「入れ」
通された部屋は一面真っ白の、何もない空間だった。
…… 真ん中にこれまた白い長机が設置されいている以外、何もない部屋だ。
白い長机には、相変わらず白い箱が2つ置かれている。
「机の前に立て」
看守がよく響く声で、そして偉そうに俺に命じた。
__俺は囚われの身。 結構えげつない事をして収容所に収監されている。囚人だ。
だから看守さまの言う事は絶対だ。
それに本来なら重刑モンの俺だが、この白い部屋で「ある事」をすればシャバに出れるらしい。
やるしかねぇだろ。 俺は鼻歌混じりに長机の前に立った。
看守は携帯用トイレやら軽食やらを乱暴に長机の空いたスペースに放ると、最後に俺の両手首に手錠がしっかりと施錠されている事を確認し腕を組んで再び命じた
「順番に箱の中に手を入れて中の物を1つずつ取り出せ」
箱は上面の真ん中に、人の手首が通せるほどの穴が空いてるだけだ。 くじ引きとかでよく使うあれみたいな感じだ。
中にナニが入ってるかは覗き込んでもよくわからなかった。
昭和のテレビのワンコーナーかよ 、と戯けてみたが看守は「さっさとしろ」と取り合ってくれない。
箱の中のナニかを取り出す、 それだけでシャバに出られるんなら、いくらでもやるけどよ
おりゃ 、と気合いを入れて箱の中に手を突っ込み__
取り出したのは、何の変哲もないテニスボールくらいの大きさの黒いボール。
もう1つの箱にも同様に、黒いボールが入っていた。
長机に置かれた2個の黒ボール。 真っ白の空間に黒は異様に浮いていた。
看守は黒ボール2個を一瞥し、 再び命じた。
「箱に戻せ」
もう戻すのかよ。 言われるがままボールを箱に戻し__
「もう一度順番に箱に手を入れて1つずつ中の物を取り出せ」
今度は黒ボールと白いボールが出て来た。 おお、白もあったのか…
「箱に戻せ」
__再び戻せと言われた。 そこからは同じ作業の繰り返しだ。
ボールを出しては戻し、また出す。 本当にこれだけだ。
これだけの作業でシャバに出られるんならいくらでもやってやるよ!
そう思っていたのはいつまでだっただろう。
もうどれだけ同じ作業を繰り返したか分からない。
時計も窓もないので、この部屋に通されてからどれだけ、或いは何日経ったのかも分からない。
好きなタイミングで用意された軽食は摂れる、睡眠だって取れる
でも、箱からボールを出して戻す作業は課せられる。食事や睡眠の時間が長すぎると強制的に作業に戻らされる。
携帯トイレのみでしか排泄は許されていないから部屋の外に出る事もできない。 交代で看守が1秒たりとも目を離さず俺を監視している。
俺の腕は、もう脳からの伝達を聞いてくれない。
「箱の中身を出せ」
意識せずとも俺の腕が箱に向かった。
………
……
…………もう、いやだ
同じ作業の繰り返しで、筋肉がいかれてしまったのか、もう腕に感覚がない。
箱とボールしか見ていない。 長机以外の空間に、ピントは上手く合うだろうか。
自分が立ってるのか座ってるのかも分からない。 もういやだ、大声でも出したら誰か終わらせてくれるだろうか
……声ってどうやって出すんだっけ。 涙が溢れた。
無機質な看守の声が降ってくる。 「箱の中身を出せ」
……
おれのうでは、すいこまれるように あなのなかにきえた。
問: 黒いボール4個が入った箱と白いボールが2個入った箱が2つある。それぞれの箱からボールを1つずつ取り出すとき、黒いボール2個が出る確率と、それぞれ異なる色が出る確率を求めよ。
お兄ちゃんが忘れ物したらしい。
私に電話がかかってきた。 「どうしても必要な物だから持って来て欲しいと」
いや、お兄ちゃんが取りに戻ったらいいじゃん
私がそう言うと、「そうはいかない」と返ってきた。
「俺は分速80メートルでB地点に向かって移動しなきゃいけないんだ」
わけがわからない。
「とにかく頼む!忘れ物を持って分速80メートルで移動してる俺を追いかけに来てくれ!」
私は頭を抱えた。
忘れ物を私が届けに行くのは別にいい。お兄ちゃんはB地点にしか進めない?らしいし。
でも分速80メートルでって何だろう? 自分の歩く早さ、1分で80メートル進むってはっきり断言できる?
もしかして常に一定の速度で歩いてるのかな?
…ありえないと思うな。 信号だったり、障害物を避けたり。どうしたって速度は変動する。
何より人間の足だもん。 疲れたら遅くなる……え、待って
お兄ちゃんは分速80メートルで「移動してる」って言ってた。 つまり徒歩じゃない?
でも自転車だって同じ事だし… 常に一定の速度って…
え、 セグウェイ??
セグウェイなら速度は一定! 、になるのかな、たぶん
え、まさかセグウェイで信号とか無視してる? 一定の速度でB地点を目指してる?
