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母が死んでから数日。 僕は飛行機に乗っていた。 窓の外を見つめる。 雲が流れていく。 母さんも。 兄弟たちも。 どんどん遠くなっていく気がした。 僕の名前は笑海透空。 九つ子の一人だった。 もう。 みんなバラバラになってしまったけど。 飛行機が到着する。 職員さんに連れられて向かった先は、一軒の家だった。 玄関が開く。 そこには優しそうな夫婦が立っていた。 二人とも少し緊張している。 だけど。 嬉しそうだった。
かあさん
かあさん
あぁ…
その言葉に胸が少し苦しくなった。 家族。 その言葉を聞くと。 どうしても母さんを思い出してしまう。 だが、僕は頭を下げた。
エメラルド
家の中へ入る。 壁には写真が飾られていた。 だけど。 子どもの写真は一枚もない。 夕食の時。 男性が少し照れながら話し始めた。
とおさん
とおさん
かあさん
その言葉に嘘はなかった。
二人とも本当に嬉しそうだった。
しばらくして。 女性が優しく言う。
かあさん
かあさん
かあさん
胸が少し痛んだ。 母さんが付けてくれた名前。 兄弟と繋がる名前。 でも。
戻れない
戻らない
かあさん
かあさん
その名前が部屋に響く。 日向翔陽。 知らない名前だった。 でも。 二人は本当に嬉しそうだった。 だから。 僕は笑った。
エメラルド
エメラルド
その夜。 新しい部屋。 新しいベッド。 新しい天井。 静かだった。 静かすぎた。 僕は引き出しから写真を取り出す。 母さん。 兄弟たち。 みんな笑っている。
エメラルド
涙がこぼれる。 止まらない。 僕は声を押し殺した。 心配をかけたくなかった。 新しいお父さんとお母さんは優しいから。 だから。 泣き声は聞かれたくなかった。
数か月後。 父親の仕事の都合で海外へ引っ越すことになった。 そこはバレーボールが盛んな国だった。 学校でも。 公園でも。 みんなバレーをしている。 ある日。 体育館の前を通った。 ボールの音が響いている。 楽しそうな声が聞こえる。 翔陽は立ち止まった。 しばらく見ていた。 なぜか。 胸が少し軽くなった。
翌日。 もう一度見に行った。 その次の日も。 そして。 気付けばボールを触っていた。 最初はただ。 悲しいことを忘れたかっただけだった。 母さんのこと。 兄弟のこと。 思い出すと苦しかったから。 だから。 必死にボールを追いかけた。 走った。 跳んだ。 打った。 気付けば。 夢中になっていた。 バレーをしている時だけ。 寂しさを忘れられた。 涙を忘れられた。 だから翔陽は。 誰よりも練習した。 誰よりも高く跳んだ。 誰よりも前を向いた。 いつか。 兄弟たちに会えた時。 胸を張れるように。 その日から。 日向翔陽の新しい人生が始まった。
コメント
1件
うわあ……九つ子がバラバラになって、一人で新しい家庭に迎え入れられる場面、すごく胸にきました。特に母親が「今日からあなたは日向翔陽」と名前を変えるシーン、透空くんが「いい名前だね」って笑顔で返すところが切なくて。夜中に写真を見て声を♡♡♡て泣く姿も、新しい親を気遣う優しさが痛いほど伝わってきました。バレーに没頭する理由が「悲しいことを忘れたかったから」っていうのも、彼の必死さが滲んでいて……。この先、兄弟と再会する日が来るのか、すごく気になります。コムムさん、繊細な心情描写が本当に上手いですね。ほろりと来ました。