早乙女 瑠花
核山 康一
前回のあらすじ。 地下の拷問部屋にて。間一髪敵に殺されそうになった瑠花を助けた康一。しかし彼が機関銃を乱射したことにより、拘束具の鍵が棚の下に入ってしまったのだ。
スマホのライトで照らしながら、瑠花を叩きまくった女の信者の鞭を使って、なんとか鍵を取り出そうとする康一。
核山 康一
核山 康一
鍵を取り出そうと棚の下で鞭を振ると、康一は何かやらかした表情をして、動きが止まった。
早乙女 瑠花
核山 康一
核山 康一
早乙女 瑠花
〜広間〜
ヒュン!
グササササッ!!
神楽 凜々愛
一方その頃、凜々愛は四方八方から槍が飛んでくるトラップだらけのだだっ広い広間で交戦していた。
いや、交戦とは言えないかもしれない。なぜなら信者の男は広間の奥の壁沿いに突っ立っており、壁に埋め込まれた沢山のスイッチを押して、槍を飛ばしているだけであり、肉体戦をするつもりは全くもってないようだった。
信者(槍)
神楽 凜々愛
男は腕を組んで感心して凜々愛を見物にして言った。
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
飛んでくる槍を斬り捨てたり避けながら、凜々愛は悟った。
確かに幹部とは1人ではなく複数人いるもの、「組織の中心となる人々」という意味でもあるので、無論ボス(教祖)も含まれている。ただしコイツは教祖ではないと言ったから違う。ならば……
ヒュン!
ズバズバズバッ!
凜々愛は目の前から飛んできた槍を全て斬り捨てた。
カランカラン…
神楽 凜々愛
槍の残骸が床に落ちると同時に、凜々愛の慈悲の欠片もない濁った目がこちらを睨みつけていた。
信者(槍)
信者(槍)
男は起動スイッチを操作しながら不思議に思った。実際 凜々愛の刀術は繊細で美しく、その姿はまるで蝶のようだった。しかしそれは人間では到底できないような動きで、腕のいい傀儡師(かいらいし)が操っている人形のようにも見えた。おまけに眉一つ動かさない。
信者(槍)
神楽 凜々愛
信者(槍)
神楽 凜々愛
そうボソッと呟いた男を威圧を含めて睨んだ。自分はこの異名を気に入っていないからだ。
信者(槍)
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
ここでおさらいしよう! このカルト教団は詳細は未だ不明だが、あるマフィアの幹部が教祖として経営している。そのため、教祖は殺してはならないである。理由は後ほど説明します…
信者(槍)
信者(槍)
信者(槍)
ヒュン!
神楽 凜々愛
男は高笑いをして起動スイッチを操作した。すると凜々愛の両サイドから大量の槍が飛んできた。凜々愛は槍が交差する前に後ろへさがって避けた。
グササササッ!
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
ヒュン!ヒュン!
グササササッ!
神楽 凜々愛
今度は真上から。
次に床から、その次は正面から……凜々愛が避けた場所を目掛けて槍が飛び出てくる。しかもどんどんペースが早くなってくる。おまけに床に転がっている信者の死体は幹部に慈悲の目も当てられず、串刺しになっている。
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
グラッ
神楽 凜々愛
幹部の方を向いたまま後ろへ下がった時、不覚にも足でまといの冷たくなった信者の腕を踏んでバランスを崩した。
神楽 凜々愛
信者(槍)
ヒュン!
男が声を漏らした時、凜々愛の背後からこちらへ1本の槍が飛んできた。
グサッ!
