僕はずっと、1人だった。
お父様は、病院の1番偉い人。
お母様は、その秘書的な人。
家には、お母様の代わりに、ご飯を作ってくれたり、僕のお世話をしてくれたり、洗濯をしてくれたりする人達が沢山いた。
けど、僕はそんな人たちじゃなくて、お母様とお父様と一緒に居たかった。
お母様とお父様と、普通に公園で遊んだり、普通に食卓を囲んだり、普通に家事のお手伝いをしてみたり….。
そういう、「普通」に、僕は憧れていた。
分かってる。
わがままだって。
お母様もお父様も忙しいし、人の命を守り、救い、支える、凄い人っていうのは、わかっていた。
けど、誕生日さえも一緒にいれない、授業参観にも来れないなんて、まだ小さい頃の僕にとっては、すごく辛かった。
周りの子供や、お友達は、みんなキラキラしてた。
けど、僕がわがままを言っちゃったら、お母様もお父様も困っちゃう。
それに、僕一人のわがままの為に、誰かの命を奪ってしまうかもしれない。
病院では、1分1秒が重要なんだ。
そう、お父様はいつも言っていた。
唯一話せる、寝る直前の少しの間。
僕が寝る直前に、お母様とお父様は帰ってくる。
その少しの間。
僕にとって、大切な時間。
けど、その時もお母様とお父様は僕の話はあまり聞いてくれない。
話すのは全部、病院のこと。
それでも良かった。
だって、家族全員でいられるんだもん。
小学校低学年の頃までは、そう思っていた。
けど、高学年になり、自分の意思がはっきりとしだした時。
遂に、今まで抱えていた気持ちが爆発してしまった。
とある日。
家に帰ると、お母様とお父様がいた。
嬉しさよりも先に、疑問が出てきた。
ドズル「え…どうしているの……?」
ドズル父「どうしてって、自分の家にいるのがそんなに悪いのか?」
ドズル「い、いえ…..」
ドズル「ですが、今はまだ病院では….?」
ドズル母「今日は重要な事もなくて、早く帰れたのよ。」
ドズル「…..?」
僕は、すぐ嘘だと確信した。
だって、重要な事がないからって帰れるわけないのだから。
ずっとお父様が言っていた。
病院では、1分1秒が重要なんだ。
病院は、急患はよく来る。
当たり前だ。
なのに、ここにいるのはおかしい。
ドズル「…..病院は、いいのですか?」
素直に聞いてみた。
ドズル父「やはり、お前ならわかるか。」
やっぱり、なにか事情があるのだろうか。
ドズル父「実はな。」
ドズル父「今までずっと我慢させてきただろう?」
ドズル父「だから、今日のお前の誕生日くらいは、祝おうと思ってな。」
ドズル「え….」
そうか、今日は僕の誕生日なんだったっけ。
ドズル母「いいレストランも予約したのよ?」
ドズル母「久しぶりに、みんなで食べに行きましょう!」
お母様が、嬉々とした様子で言う。
…..けど。
ドズル「ど、どうして….?!」
ドズル母「え….?」
僕の誕生日なんかのために病院を休んだ。
つまり、急患が来たら、お母様とお父様はすぐには向かえない。
それに、僕の楽しい時間も終わる。
嫌だ。
そんなことになるなら、最初から期待なんてしたくない。
ずっと1人だった。
学校でも、公園でも、家の中でさえも。
僕が病院の院長ということは、ご近所にはとっくの昔から知られている。
だからこそ、誰も近づいてくれなかった。
僕から話しかけても、軽くあしらわれて終わる。
お母様とお父様の気を振り向かせたくて頑張る分、みんなは僕から離れていく。
褒められたくて、テストで100点を取っても。
褒められたくて、マラソン大会で1位を取っても。
褒められなくて。
みんなからは近寄り難い相手として認識され、距離を置かれる。
もうわからなかった。
だから、お母様とお父様が僕のために休んだ事を知っても、嬉しいより、申し訳なさ、不安、期待をしたくない気持ち、劣等感が勝った。
ドズル「今急患来ちゃったらどうするの?!」
ドズル「みんなで楽しくお食事をしてても、急患が来ちゃったら行かなきゃでしょ?!」
ドズル「ならいい!」
ドズル母「ド、ドズル…..?」
ドズル「どうせ終わっちゃうなら…」
ドズル「最初から期待なんて….したくない!!」
ドズル母「ドズル….」
自分でも、言いすぎていることは分かっていた。
けど、本当に、本当にずっと耐えていた。
寂しさ、やるせなさ、恨み、憧れ、嫉妬
全部、ため続けていた。
ドズル父「なんてことを言うんだ!!」
ドズル「ぁ….」
気づいた時には、もう遅くて。
お母様は泣いていて、お父様は顔を真っ赤にしていた。
ドズル父「せっかくお前のために病院を放置して来てやったのに、その言い方はなんだ!!」
ドズル父「どうして、もっと子供らしくいれないんだ!!」
ドズル父「どうして、普通にいれないんだ!!」
ドズル「….っ。」
僕だって….
