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地球時間で7日後、途中でアクシデントに遭遇することもなく無事に惑星アードまで帰り付くことが出来た。プラネット号は軌道上のドッグへ係留し、私とフェルは軌道エレベーターで惑星アードの浮き島のひとつに降り立った。
ちなみに全てAIが管理しており、ドッグや軌道エレベーターには誰も居ない。いや、誰も近付かない。
「私は局長に報告してくるから、フェルは先に戻ってて」
アード内であまりフェルを連れ回すのは良くない。リーフ人がどんな反応をするか分からないし、下手に刺激する必要もない。フェルが悲しむだけだしね。
「分かりました。ティナ、待っていますね」
「うん、後でね」
フェルを転送ステーションへ送った。広い惑星アードでは長距離移動のために浮き島には転送ステーションが用意されている。私は飛ぶのが好きだからあんまり使わないけどね。
私は軌道エレベーターのある浮き島から近い場所にある宇宙開発局へと赴いた。ザッカル局長にはアリアが事前に地球の調査報告書を転送してくれている。
「ただいま戻りました、局長」
「ご苦労だった、ティナ。宇宙ステーションの結果は残念だった」
「はい……間に合いませんでした」
結局宇宙ステーションは爆破したし、生存者も居なかった。バイオウェポンでゾンビみたいになった人達だけだ。
「残念な結果になったが、宇宙に取り残された同胞はまだまだ多い。引き続き調査を継続するように」
「分かりました」
次は地球のことかな。
「さて、太陽系と言ったか。そこに存在する惑星地球との交流もご苦労だった。報告書を読む限り、現地の生命体と接触できたみたいだな」
「はい、友好的な歓迎を受けました。皆さん好意的でしたよ?」
「その様だな。現地最大の大国の首長と会談か、意気込みを感じるな。それに、惑星の環境もアードに近い。アードに比べれば小さいが、陸地面積は比べ物にならん。人口も多いな」
「はい、交流するには最適な環境ですよ!」
少なくともリーフ人と交流するより簡単な筈だ。地球人はあそこまで排他的じゃないからね。環境的にも地球に近いし、後は地球固有の微生物や細菌などへのワクチンを開発すれば移住だって可能だ。
出来る限りサンプルも持ち帰ったし、ワクチン開発だって問題はない筈だ。
「あの、局長。出来れば交流を続けたいのですが……」
「報告書は政府にも回したのだが、何の反応もない。上の連中は勝手にやれと言ってるんだ。好きにすれば良い」
リアクションすらなし、か。仕方ない、簡単には変わらないだろうしね。
「それで、何か手土産があると聞いているが?」
「はい、地球は食べ物が豊富でとても美味しいんです!もちろん、アード人が食べられるものを選んできました」
保存食が中心だけどね。あとアリアの助言であまり味の濃いものは避けた。薄味か無味無臭の栄養スティックしかほとんど口にしたことがないアード人に、いきなり濃い味付けの食べ物は敷居が高すぎる。
こればかりは前世の記憶がある私の味覚は当てにならない。フェルも野菜中心だし、味付けも薄味が好きだからね。
「今手元にあるかね?」
「もちろんです。これなんですけど」
取り敢えずアード人に馴染み深いお魚、サンマの蒲焼きの缶詰を取り出してみた。えっ?味付けが濃い?
……アメリカのパワフルな料理に比べたらマシだよ。多分。ちなみにこれは朝霧さんが大急ぎで手配してくれたもの。日本食を食べたかった私は歓喜したよ。
「ん、金属の容器か。それは、魚類か?」
パッケージを見て局長が興味深そうに呟いた。分かりやすいようにパッケージには魚の写真が載せられてる。
「缶詰と呼ばれる保存食です。中身はサンマと呼ばれる魚類を調理したものです」
「ふむ」
開封してフォークと一緒に差し出すと、局長はしばらく中身を観察して口に入れた。どうかな?
「……ほう、食感はアードの魚類と似ているな。それに、これは……未知の味だ」
アードでは庶民も魚は食べるけど、基本的には塩焼きだ。
太古の昔は地球みたいに色んな調理法が存在したみたいだけど、科学と魔法の発展で栄養スティックが中心となって料理文化は廃れていった。エナジーカートリッジを使った料理ロボットも庶民じゃ買えないしねぇ。
「美味しいですか?」
「……まだ分からんな、幾つか食べてみなければ評価は下せん」
……ははーん。
「じゃあ、取り敢えずお土産を置いていきますね。後日感想を聞かせてください」
「うむ」
10缶ほど缶詰を置いて事務所を後にした。局長の反応をみれば、アードでも受け入れられると思う。トランクと医療シートを手に入れないといけないし、先立つものは必要なのだ。
里に戻って家に帰った私をお母さんが出迎えてくれた。
「ただいま、お母さん」
「お帰りなさい、ティナ。フェルちゃんはもう休ませたわ。貴女が戻るまで頑張るとか言っていたけれど、疲れているみたいだしね」
「長旅だったからねぇ」
プラネット号で留守番をしていたフェル。あの性格を考えるに、私が地球へ降りている間気を揉んでいたのは間違いない。休まる暇もなかっただろうなぁ。深く反省するとして。
「お土産をたくさん貰ったんだけど」
「食べ物を貰ったのよね?見せてみなさい」
私物のトランクから幾つかの缶詰と調味料を取り出した。マヨネーズ、香辛料が中心。醤油はなかった。次は手に入れたい。
「あら、缶詰?」
「知ってるの!?」
「古い文献に記載があったのよ。アードでも千年以上前には似たようなものが存在していたみたいね。保存魔法の理論が確立されて普及してからは廃れたみたいだけれど」
「へー…」
流石はお母さん、博識である。今のアードじゃ保存魔法は大前提。トランクまであるしね。
「これ、興味があるわ。食べて良いかしら?」
お母さんが手に取ったのは……乾パンだね。
「乾パンって言うんだ。麦って穀物から作られてる食べ物を保存食にしたものだよ」
詳しい製法は知らないけどね。意外と美味しいんだ。
「……あら、甘くて美味しいわね。同じ保存食なのに、栄養スティックとは大違いだわ」
食べてみたお母さんの感想は、今のアードの食生活が如何に質素か物語るね。
「これ、売れるかなぁ?」
「売れるわよ、間違いなくね」
「よし!」
お母さんが太鼓判を押してくれた。取り敢えず資金調達は出来そうだ。問題はどう売るか。当然だけど私は販路なんて持たない。
……里長を頼るしかないかぁ。