その槍は男の横っ腹の真横に刺さった。今のは男の操作ミスだ。しかし男は全く動揺せず右腕をあげて軽く避けていた。
神楽 凜々愛
凜々愛は運良く後ろへ転んだお陰でギリギリ串刺しなならずに済んだ。
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
起き上がるといつも付けているペンダントが無いことに気づいた。
信者(槍)
男が足元に落ちている物を見つけた。 凜々愛のペンダントだった。先程 凜々愛が背中から転んだ時にペンダントの輪に槍が通り、千切れて落としてしまったのだ。そしてそれが男の足元まで飛んできたのだ。
信者(槍)
男はペンダントを拾って言った。 確かにそのペンダントはいかにも手作り感があって近くで見ると少し不格好だ。
神楽 凜々愛
信者(槍)
ピンクのダイヤの形をしたペンダントを軽く押すと、蓋が開いた。凜々愛の付けているのはロケットペンダントだった。
神楽 凜々愛
信者(槍)
声を張る凜々愛を煽るようにそのペンダントを見せて男は口角を上げて言った。
信者(槍)
「”双晶”か!」
神楽 凜々愛
男の言葉は図星だった。ロケットペンダントには少女時代の凜々愛と瓜二つの少年の写真が入っていた。
信者(槍)
信者(槍)
男はみるみる怒りが溢れ出てきた。さっきまでの楽観的な雰囲気はもうなくなっていた。空気がピリピリしている。
信者(槍)
男は声のトーンを低くして言った。
神楽 凜々愛
信者(槍)
信者(槍)
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
ダッ
凜々愛は駆け出した。一気に距離を縮め、ペンダントを取り返すためでもあり、男の首を斬り落とそう刀を振りかざした。その上、昔の標的を逃していたことに不覚、不愉快極まりなかった。
信者(槍)
信者(槍)
キィン!
男と至近距離になったところで横から飛んできた槍が当たり、凜々愛の手から刀が離れた。
神楽 凜々愛
信者(槍)
ドカッ!
神楽 凜々愛
信者(槍)
男は凜々愛のこめかみを思いっきり殴り、その場で倒れ込んだ凜々愛の頭を踏んで見下してそう言った。
神楽 凜々愛
凜々愛は男の足を押し退けて立ち上がり、拳を握りしめ殴りかかった。
信者(槍)
ドカッ!ドカッ!
ダァン!
ドカッ!
凜々愛の拳が当たる前に、男は凜々愛の両頬を往復で殴り、髪を掴んで壁に打ち付けた。さらに追い討ちで凜々愛の腹を思いっきり蹴飛ばした。
神楽 凜々愛
信者(槍)
ゴツンッ!
神楽 凜々愛
蹴飛ばされた時に運悪く、 床に刺さっていた槍に頭を打った。
信者(槍)
男はペンダントをぶら下げ、中の写真を見ながら言った。
信者(槍)
「もう片方は死んじまったんだな笑」
神楽 凜々愛
信者(槍)
信者(槍)
「だから死んじまったんだろう!!笑笑」
「俺らを襲った罰だ!!」
「ざまぁ見ろ ざまぁ見ろ!!笑笑」
「死んで当然だ!!笑笑」
ブチンッ!!
「はぁ?」
その言葉を聞いた瞬間、頭に血が一気に登った。それと同時に、お淑やかで無口な凜々愛が、普段は絶対に出さない腹の底から溢れる、見たくもないような どす黒さを感じる声が漏れた。
はらわたが煮えたぎるような激しい怒りが、人形のように表情を変えない凛々愛の冷静さをかき消した。
「おい…お前……」
怒りでさらに流血して真っ赤になった顔で、目を見開いて男を睨みつけた。
「今、なんて言った?」
信者(槍)
凜々愛から溢れ出す殺気に背筋が凍った
信者(槍)
信者(槍)
神楽 凜々愛
凜々愛は険しい顔をして怒鳴った。
神楽 凜々愛
信者(槍)
神楽 凜々愛
ダッ!
凜々愛は弾かれた自分の日本刀の方へ駆け出した。
信者(槍)
ヒュン!
男が再び起動スイッチをおすと、凜々愛の前後の壁から数本の槍が飛んできた。
サッ
前後の槍が交差する前に、凜々愛はグッと姿勢を低くして避けた。
グルンッ!
パシッ
そして、そのまま床に刺さっている槍を掴み、遠心力を利用して一回転ながら刀を拾い、再び男の方へ駆け出した。
信者(槍)
ヒュン!
信者(槍)
今度は正面以外にも、横や上から槍が同時に飛んできた。
神楽 凜々愛
ズバッズバッ ズバッズバッ!!
しかし凜々愛は避けることは全くせず、飛んできた槍を、血迷ったかのように刀を振り全て斬り捨てた。
信者(槍)
信者(槍)
信者(槍)
ヒュン!
