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表の自分と裏の自分との間を取りもってくれる人間が欲しい
私にも姉として・・女としてのプライドがある
近所の人達や家族の前で、堂々とエスコートしてくれるフィアンセが欲しい、妹に大阪でどうしているかと聞かれた時に、まさか寂しくて悲しい思いをしているとは死んでも言いたくなかった
それでもこの小さな嘘を洋平君を巻き込んでまで
つきとおすのは果たして本当に良い結果になるのだろうか
――何だか悪い予感がする・・・・
洋平はまたしてもくるみの表情の変化を見逃さなかった
「くるちゃん?どうしたの?まさか考え直しているのかい?」
「ええ・・・考え直して・・・・それからまた考え直して・・・・」
「嘘なんて、大抵は上手くいかないよ、僕の尊敬する祖父にそう教わったんだ。僕の祖父は今まで会った人間の中で一 番の知恵者だ
妹さんの結婚式が終わって落ち着いたら・・・
真実をすべてご両親に打ち明けたらどうだい?」
正論だわ・・・でも私は臆病なの・・・・
とくるみは心の中でつぶやいた
両親と顔を合わすことは出来ても、誠が妹と結婚するというのにその幸せな二人を見せつけられている中、笑ったり他の客に愛想良く振舞ったりなんてできるわけがない
何か自分の気持ちをそらしておくものが必要なのだ
誠が麻美の手を取って愛の誓いを言い
二人が手を取り合って教会を出て行く・・・・
くるみはほとんど空のグラスを飲み干した
「洋平君!やっぱりあなたに来てほしいの!
50万円で足りなかったら60万円お支払いするわ」
洋平はすぐに返事をした
「ええ?そんな50万円でいいよ!ただし支払いは報酬制でね!
今週末を一緒に乗り越えて、君のお気に召すようなフィアンセを演じられた時に貰うよ!その時は50万きっかり現金でね」
突然てきぱきと彼から条件を出されたので、くるみはびっくりした。それでも腹を括ってくるみは洋平の口調に合わせた
「ええ・・・お約束通り50万現金でキッチリ渡すわ」
そして今一度彼を上から下までじっくり見る
「あのぅ・・・それから服装のことだけど・・・・」
洋平はニッコリ笑った
「問題ないよ!僕には映画仲間の衣装係がいるんだ
きっと気の利いたデザイナーズスーツを用意してくれるから式にはそれを持って行くよ、それにいかにも裕福っぽい私服もね」
「そ・・・そう・・・よかったわ」
くるみは安堵を隠さなかった
「僕がスウェットのトレーニングウェアとTシャツしか持っていないと思ってたら心配いらないよ、国際金融家にふさわしい服装を心がけるから」
「ほんとに?・・ほんとに演じられる?」
不安に駆られてクルミは言った
洋平は座ったままあらためてじっとくるみを見つめた
瞳が温かい茶色に深まり、今までの冗談めいた雰囲気は別のもっと強い感情に取って代わった
彼は黙ったまま手を伸ばして、軽くくるみの手を握った。燃えるような熱いまなざしがくるみの視線を捕らえて放さない
ドキドキ・・・・
おっ・・・おちつくのよ・・・くるみ・・・
彼はただ演技してるだけなんだから・・・・
演技しているだけなのはわかっているが、くるみは動揺せずにはいられなかった。彼の手の中で自分の手が震えている
そして軟らかい声で彼は言った
「ラブシーンは僕の得意分野じゃないんだけど・・・」
くるみは目をパチパチし、数回深呼吸をした
「あ・・・あの・・・・」
出した声がかすれた、もう一度深く息を吸って言い直す
「ラ・・・ラブシーンは必要ないのよ?洋平君?両親が会いたいのは善良な市民・・・いい夫になりそうな男性で、情熱的な恋人じゃ・・・ない・・の」
「君みたいに純粋で真っすぐな人に会ったのは初めてだ」
洋平はくるみの手を取って自分の唇に運び
手の甲に優しくキスをした
「ねえ・・・くるちゃん・・・
僕には君も君の両親も、重大な考え違いをしているように思えるよ。妻を情熱的に愛していなかったら男は決して良い夫にはなれない、たとえどんなに金を持っていてもね・・・・
男に心から愛されることがどれだけ君を幸せにしてくれるか、それが分からなかったら君はこれからも辛い恋愛をすると思うよ 」
彼はくるみの手の甲に唇をつけたままそう言った
くるみの体を熱い何かが駆け巡り、血管を炎で包み、骨を溶かしてしまったように思えた
ドキドキ・・・
―私ったらどうしてしまったの?―
くるみはあわてた・・・
奇妙なことに体は燃えるように熱いのに、額からは冷や汗が出た
洋平はゆっくりと頭を上げ、テーブルの元あったところに優しくくるみの手を戻した
「どう?うまく演じられたかな?」
椅子の背にまた背中を戻しながら、彼は尋ねた
ドキドキ・・・・
「う・・・うん・・・凄く上手・・・・」
「週末は任せてね!フェイクだけど最高のフィアンセを演じるから」
彼は太陽のように笑った