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「あ、なんか近いな。」
第11話:『あの言葉が、離れへん。』
机の上のスタンドライトが、白い光を落としてた。
開いたままのノートの上に、ペンが転がってる。
俺はその光の中で、ただぼんやりと天井を見上げてた。
「……好きって、言葉の手前で。」
光輝の声が、頭の中で何度も繰り返される。
あの夕暮れの校舎裏。
風の音、沈む陽の色、そして──あいつの顔。
笑ってるようで、どこか苦しそうな光輝の横顔が、
目に焼き付いて離れへん。
(あれ、どういう意味なんやろ。)
(……なんで、俺、こんなに考えてんねん。 )
胸の奥が、じんわり熱くなる。
痛いような、あったかいような、
初めての感覚やった。
「好き」って言葉。
簡単に言えるもんちゃう。
でも、あいつがその手前まで来てるって思ったら──
どうしようもなく、心が揺れた。
(もし、俺のこと……”好き”って言おうとしてたら。)
そこまで考えて、慌てて頭を振る。
「……いや、そんなわけないやろ。 」
けど、胸の鼓動は止まらへん。
息をつくたび、光輝の笑顔が浮かぶ。
気づけば、携帯を手に取って、
“光輝”の名前を見つめてた。
(…あいつ、今、何してるんやろ。)
指がメッセージの欄を開いて、止まる。
送る言葉が、見つからへん。
「俺も……」
そこまで呟いて、唇を噛んだ。
その先の言葉が、怖くて言えへん。
スタンドライトの光が、少し揺れた。
俺はベッドに体を倒して、目を閉じる。
「あの言葉が……離れへん。」
胸の奥で、光輝の声が静かに響く。
まぶたの裏で、あの夕暮れが何度も再生された。