今度は凜々愛が地に着いた床から10本ほどの槍が真上へ飛び出した。
ズバッ!!
信者(槍)
男が瞬きをした隙に、凜々愛は高く跳躍し飛び越え一気に槍を全て斬り捨てた。
信者(槍)
信者(槍)
信者(槍)
男が混乱しているうちに、凜々愛は空中で体制を変え、男の首を狙った。
信者(槍)
「”双晶”おお!!」
男は殺しにかかる凜々愛を睨みつけながら、”かつての凜々愛”の異名を叫んだ。
ザシュッ!
”双晶”という異名は、2人で1つだから付けられた異名だった。
ボクは双子だった。
ボクには双子の弟がいた。 彼の名は璃玖斗(りくと)。
命より大切なボクの最愛の弟
〜10年前〜
ボクと璃玖斗、そして幼なじみの悟郎は”山吹村”で生まれ育った。
悟郎は山吹村の村長の孫で、ボク達神楽家は代々、狼石家(村長)のNO.2だった。当然ボク達の父親もそうだった。
でもボク達が7歳になった時、両親が任務で帰らぬ人となり、ボクらは次のNO.2になる故、狼石家の養子として悟郎と本丸で暮らすことになった。
悟郎・少年時代
凜々愛・少女時代
璃玖斗
この頃には既に殺人術を叩き込まれていた。10歳から殺し屋として駆り出されるのだから。これが村の掟だった。
普通の子供ではないことも、裏社会で生きることは承知の上でも、幼馴染みの悟郎と過ごす時間はボクも璃玖斗も楽しかった。ずっと続いて欲しかった。
それから3年後、殺し屋になるための試験を3人で乗り越えた後、ボクと璃玖斗は息ぴったりの刀術を活かして、”2人で1つ”の殺し屋、後に”双晶”と呼ばれるようになった。ついでに言うと、この頃のボクは璃玖斗とお揃いがよかったから、髪は常に短く切っていた。だから誰もがボクらを見て双子だと気付いていた。
〜4年後〜
悟郎・少年時代
凜々愛・少女時代
璃玖斗
悟郎・少年時代
ボクと璃玖斗が14、悟郎が13になった時のことだ。ボクと璃玖斗が任務に行く時、悟郎が涙目で心配そうに聞いた。
凜々愛・少女時代
璃玖斗
悟郎・少年時代
「「……うん。 行ってくるね」」
今思えば、あの時が悟郎と璃玖斗の
最後の会話だった。
その日の任務は、ある和風マフィアの始末だった。
そして、そのマフィアのボスは昔、ボク達の両親を殺した張本人だった。
ボス
この任務はボクも璃玖斗も、両親を奪った怒りでこみあがっていて、いつもの冷静さはなかった。今思えばそれが欠点だったかもしれない。
…いや、その敵もかなり強かった。何せ刀術に特価した”山吹村”のNO.2に値する両親ですら歯が立たなったということも納得してしまったぐらいだった。
ザシュッ
凜々愛・少女時代
璃玖斗
不覚にも敵に切りつけられた。傷は深く、再び戦うことが難しかった。
璃玖斗
ボス
ボス
璃玖斗
璃玖斗
この時、璃玖斗の怒りがピークに達していた。もう、彼を止められない。
ボス
璃玖斗
凜々愛・少女時代
璃玖斗
そこからは見たくもない光景だった。
(……い、嫌だ)
璃玖斗が傷だらけで、身体中血塗れで、
左腕を切り落とされて悲鳴を上げても、再び立ち上がって戦い続けていた。
「璃玖斗!!」
「く…来るな…! 凜々愛…!!」
「……っ!」
2人で1つの”双晶”なのに、 どうして?1人で戦うの?
(……嫌だ。やめて)
(そんな戦い方しないで!)
璃玖斗によって敵から距離をとった安全地帯から、ボクは見ているだけだった。
それしか出来なかった。 いや、何もできなかった。
(やめろ…それ以上、 璃玖斗を傷つけるな…!)
その想いは、届かなかった。
ザシュッ!!