忘れ物どころじゃない! 道交法違反だよお兄ちゃん!
…お兄ちゃんが帰ってきたらお説教しなきゃ。 とりあえず忘れ物を届けよう。
そう思って玄関を出ると、 都合の良い事にセグウェイが転がっていた。
え、なにこれ もしかしてこれに乗れって言わないよね
私が呆然としていると、再びお兄ちゃんから電話が来た。
「何してる?? B地点に着くまでに忘れ物を届けて欲しいんだ」
……………
……こんな、都合の良い事ってあるんだ
私ならこのセグウェイで
分速180メートルで移動できる気がする!
だからあとはどうか、 信号が全部青で障害物も何もありませんように___
…いや、 信号が全部青で、障害物も何もなかったと言う事にしよう。
__お兄ちゃんが家を出てからもう5分立ってる。 大丈夫、私ならできる。
私は忘れ物をしっかりと鞄に収めるとセグウェイのスイッチを入れた。
うおおおぉぉぉぉぉ お兄ちゃああああああぁぁぁぁぁん!
問: 兄がある地点を出発してから5分後に、妹が同じ地点を出発して兄を追いかける。兄は分速80メートル、妹は分速180メートルで進むとするとき、妹が出発してから何分後に兄に追いつくか求めよ
「ふふ、 ねぇ緊張してる?」
いわゆる「小悪魔メイク」をバチバチに施した女性がウザったい笑みで僕の顔を覗き込んで来た。
バラだかピーチだかの香りが僕の鼻にダイレクトシュートしてくる。 …あぁ、どうしてこんな事になったのだろう。
僕たちは、いや僕は「閉じ込められイベント」に遭っていた。 学園ラブコメとかで必ずと言っていいほど出てくる、体育倉庫に閉じ込められるやつだ。
経緯や詳細は省こう。 閉じ込められイベントは、閉じ込められてからが重要なのだから。
但し 好意を寄せている異性と2人っきりで閉じ込められた場合に限る。
そして僕が恋の沼に落ちるのは2次元だ。
つまり、 好きでもなんでもない、言わば「クラスメイトA」と密室で2人っきりになっても苦痛なだけだ。
そして一緒に閉じ込められた女性はと言うと、どうやら自分よ容姿に自信があるタイプの女性だ。
そしてさっきからニヤニヤと僕を見ている。 さしずめ「美少女と2人っきりで閉じ込められた童貞くんを手玉に取るアタシ♡」とでも思っているのだろう。
大きなお世話だ。 僕が恋の沼に落ちるのは略
「ふふふ、 ね、このまま一生誰も来なかったらどうする?」
どうもしない。 幸い携帯は繋がるからいくらでも助けを呼べる。
「つまんなーい。 あ、ねぇ げぇむしよ?」
「こーしてても暇じゃん? 三角形の面積の求め方って知ってる?」
急に何か始まろうとしている。 それは僕もやらないといけないのか。
待て、ゲームと言えば
今日から僕の本カノ(2次元)のイベントが始まる…!
どうでもいいがこの女性、自分の事を「ピィ」と呼んでいる。 理由は知らないし興味もない。
「ふふふー あのね、この部屋長方形でしょー」
こうしてはいられないすぐにスマホを!
「4つの角をそれぞれA、B、C、Dとするねー。 今ピィたちがいるのはA」
良かったここが電波届くところで。
「で、ピィがAからB、C、Dって移動するからぁ」
「AとピィとDで三角形ができるじゃん? その三角形の面積が70ヘーホーセンチめぇとるになるのは、ピィがどの地点にいるか当てるげぇむ♡」
「ここだぁって思ったら手挙げてねー♡」
……………
「じゃあげぇむ始めるよぉ♡」
…………
「あれ?? おーーい!始めるよぉ♡」
「ねぇーーースマホばっか弄ってたらげぇむできないよ♡ ピィをずっと見てないといつ70ヘーホーセンチめぇとるになったか分からないんだから♡」
……………
「…あ、あれ?? あ、そ、そー言えば部屋の長さ分かんないとげぇむにならないよね」
「えぇーっとぉ、まぁ大体でいいんだけどぉ……ねぇーー聞いてるー??」
…あのさ
「ん??何??」
ちょっと静かにしてくれない? 集中したいんだ
「え…」
面積求める?ゲーム? 僕はこっちのゲームしてるから勝手にやっといて
「ぇ…でも……、え」
じゃ、そゆことで
お互い頑張ろうと言う事ではい一旦解散頑張ってーバイバーイ
問: 長方形ABCDにおいて点Pが頂点Aを出発して毎秒2㎝の速さでA→B→C→Dと進む。出発してからx秒後の△APDの面積をy㎠とする。 △APDの面積が70㎠になるのは何秒後か。 すべて求めよ
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叶現(中学時代)
叶現(中学時代)
叶現(中学時代)
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叶現(中学時代)
参考 ・教科書より詳しい中学数学 ・暗記の達人 ・中学校数学・学習サイト
コメント
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数学の文章問題、確かにいつもカオスな世界観だったな……