ます。

居ますか。

叶って、そして、絶望するのです。

さあ、また解らなくなってきた。

望むような甘い言葉をくれる男と恋仲になって、何故絶望などするのです。

それは

「逆」になるからです。

ほう?

彼は、赤の他人には優しい甘い言葉と笑顔を向けます。

しかし、恋人に対しては、逆になる。

釣った魚に餌をやらない、というヤツですかね。

それだけなら、まだ良いです。

彼は、「試す」のです。

赤の他人には、相手が欲しい言葉を向ける。

しかし、恋人に対しては、相手が厭がる言葉を向け、相手が傷付く行為を行う。

彼は、相手の「欲望」を読み取りますから、それに伴う羞恥心や後ろめたさ、罪悪感なども、読む。

それを、突く。

待って下さい。

それは、それでは、その恋人に嫌われてしまうのでは。

ところが、そうはならないのです。

恋人は、その頃にはもう、彼に嫌われまいと必死になっていますから。

はあ、そういう……

彼は、それを「試す」のですよ。

どれだけ罵倒されても、どれだけ酷い仕打ちを受けても、自分を捨てないか。

それは……別れてしまえばいいです。
我慢する事ない。

出来ないのです。

自分が彼に愛されたがるのも、離れる事も、どちらも禁じられます。
彼に。

どうやって。

「罪悪感」です。

彼は、相手の罪悪感を突くのが天才的に上手い。

そうやって、愛されるでもなく、逃げられるでもなく

ただ、彼に愛情を注ぐだけの存在となり

彼の罵倒の通りに自分を否定し卑下するようになる。

そ、それは。
それは余りにも。
それでは、その「恋人」は

壊れます。

ああ……

人としての存在が壊れ、人の形すら保てなくなる。

それで、それでどうなります。

蝶。

あ、あ、貴女は。

貴女は、蝶々が、彼を殺したとでも、仰るのか!!

刑事さん。

それは、私の口から言わせなければいけなかったのではないですか?

あ……

蝶々たちは。

展翅板にピンで留められました。

乾いたそれらは、彼の指先でパサパサと押し潰されました。

……

信じますか?

俺は……いや。
俺、は……。

蝶々の鱗粉の情報は、外部には漏れてない、筈だ……

信じますか?

彼は、外面が完璧なので、こんな話は誰も信じないのですよ。

信じて、くれますか?

突如、視界を何千何万の蝶々が埋め尽くした。

その青い洪水が消え去った後

女が座っていた椅子には

その蝶は1度羽ばたくと、するりと空気に溶けて

消えた。

刑事さん。

理解して頂けましたか?

彼が、「何を」したのか、を。

---------- #呟怖 彼は、他人に好意を向けさせる天才だった。 女達は彼に夢中になった。 自分の技能に、彼は陶酔した。

好意は乾いた蝶々のようにピンで留められた。 それらは指先でパサパサと押し潰されていった。 潰れた蝶々を眺めても、彼は満足しない。

乾いた砂漠が水で満たされる日は、来るのだろうか。 ----------

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