敵の首を切ったのと同時に、璃玖斗の胴体から大量の血しぶきが出た。
「璃玖斗ー!!」
力を振り絞って璃玖斗の元へ駆けつけた。相打ちだった。
「璃玖斗…!璃玖斗…!」
「カハッ…り、凜々…愛……?」
「……よ、良かった。無事だったん…だね」
ボクの腕の中で、致命傷を負った璃玖斗は虫の息だった。
「嫌だ…!死なないで…! お願い璃玖斗!」
「ごめん…凜々……愛。一緒…に、いて…あげられ、なく…なっ、て……」
「黙って…!すぐに……」
「ねぇ…凜…々愛……」
「ボクは……君と、双子に、生まれて……よかっ…た」
涙を流した璃玖斗は僅かな力で、 血を吐きながら言った。
「…っ!」
「悟郎…たち、にも……伝えて……ありがとう……て」
「い、嫌だ…! 嫌だよ璃玖斗ぉ…!」
涙が止まらない。 璃玖斗の体温が冷たくなっていく。
「最後に…お願、い……」
「ボクが……死ん…でも……ボクらは…2人で、1つの…”双…晶”……だから……」
「凜々愛…だけは…生きて……」
ボクの頬に手を当てて言った。
「愛し…て…る……」
そして……その手は落ちた。
「璃玖斗…?」
返事は無かった。璃玖斗の出血は止まり、体温は冷たくなっていた。
「璃玖斗!璃玖斗!!」
見ると璃玖斗の瞳孔が拡大していた。彼はボクに優しい微笑みをかけながら、 二度と動かなかった。
「うっ……」
「うあああああ!!!」
ふざけるな
あの子を傷つけるな
あの子を侮辱するな
何も知らないくせに
あの時の、璃玖斗の苦しみも
あの時、璃玖斗を失ったボクや悟郎の悲しさも
何度も死んでやろうかと嘆いて、散々憂いた、
未だに引きずってしまう事も
何も…
「凜々愛!!」
神楽 凜々愛
誰かがボクの腕を握って止めた。
気付いたら首を切り落とした敵に馬乗りになって、刀で何度も刺していた。
そういえば、璃玖斗が死んだ後も、怒りのあまりに 璃玖斗と両親を殺したあの男を滅多刺しにしていたな。
百峰 桃音
声の主は桃音だった。
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
傷だらけの桃音の胴体の大きな傷を見て言葉を失った。
百峰 桃音
神楽 凜々愛
百峰 桃音
百峰 桃音
神楽 凜々愛
桃音は愛想笑いで言った。 なんか初めて一緒に任務に来た時もこんな感じだったな…チェンソー食らっても平気な顔見せた時の。
※第2話「人斬り人形」参照※
神楽 凜々愛
百峰 桃音
神楽 凜々愛
百峰 桃音
桃音が周りを見渡して言った。周囲は死体ごと床や壁、天井にまで刺さった多くもの槍。そして凜々愛が斬り捨てた槍の残骸がちらほらと落ちている。
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
凜々愛は日本刀の刃を見ながら言った。 璃玖斗の死を思い出して目が濁っていた。目の前が黒い霧に覆われたように暗く感じた。あぁ、またこれだよ。
百峰 桃音
百峰 桃音
桃音は切り替わって、凜々愛のロケットペンダントを渡して言った。
神楽 凜々愛
百峰 桃音
百峰 桃音
その言葉でハッとした。 目の前の霧が晴れた気がした。
そうだ。前に進まなきゃ。 璃玖斗が死に際に言ってた。 「凜々愛だけは生きて」って。
あの子の分も生きるんだ…! 例え今は”たった1人”の”人斬り人形”でも、ボクが”双晶”の片割れであることには変わりない…!
このロケットペンダントだって、あの後悟郎が頑張って作ってくれた物…! ボク達が”2人で1つ”の ”双晶”である証なんだ…!!
神楽 凜々愛
凜々愛はペンダントを受け取り、付けた。2人は立ち上がり、次へ進む奥の扉へ向かって駆け出した。
すると凜々愛は一旦立ち止まり、振り返って首が切り落とされた滅多刺しの男の死体を睨んだ。
神楽 凜々愛
百峰 桃音
コメント
2件
蝶って表現の仕方がめちゃくちゃ綺麗ですね!!🦋✨ 相方の危機に駆けつける桃音ちゃんかっこよ過ぎます🙈💖💖