扉から出ると、また石レンガに挟まれた石畳の道に出た。
それと、ガイド妖精が待っていた。
ガイド妖精
ガイド妖精は、それだけ言うと、ふよふよと通路の奥へと進んでいった。
もう次の問題が始まったようだ。
シシロウ
シシロウが走り出し、ぼく達もつられて後を追う。
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ユウゴ
ガイド妖精の進むスピードは、ぼく達が歩くよりも遅く、走らなくとも歩いているだけでも追い抜いてしまいそうだ。
ガイド妖精と付かず離れずの距離を保ちながら進んでいくと、これまでの石レンガに挟まれた通路から、広い空間に出て視界が一気に広がった。 道の左右には壁がなく、暗い闇が果てなく広がっている。
つまり、道の左右は断崖絶壁だ。
アルク
アルクが道のはしから下をのぞいてつぶやく。
見えないのは下だけじゃない。
空間全体が真夜中のように闇に包まれていて、道そのものも10メートルくらい先までしか見えない。 まさか、その闇の向こうで道が途切れて無くなっているということはないだろうけど。
シシロウ
シシロウが一歩前に出て、右手をかざす。
火を出して、灯りの代わりにするつもりみたいだ。
シシロウ
シシロウの手のひらから、パスっと湿気ったマッチのような音がして、細い煙が一本のぼっただけだった。
シシロウ
水を沸騰させるって、すっごい熱量使うしね。
なんてことをやっている間にも、ガイド妖精は道の上をまっすぐと進んでいく。
ペースは変わらず歩くよりもゆっくりだから、落ち着いて歩けば灯りがなくても置いていかれることはないだろう。
道の両はしを避けて真ん中を歩いているうちに、自然と縦並びの隊列になっていった。
先頭がシシロウで、その後ろにアルク、ぼく、ユトリと続いていく。
アルク
最初に異変に気がついたのはアルクだった。
ユウゴ
アルク
一度立ち止まりアルクの足元を確認してみたが、特に何も見つからなかった。
シシロウ
シシロウが振りかえって、ぼく達に声をかける。
少し離れてしまったので、小走りで距離を詰める。
ユトリ
急に走ったせいか、ユトリがつまずいてぼくの背中にぶつかった。
ユトリ
すぐに離れるユトリ。
さっきの隠し通路での件もあったから、なんとなく気まずくなって、ぼくとユトリはお互いに目をそらした。
アルク
そんなぼく達の様子を、アルクが楽しそうにしたからのぞき込んできた。
アルク
吊り橋効果と言うのは、恐怖心でのドキドキを恋愛感情のドキドキだと勘違いして、その時近くにいる人を好きになってしまうことを言う。
シシロウ
先頭を歩いていたシシロウの足元の石畳が、左右にゆらゆらと揺れている。
ユウゴ
気がつくと、ぼくの足元も揺らぎ始めていた。
立っていられないほどじゃないけど、真っ直ぐ歩くのが難しくなってきた。
さっきアルクがやわらかい物を踏んだと言っていたけど、地面そのものがやわらかくなっていたんだ。
シシロウ
シシロウが振り返らずに、ぼく達にアドバイスする。
こんな揺れる道ではしに行ったら、そのまま暗闇に投げ出されそうだ。
前を見ると、少しずつガイド妖精が遠ざかって行く。
揺れる地面に気を取られて、歩くスピードが遅くなっていたんだ。
走ると地面の揺れが大きくなるので、慎重に速歩きくらいのペースでガイド妖精を追いかける。
ユトリ
ぼくの後ろでユトリがころんだ衝撃で地面が大きく揺れ、波が前を歩くシシロウのところまで届いた。
ユウゴ
シシロウ
みんな、足を踏ん張って揺れに耐える。
ぼくが後ろを振り返ると、ユトリはよつんばいの体勢で持ちこたえていた。
ユトリ
ユトリは起き上がろうとしたが、地面が波打ち、また床に手をついてしまう。
