「ならさ。・・・オレ好きになってみる?」
すると、急に真剣な表情をしてまた思いもよらない言葉を隣から伝えてくる。
言われた瞬間、ドクンと胸が高鳴って。
真っ直ぐ見つめてくるその眼差しに思わず吸い込まれそうになる。
もしこの人を好きになれば、私はどうなる?
面倒な恋から逃れられる?
それともまた面倒な恋に逆戻り?
「本気で想ってる人いるくせに・・」
なのにそんな言葉を言って来る真意は何?
「だからだよ。ここで二人の間で何か始まればオレたち変われる気しない?」
その言葉に心が少し揺らぐ。
この人と今始めれば変われるかもしれない。
状況は違うけれど、同じような切ない想いを抱いてる二人だから、分かり合える何かがあるのかもしれない。
だけど。
また傷つくのも怖い。
「私だけ一人好きになっても意味ないでしょ。また傷つくのは懲り懲り」
結局もうどう恋愛すれば傷付かないのかもわからなくなった。
好きになってしまうと、本気になってしまうと、その分傷付いた時が辛い。
「・・・オレも、好きになるって言ったら?」
どこまでが本気の言葉?
そう思ってるのに、そんな言葉を言われてまた胸が高鳴る。
好きになってくれたら傷付かずに済むのかな。
でも・・・。
「好きになるって言って好きになれるモノじゃないでしょ。お互いに」
「どうかな。実際試してみなきゃわからないでしょ。恋愛だって」
「好きって自然になってるモノじゃない?」
「ならオレのこと自然に好きにならせるしかないってことか」
「なんでそういう話になってんのよ・・・」
本気の相手がいるくせに・・・。
「ドキドキだけだと物足りないと思わない?これからお互いを好きにさせることにすればさ。お互い楽しめると思わない?」
楽しむだけのゲーム感覚で恋愛を始めるってこと?
「オレは報われない恋愛をしてる。そっちも恋愛には絶望している。だけど、お互いこのままだと寂しいと思わない?」
「それは・・・」
「お互い恋愛に前向きになれるように、楽しめる恋愛を始めるのはどう?」
どうって・・・。
「それで好きになれなければお互い元の場所に戻る。でも、どうせドキドキさせ合う関係ならさ、お互い好きにさせ合う形でもいいんじゃない?」
「本気の相手、忘れられるの・・?」
そこが一番重要。
「透子がその気にさせてくれたら」
また・・・私に委ねてズルい。
「だから・・・本気にさせてよ」
真剣な眼差しで伝えて来るその言葉に。
「オレも透子を本気にさせてあげる」
急にまた鼓動が早くなる。
この距離で、そんな見つめられて、そんな言葉言われたらもう何も言えなくなる。
この視線に捕らえられると逃れられなくなりそうな気がして。
この早まる鼓動がただのドキドキ以上だと伝えて来る。
このドキドキがそれ以上を期待して止まらなくなる。
そしてそのまま重なる視線と共に、ゆっくりと彼の唇が重なる。
この視線に捕らわれて、やっぱり逃げることが出来なかった。
押し返すことも出来たはずなのに、なぜかこのドキドキが満たされたモノに変わっていく。
この唇から彼をどこまで好きになれるのかはわからないけれど。
だけど。
重なる唇はそっと触れるように優しくて。
なぜかその優しく触れる唇から彼の気持ちが伝わって来るような気がして。
その瞬間、彼を信じてみたくなった。
そしてまた優しく離れた唇。
「オレを好きになってよ」
その言葉は優しく、切なく響いて。
その視線は優しく、切なくて。
他に想う誰かがいるのに、どうしてこんなに優しく囁くのだろう。
どうしてこんなに優しく見つめるのだろう。
そしてゆっくりそのまま抱き寄せられる。
言葉もなくただ抱き締められているその回した腕も優しくて。
だけど、少しずつその回した腕が強くなって彼の鼓動が感じられるほどの近さになって。
この伝わってくる早まる鼓動は、自分のモノか、彼のモノかさえもわからないほどに。
「ねぇ・・・。うんって言って・・・」
そんな優しく囁かれたら。
そんな切なく囁かれたら。
離れたくなくなる。
彼を抱き締めたくなる。
「じゃあ、本気にさせてよ・・・」
彼の背中に自分の腕も回してそっと囁き返す。
きっともう受け入れるしかないこのぬくもり。
彼のその囁きも眼差しもこの腕の強さも、嘘じゃないと今は信じたい。
「もちろん。どうしようもなくなるくらい本気にさせるから覚悟しといて」
私の言葉を聞いて、彼が今度は嬉しそうな声を出して、また強く抱き締める。
まだホントは傷つく恋愛は怖いけれど。
でも今は、この人と過ごす時間を前向きに一緒に歩いてみたいと思った。
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