スタジオに、静かなイントロが流れ始めた。
今日のレコーディング曲は、恋愛バラード。
優しくて切ないメロディーに、胸がじんわりと熱くなる。
ヘッドフォンをつけ、歌詞カードに視線を落とした。
——「気づけばいつも目で追ってた どんな表情も見逃したくなくて」
その一節を見た瞬間、心臓がドクンと跳ねる。
……なんだ、これ。
息を呑み、知らず知らずのうちに佐久間の姿を思い浮かべていた。
楽屋でふざけ合う無邪気な笑顔。
ステージで真剣な表情を見せる横顔。
ロケの移動中に、俺の肩に頭を預けてくる寝顔。
——「君の笑顔がまぶしくて そのたびに胸が苦しくなる」
まるで俺の気持ちを言い当てるような歌詞だった。
気のせいじゃない。違和感なんかじゃない。
この曲が、自分の心を代弁している。
「……恋か」
思わず、そう呟いてしまった。
ヘッドフォン越しに流れるメロディが、やけに心に染みる。
ずっと見ていたい。
そばにいたい。
笑っていてほしい。
「……阿部くん、大丈夫?」
ディレクターさんが心配そうに声をかけてくる。
「すみません、もう一回お願いします」
深く息を吸って、もう一度歌詞に向き合う。
——これが恋だと気づいてしまった。
でも、俺はこの気持ちを知らないふりをする。
……それでいい。
それでも、この恋を知ることができてよかったと思う。
佐久間が教えてくれた、初めての感情。
歌が終わる頃には、不思議と心が穏やかになっていた。
「阿部ちゃん!」
楽屋に戻ると、佐久間が笑顔で駆け寄ってきた。
「レコーディングどうだった? 俺、今日ちょっと感情入れすぎちゃったかも」
「ああ、いい感じだったよ。佐久間の歌、ちゃんと伝わる声してる」
「マジで? よっしゃ」
佐久間は満面の笑みでガッツポーズをする。
その姿が、眩しかった。
……好きだな。
そう思ってしまう自分が、もう止められなかった。
だけど、この気持ちは伝えない。
今のままがいい。隣で笑っていられる関係が。
「阿部ちゃん? どうした?」
「え?」
「なんか、ぼーっとしてた」
佐久間が覗き込んでくる。無邪気な瞳がまっすぐに俺を見ていた。
——ああ、こんなに近くにいるのに、届かないんだな。
「……なんでもないよ」
軽く笑って、佐久間の頭をぽんと軽く叩いた。
「ほら、次の収録行こ」
「うん」
佐久間は変わらず明るく笑う。
それだけでよかった。
この気持ちを知ることができただけで、俺はもう十分だ。
これからも、ずっとこの関係のままで——。
コメント
2件
あべちゃん…🥹🥹 さっくん気づいてあげてー!!!!
えぇーなんか切ない! 胸が痛いんですが😭 さっくんの気持ちはどうなんだろー🤔