シシロウ
ユトリ
ユトリは少し不満そう(と言うか恥ずかしそう)だったけど、みんなの足を引っ張ってしまうと思ったのか、渋々はいはいで進み始めた。
ユウゴ
はいはいだと歩くよりも、もっと進むスピードが遅くなる。
1番後ろのままだと気づかずに置き去りにしてしまうかもしれないと思って、ユトリに前をゆずった。
ユトリ
ユトリは恥ずかしそうにうつむいたまま、速足(速はいはい?)でぼくを追い抜いていった。
ぼくはみんなの1番後ろをついて歩いていく。
あたりは闇に包まれたままで、前を歩くシシロウやアルクの後頭部までは見えるけど、シシロウよりも先を飛んでいるはずのガイド妖精の姿は、見えなくなっていた。
はいはいで進むユトリからだと、見上げても前にいるアルクの背中に隠れて、ガイド妖精は見えないだろう。
アルク
今度はアルクがみんなに話しかけてきた。
シシロウ
シシロウがつま先で地面をコツコツと叩いてみせる。
これまでなら、その衝撃で地面が波打っているところだが、揺れるどころか振動すら感じない。 普通に石畳の地面を蹴った時と同じ、かたい音がした。
ユウゴ
ユトリ
ぼく達の話を聞いていたユトリが立ち上がろうとする。
グニャリ。
また地面がやわらかくなり、道全体が大きく波打ち、ぼく達全員が転びそうになった。
ユトリ
立ち上がろうとした不自然な姿勢で揺れに見舞われたユトリが、また両手を地面についた。
その瞬間、地面の揺れがなくなり、かたく平らな石畳に戻った。
アルク
シシロウ
いち早く何かに気づいたらしいシシロウが、ユトリに指示する。
ユトリ
ユトリがよつんばいのまま、左手だけ上にあげた。
すると地面の左側だけがやわらかくなり、道全体が少しだけ左にかたむいた。
ユウゴ
ユトリ
ぼくがわざわざ言うまでもなく、揺れでバランスを崩したユトリは、左手を地面についた。
地面がまたかたくなった。
シシロウ
ユトリ
シシロウ
シシロウ
アルク
アルク
ユトリ
ユトリ
ユトリが立ち上がろうとすると地面がグニャリとやわらかくなるので、よつんばいの体勢は崩せない。
アルク
ユトリ
ユトリ
シシロウ
ユトリ
話している間もガイド妖精は、ゆっくりと前に進んでいる。
ユウゴ
シシロウ
ユトリ
ユトリ
ユトリは一度うなずいたあとで、何かを言いたげに口ごもった。
アルク
アルクが手を上げて、ユトリの後ろにつく。
シシロウ
アルク
ユトリ
ユトリ
ユトリ
ユトリ
アルク
ユトリ
ユトリが顔を真赤にしてうつむいてしまった。
シシロウ
はいはいで進むユトリが先頭、2番目がアルク、3番目がぼく、最後をシシロウという順番で行軍は再開した。
シシロウが3番目ではなく最後になったのは、
シシロウ
と、ぼくの後ろに移動してきたからだ。
ユトリの地《テラ》の魔法の効果は良好で、これ以降は地面がやわらかくなることもなく、順調に扉のある場所までたどり着いた。
ガイド妖精
という音声を残して、ガイド妖精は消えていった。
ユトリ
扉を前にして、ユトリが立ち上がった。
アルク
アルクがバランスを崩して、後ろに倒れてきた。
地面がまたやわらかくなって、大きく揺れだしたからだ。
ユウゴ
とっさに両手を広げて受け止めて、なんとか転ばずにすんだ。
ユトリ
扉の前の地面だけは硬い普通の石畳のようで、ユトリは普通に立って待っている。
シシロウ
シシロウがぼくとアルクの横をスタスタと素通りして、扉の前まで歩いていった。
ぼくとアルクも揺れが収まるのを待ってから、扉の前まで歩いていく。
ユトリがアルクに近づいて、そっと耳打ちする。
ユトリ
アルク
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