ドズル「僕だって、普通でいたかったよ!!」
僕の気も知らずそんなことを言うお父様が、僕は許せなかった。
ドズル「周りみたいに、普通に公園に行って!」
ドズル「普通に食卓を囲んで!!」
ドズル「ちょっとお母様の家事を手伝ってみたり…」
ドズル「僕だって普通に憧れてたんだよ!!」
少し出てしまえば、もう止まらない。
溢れ出る感情は、ダムの崩壊のように、理性を壊し、流れ出ていき、全てを壊していく。
ドズル「お父様だって!!」
ドズル父「なに…..?!」
ドズル「僕がテストで100点取ったって!!」
ドズル「マラソン大会で1位を取ったって!!」
ドズル「授業参観にも来なかったくせに!!」
ドズル「お父様だって、普通になんてなれてないじゃないか!!」
止まらなかった。
小さい頃から抱えていた全ての感情が出ていく。
ため込んでいた全てが、溢れ出ていく。
ドズル父「なんだその言い方は!!」
ドズル「お父様だって!!」
ドズル母「も、もうやめて….!」
お母様が間に入る。
でも、ここで止まれるほど、軽くなかった。
ドズル「夜のたった少しの間話せる時間、僕の話を聞いてくれたことあった?!」
ドズル父「そ、それは….」
ドズル「ないでしょ!!」
ドズル「ずっと病院の話!!」
ドズル「お父様は、僕のことを見てくれたことなんてないんだ!!」
ドズル父「な、なんだと?!」
ドズル父「こっちは忙しいんだ!!」
ドズル父「お前はそんなことも分かれないのか!!」
ドズル「もういい!!」
ドズル母「ちょ…!」
ドズル母「ど、どこいくの….?!」
ドズル「もうこんな家嫌だ!!」
ドズル父「なっ….?!」
ドズル母「どういうこと….?」
ドズル「こんなお偉いさんの家なせいで!!」
ドズル「僕はずっと1人だった!!」
ドズル母「え….?」
ドズル「お母様とお父様に振り向いてほしくて、今まで頑張ってきた!」
ドズル「けど、お母様とお父様はいつも病院のことだけ!!」
ドズル「僕のことなんて見てくれない!!」
ドズル「頑張れば頑張るほど、みんなからは距離を置かれていく…」
ドズル「この気持ちをわかってくれる人なんて、ここにはいない!!」
ドズル母「ドズル….!!」
ドズル父「待ちなさい!!」
ドズル「….家を買った」
ドズル母「えっ…..?」
ドズル父「なんの冗談だ….?」
ドズル「お小遣いを貯めて、バイトを掛け持ちして。」
ドズル母「バイトって….あなたまだ小学生よ?!」
ドズル父「家はどこなんだ!」
ドズル「言うわけないでしょ」
ドズル「荷物はもうまとめてる。」
ドズル母「なっ…..?!」
ドズル「ね?そんなことも気づけないほど、僕のことなんて見てないじゃん」
ドズル父「お、おい….!」
ドズル「今週末にはもう、この家を出ていく。」
ドズル母「な、なんでっ….」
ドズル「家柄にとらわれたくない。」
僕はそういい、家を出る
ドズル父「待て!!どこ行くんだ!! 」
ドズル「バイトしてるって言ったでしょ?」
ドズル母「ま、まさか…..」
ドズル「そう、バイトだよ。」
ドズル父「小学生を受け入れるところなんて….!」
ドズル「僕さ、こう見えて結構大人に間違えられるんだよね」
ドズル「年齢詐称だよ。」
ドズル母「なっ…..」
ドズル父「自分が何しているのかわかっているのか…..?!」
ドズル「知らないよ。」
ドズル「こんな家から出て行けるなら、なんだっていいから。」
ドズル母「そん、な…..」
ドズル父「…..っ。」
2人が黙り込んだのを横目で見て、 僕は出ていく。
そこから、お母様とお父様と話すことはなかった。
そして、週末に僕は引っ越して行った。
新しい土地。
新しい空気。
新しい環境。
新しい人達。
全部が新しかった。
引っ越した時は、小学六年生の最後の方。
どうせ、卒業式にお母様とお父様は来ない。
みんなから祝われる訳でもない。
わかっていて、心の傷をえぐることなんてしない。
そこから、1年間は中学校を探した。
家しか眼中になくて、中学校を探すのを忘れていた。
バイトをしながら、中学校を探し続けて、ついに見つけた中学校に入った。
ぶっちゃけ、1年間もかかるなんて思っていなかったけど….。
そこで、ぼんさんとめんに会った。
2人とも暗い事情をもっていたのが、親近感を感じた理由かもしれないけど。
2人とも、僕のことを尊敬して、ついてきてくれるようになった。
