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ティナが地球を去って数日、地球では1ヶ月後に開かれる主要国首脳会談へ向けて各国がスケジュール調整などの準備に奔走していた。
ティナの来訪は全世界に衝撃を与え、彼女が去って数日が経過しているにも関わらず各国メディアは連日特集を組んで報道し世論は加熱していた。様々な専門家が激しく議論し、歓迎する一方危険視、或いは敵意を向けるものも少なくはなかった。
アメリカ合衆国。ティナが来訪した国であり世界最大の大国であるが、それ故に世論の動向には細心の注意を払っていた。そんな中、ホワイトハウスにある執務室でハリソン大統領はマイケル補佐官から渡された報告書に目を通して頭を抱え深く溜め息を吐いた。
「これで7件目か。まだ一週間も経過していないと言うのに」
「残念ですが、これで全てが収まるとは思えません。FBI長官によると、秘密裏に行うにも限度があるそうです」
報告書には、異星人であるティナに敵意を持ちテロリズムを画策したとして秘密裏に処理された件が記されていた。既にアメリカ国内で7件目であり、個人レベルにまでなれば対処は不可能とも言えた。
「価値観は人それぞれではあるが、相手は遥かに格上の存在なのだぞ。国民に悪感情を持たせたくはないのだがなぁ」
「彼女の容姿も深く関係しています。逮捕した者達の半数以上は過激な信奉者だそうで」
「信仰の自由はあるが、排他的なのは困る。まして排除に動くとは」
ティナが1ヶ月後に再び来訪することは彼女自身が日本のネット界隈で暴露してしまい、周知の事実となってしまった。
マンハッタンの奇跡で彼女に友好的な世論が形成されつつあるアメリカでさえこれなのだ。世界レベルでは考えたくもない問題である。
「現在我が国を始め各国メディアはアード人に対する友好を目指したキャンペーンを展開していますが、非協力的な国もあります」
「悩ましい限りだ。彼女に対して一切手出しをしてはいけないと法律を制定するか?」
「逆効果でしょう。むしろ過激派を刺激するだけです」
「だろうな……マイケル、君は口が固いな?」
「ふふっ、私が貴方の秘密を口外したことがありますか?」
「いや、無いな。聞いてくれ」
ハリソンは初めてセンチネルの存在を最も信頼する友人であり腹心であるマイケルに話した。現在ハリソンとジョンしか知らない最重要機密である。
センチネルの話を聞いたマイケルは、顔を青くした。
「その話が本当ならば、地球人同士で争っている場合ではありませんな」
「その通りだ。首脳会議ではティナ嬢の口からセンチネルの脅威について説明して貰う。今こそ地球人類は団結する時なのだ」
「しかし、それが叶いましょうか?フェイクだと捉えられる可能性も捨てきれません」
「我が国が率先して動く他あるまい。中華の動向は?」
「相変わらず我が国と協調路線を維持しています。駐米大使からは、ティナ嬢が来訪された際には是非ともご挨拶をしたいので斡旋して欲しいと」
「それは正式な要請かね?」
「いえ、あくまでも大使個人の意思だとか」
「相変わらず強かな国だ。間違っても中華へティナ嬢を行かせてはならんな。少なくとも今は」
「では、次回来訪時は予定通りに?」
「ああ、日本を紹介する。日本政府の反応は?」
「我々の打診に対して前向きな姿勢を見せています。また国民世論も好意的で、ティナ嬢の来訪地としては最適かと」
「うむ、あの国は寛容だからな。訪問地はあくまでも本人の意思を尊重しつつ、慎重に検討せねばならん。マイケル、多少強引でも構わん。ティナ嬢が来訪するまでに国内の不穏分子を出来るだけ排除するように伝えてくれ」
「宜しいので?」
「構わん。ファーストコンタクトを成し遂げたのは我が国だ。アードとの交渉も我が国が主導権を握らねばならん。その為には多少強引でも国内を掃除して、ティナ嬢に不信感を持たせないようにせねば」
「分かりました。大統領の意思を皆に伝えます」
ホワイトハウスの近くにある4階建てのビル、異星人対策室の事務所である。
中心は朝霧の暴走で吹き抜けとなってしまったが、何故か構造上問題がなかったので応急工事を済ませそのまま利用されていた。
そのビルの前には、人集りが出来ていた。
「今すぐに侵略者を追い出せー!」
「宇宙人に地球を売るつもりかー!」
「地球は俺達地球人のものだー!宇宙人になんかやるなー!」
「あんな紛い物の生物を許すな!神への冒涜である!」
ティナの来訪に反対する者達が反対集会を開いていた。
「やれやれ……またか」
「連日ですな。連中余程暇なようだ」
そんな彼らを事務所の窓から眺めるジョン=ケラーとジャッキー=ニシムラ(貫通済)。
「主義主張はここの自由だが、こうも毎日やられると気が滅入るよ。ティナはSFに有りがちな侵略者とは大違いだろうに、なぜそれが分からんのだ」
「あの見た目ですからなぁ、人は自分と異なる存在を忌み嫌うものですよ。未だに肌の色で差別する連中も居ますからな」
「君も苦労したみたいだね、ジャッキー」
「イエローモンキーなんて有り難いあだ名を付けてくれた連中には感謝ですよ。要は、怖いのです」
「だろうなぁ……確かにティナは未知の存在ではあるが……悩ましいな。こんな光景をあの純粋な女の子に見せたくはない。間違いなく傷付くだろうな」
「なぁに、あちらを見せてあげれば良いのです」
ジャッキー=ニシムラ(足フェチ)が指差した先には、別の集団が集っていた。
「今度はうちの州に来てくれー!」
「うちのお店においでー!美味しいもの食べさせてあげるからー!」
「地球の芸術に興味は無いかい!?うちの美術館を無料で解放するよー!」
「家族を助けてくれてありがとー!」
そこにはマンハッタンの奇跡で救われたりティナに好意的な人々が集まっていた。
反対派を牽制するように彼らも毎日集まり、ティナへのメッセージを発信し続けている。
「我が国も捨てたものじゃないな」
「ええ、その通りですよ。そして室長、貴方が中心なんです。あんまり暗い顔してるとティナちゃんが心配しますよ」
「ふっ……そうだな。彼等の想いを無駄にしないように頑張らないとな。ミスター朝霧を呼んでくれ。打ち合わせを再開しよう」
「はい、室長!」
地球では不穏な動きがあるものの、それぞれが最善を尽くすために動いていた。来月行われる首脳会議、間違いなく地球の運命を左右するその日に備えて。