テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
2件
え!! めっちゃドロドロだけどすんごく読みやすいです!! これからも頑張ってください! タメ口みたいになってすみませんでした、
花丸
花丸
花丸
⚠︎︎ 赤桃 アイドルパロ ご本人様には関係ありません
赤side
俺の頭上を照らす、青白いスポットライト。 客席よりずっと高く設計されたこの黒いステージに立っていると、まるで自分が自分じゃないような気がしてならない。
赤
ペンライトの海が視界にうつると、勝手に自分の下唇から甘くて耳触りのいい言葉が零れた。
メンズ地下アイドル。 思ってもない愛とか恋を歌う、馬鹿みたいな仕事。
お小遣い程度に始めた"りうら"というアイドルが、今キャパ3000人というそこそこ大きな会場に立てているのは、グループの人気というよりほとんどこの男の功績だった。
桃
きゃあああっなんて、客席から湧き上がった会場を揺らす黄色い歓声。 目視で分かってしまうほど、ピンクに偏ったペンライトの光。 当たり前のようにセンターに立って、澄み切った芯のある声を響かせる。
"ないこ"は、うちの圧倒的エースアイドルだ。 去年あるファンがSNSに投稿した動画が大バズりしたのをきっかけに、地下メンズアイドルのトップと称されるほど人気と知名度が爆発的に上昇した。
完璧なパフォーマンスと、とっぴつした自己マーケティング力、そんで何よりルックス。 その容姿はただ整っているだけじゃなくて、自然と目でおいかけてしまうようなカリスマ性を放っていて、瞬き一つで今日も誰かを好きにさせる。 メディア露出も彼一人で全部網羅して、俺含む他メンはほぼバックダンサーと化していた。 一等星を目立たせるためのただの星屑。
桃
今思えば、なんでこんなド底辺事務所に入ったのか不思議なぐらい恐ろしいアイドル適正があって、欠点のつけ所がない。
誰よりも眩く光る一等星。 "ないこ"はそういうアイドルだった。
表向きは、ね。
MOB1
桃
マイクを置いて、ステージから降りたのなら、もうアイドルである必要はない。 アイドルは所詮偶像。都合のいい白昼夢。
MOB1
桃
リハーサル終わりの楽屋に、罵詈雑言の数々が響く。振り上げられた拳や足は、ないくんの首、肩、胸、腹辺りに直撃する。 目が痛くなるショッキングピンクの衣装じゃなくて、ラフな白パーカーにスリッパの汚い跡がつく。 止まらない暴言暴力に、背中を丸めてか細い声で謝り続ける彼の姿は、あまりにも惨めで脆弱だった。
他のメンバーは触らぬ神に祟りなしとの様子で、同じグループのメンバーが殴られていても平然と、もしくは平然を装ってスマホを眺めるだけだった。 事務所がこの事実を把握してるのかは知らないけど、どっちにしろまともに対応しないか、隠蔽しようとするんだろう。
これが、人気アイドルグループの現実。 一等星も星屑も、ここには存在しない。
MOB1
桃
MOB1
ないくんはそいつに見せられたスマホの画面を見て、ただでさえ血色の無い顔を青白く染めた。
桃
MOB1
桃
MOB1
桃
MOB2
赤
化粧台前の回転椅子に腰かけながら、俺は手元のスマホに視線を落とす。 SNSには1枚の写真と共に、『某人気アイドルが女とコンビニ来てた』という投稿がされていた。 くすんだピンクの髪と、僅かに写った横顔は確かに彼そっくりだ。隣は長く伸びた金髪に真っ白なブラウスを着ていてどこからどうみても女性。ちょうどコンビニに入店する瞬間だった。
投稿から22時間で既に6.8万いいね。 リプには怒りに満ちたファンと、最高の免罪符を握ったアンチの言葉が腐るほど飛び交っている。
『まじでキモイんだけど金返せよ』 『トップアイドルも所詮こんなもんかwwww』 『隣の女現場でみた気がする。たしか制服イベの日...』 『え、これまじのやつ?』 『女といたことより、こういう写真撮られちゃうような意識の低さに呆れるわ』
赤
MOB2
赤
ふぅっと溜息をついて、スマホの画面を消す。 気がついたら先程まで留まることを知らなかった痛罵はピタリと止み、そいつはボロボロになったないくんを前に無表情でスマホの画面を眺めていた。 しばらく何かを打ち込んだ後、乱雑に黒いリュックを掴んでスリッパを脱ぎ捨てる。
MOB2
赤
ギラりと、そいつの目の色が変わる。 まだ半分くらい中身の入った麦茶が俺の後頭部に突撃して、響くように痛んだ。
赤
俺の抗議の声を無視して、バタンと煩雑な音とともにドアが閉まる。 床に落下した麦茶は白い椅子の脚にぶつかって止まった。 再びこの部屋が静まり返って、他のメンバーも何となくのそのそと荷物をまとめ始めた。
MOB2
赤
MOB2
コンベアに乗せられているかのように、次々とメンバーがあいさつもせず退室していく。 最後のメンバーがドアノブに手をかけたとき、未だ部屋の隅に蹲るないくんを見て、何か言おうとして、でも結局何も言わずに、そのまま身を翻した。
不揃いな足音が遠ざかっていくのが、静寂に満ちたこの部屋にいるとよく分かる。 うざいくらい眩しい鏡の照明に、今日何度目かのため息を漏らした。
赤
桃
綺麗な形をした唇が震えて、そんな泣き言を零す。 まだ両膝を抱えて俯いているけれど、少しだけ芯のある声。
桃
赤
桃
彼が紡ぎ出す言葉を、俺はただ黙って聞いていた。 吐き出したものが弱音まみれでもその声はやっぱり凛としていて、もう涙すら出ない空虚な瞳は瞬くように繊細に揺れて、どこを取ってもアイドルで、それが皮肉だった。 何気なく、手元のスマホでSNSを開く。
....あ、さっきの投稿、もう7万いいねになってる。
赤
俺は立ち上がって、蹲る彼の目の前にしゃがんだ。 染めすぎて痛んだピンクの髪を梳かすように撫でると、俯いていた美形の顔が恐る恐る俺の方を向いた。
赤
桃
......そうだよ。不自然で辻褄が合わないとこがあの写真には沢山あった。 ネットリテラシー皆無の人間は気づかないだろうけど、俺には分かる。
その画像投稿したの、俺だし。
桃
赤
桃
赤
赤
桃
そう断りを入れてから、俺はしゃがんだまま彼の後頭部と背中を抱き寄せた。 白い首筋に自分の頬を寄せると、痩躯が微かに揺れた。触れ合った胸元から心音が伝ってくる。
桃
赤
なるべく優しく甘く言葉が響くように、ピアスのついた耳元に囁く。
赤
桃
赤
背中に回した腕に、無意識に力が篭もる。 腹の底で抑え込んでいた苛立ちが静かに燻る。
ステージの上で笑う君が嫌いだった。 スポットライトに照らされて輝く君が嫌いだった。 苦しくていっぱいいっぱいのくせに、要領の良さだけで何とかこなせてしまっていた君が嫌いだった。
不特定多数の誰かじゃなくて、俺だけに愛してるって言ってほしかった。
でも、だから、そのためには。
もっと傷ついて
泣いて
苦しんで
絶望して
ボロボロになって
赤
俺しかいないんだって、分からせなきゃ。
桃
赤
え、という声を無視して、形のいい唇をそっと塞ぐ。 もうその口が、俺以外の誰かに言葉を紡がないように。
赤
ℯ𝓃𝒹