嬉しかった。
尊敬してくれているからって、崇め奉るわけじゃなく、友達として接してくれたのも、すごく嬉しかった。
別に、人の上に立ちたいわけじゃない。
こうやって、みんなでワイワイするのが、新鮮で、初めてで、楽しかった。
そして、みんな人には簡単に言えない事情がある、という接点があったため、こんな提案をしてみた。
….まぁ、僕のことはまだ言えてないんだけどね。
ドズル「ねぇねぇ、2人とも!」
ぼん「あ、ドズさん!」
めん「どうかしたんすか?」
2人は、ちゃんと反応してくれる。
あの時みたいに、独りじゃない。
そんなことを考えながら、本題を出す。
ドズル「あの…さ?」
ぼん「ん?」
めん「どうしたんすか?改まって。」
一呼吸置き、緊張でバクバクの心臓をなだめながら、僕は言う。
ドズル「その…嫌だったらいいんだけどね?」
めん「….?はい」
ドズル「みんなで、シェアハウス…的なこと、しない?」
僕の緊張は頂点に達していた。
2人の様子をうかがう。
めん「……え?」
ぼん「え、ちょ…どゆこと?」
案の定、ポカーン状態だった。
そういえば、ぼんさんと会った時の僕、こんな感じだったな…..w
ドズル「その….」
ドズル「2人とも、さ?」
ドズル「みんなには言えないような事情持ってる….じゃん?」
めん「…..っ。」
ぼん「…..まぁ。」
ちなみに、すでにこの時には、めんにぼんさんの事を話しておいた。
もちろん、ぼんさんの了承を得てからだけどね!
ドズル「それで….」
ドズル「ぼんさんも帰るとこないとあれだと思うし、単に3人で住めたら、面白そうじゃない?」
分かっていた、自己中心的だって。
僕らはまだ、中二。
OKを簡単に出せないことくらい、わかっていた。
けど、寂しくて。
めんはダメだとしても、ぼんさんだけならって言う、縋るような思いだった。
….けど、2人は。
ぼん「いいじゃん!」
めん「大賛成っす!!」
ドズル「…..へ?」
案外すんなり受け入れてくれた。
ドズル「えっ….い、いいの…..?」
自分で聞いておきながら、本当にOKなのかわからなくて、再確認する。
ぼん「うん!俺も、帰るとこないとあれだし…..w」
めん「俺も….まぁ、親に確認はとりますけどねw」
あぁ、流石にめんはそうか….
ドズル「よ、よかったぁ〜…..!」
安心した….もし断られてたら、死にたい気分になってたかもな…..
めん「けど、珍しいっすね?」
ドズル「え?」
ぼん「確かに。なんかあったの?」
ドズル「え?」
2人にそんなことを、言われて、僕はえ?しか言えなくなる。
ドズル「いやぁ〜、ただ普通に興味本位的な?w」
いつも通り、笑って言ってみる。
いやいや、興味本位で人を家から引き抜くなんて最低すぎる….
けど、こんなことをしても、誰からも心配されないのが、僕達3人だったのだから。
今は、お互いを気にかけながら、なんだけどね。
けど、2人は僕の顔をじっと見つめてくる。
ドズル「な、なに…..?」
めん「….いや、本当になにもないのかなって。」
ドズル「えっ….ど、どういう事?」
ぼん「いつもと違うから。」
ドズル「…..え?」
いつもと違う….?
めん「なんか、あったんすか?」
ぼん「俺らで良ければ、話聞くけど」
ドズル「…..!」
優しい。
….けど、これは僕の事情だから。
僕の力で解決をしなければいけない。
まぁ、バレることなんてないと思うけどね。
ドズル「大丈夫だよw」
ドズル「僕あれなんだよね!」
ドズル「実は一人暮らしでさ….w」
ぼん「…..え、嘘?!」
めん「まだ中二っすよ?!」
ドズル「は、はは…..w」
めん「….家庭内で、なんかあったんすか?」
ドズル「…..え」
え、今のだけで分かるの…..?
いやまぁ、中二で一人暮らしは流石におかしいか…..w
ぼん「話、聞くぞ?」
めん「溜め込むより、少しでも吐き出した方がいいっすよ。」
ぼん「俺らもそうだったしなw」
めん「そうっすねw」
そういい、ぼんさんとめんは笑い合う。
….いいな。
僕も、この輪に入りたい。
ドズル「….実は、ね?」
僕は話すことにした。
2人が僕に話してくれたように。
2人が僕を頼ってくれたように…..
コメント
4件
とても良かったです! つづきが、楽しみです!
ドズさん·····そんな過去が·····