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レモン
ふわねこカラメル
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佐藤聡太からの連絡は、課長が飛ばされてからちょうど十日後だった。
「穂乃果、頼む。会ってくれ。お前がいないと、俺……本当に駄目なんだ……」
私はそのメッセージを読みながら、静かに息を吐いた。胸の奥で、冷たい決意が固まっていく。
真言寺くんが後ろから優しく抱きつき、イチゴ味のキャンディーを私の唇に押し当てながら、そっと尋ねてきた。
「どうする? 穂乃果さんが望むなら、僕の力で深く落とすこともできるよ。でも……」
私はキャンディーを口に含み、甘い味が溶けるのを感じながら、はっきりと言った。
「うん。でも、今回は私が主導でやる。彼が私を捨てたときの言葉、全て返して……彼の人生を、私が粉々に砕くの」
真言寺くんは少し驚いた顔をした後、優しく微笑んだ。
「わかった。僕がバックアップするよ。証拠集めやコネは任せて」
私はそれまで一人でコツコツと集めていた資料——佐藤聡太の長年の不正記録や、会社内の癒着の証拠——をもう一度確認した。真言寺グループのネットワークを借りつつも、私がどの情報をいつ出すか、すべて自分で決めた。
まず、真言寺グループの大口取引の話が舞い込んだ瞬間から、私の計画が動き出した。内部調査で次々と明るみに出る不正の数々。私は真言寺くんに「このタイミングで」と指示を出しながら、すべてを見守った。長年私を踏みつけにしてきた彼の傲慢さが暴かれていくのを見ていると、胸の奥が熱くなった。
取引は即刻凍結。
佐藤聡太は社内で吊るし上げられ、朝礼で全社員の前で不正を暴露された。新しくできた彼女、大野さんは「不正に関与の疑いあり」として即日退社を促され、彼を「役立たず」と罵って去っていった。
さらに、私が事前にまとめた資料を基に、彼の個人信用情報が徹底的に傷つけられた。銀行融資は拒否され、アパートは家賃滞納で強制退去。預金は底をつき、クレジットカードは利用停止に。
かつての同僚たちは連絡を絶ち、SNSでは嘲笑の嵐が広がった。佐藤聡太は必死に私に連絡を繰り返し、最後に「最後の頼み」と食い下がってきた。
対面の場所は、真言寺くんが用意した都内最高級ホテルのスイートルーム。私は深紅の華やかなドレスを自分で選び、完璧なメイクを施した。隣に立つ真言寺くんは黒いスーツ姿で静かに腕を組んでいるが、すべては私が決めたシナリオだった。
佐藤聡太が入ってきたとき、彼はすでに人間の形を失っていた。スーツは汚れ、髭は伸び、目は落ちくぼんでいた。
彼は膝を折り、這うように近づいてきた。
「穂乃果……助けてくれ。お前、知ってるだろ? この状況、お前が……」
私はゆっくりと近づき、冷たい声で、でもはっきりと言葉を一つずつ突き刺した。
「佐藤さん、私を振ったときの言葉、全部覚えてる?『お前みたいな地味子じゃ満足できない』『もっと華やかで、俺のステータスに合う女が欲しい』『使えない女と一緒にいるのは、俺の人生の無駄だ』……って」
佐藤聡太の肩が激しく震える。
「それが今、どうなってると思う? 私はこの人の隣にいる。あなたが一生かかっても手に入らない世界で、私が自分で選び、掴み取った毎日を、甘やかされて、愛されて、輝いてる。あなたが欲しかった成功も、地位も、華やかさも——全部、私が手に入れた」
真言寺くんが穏やかだが底冷えのする声で補足した。
「君の不正記録は、業界全体に共有した。これから先、まともに就職できる会社は……日本中にないだろう」
私はしゃがみ込み、彼の目線に合わせた。かつて私に向けられた嘲笑の視線を、今は私が返す。
「後悔? 私が会社で毎日怒鳴られ、陰で『暗い』『使えない』『バカ女』と笑われ、泣きながら耐えていたとき——あなたは新しい彼女と笑って、『俺の人生の無駄』だって言ってたよね?」
私は立ち上がり、冷たく言い放った。
「あなたはこれから、本物の地獄で生きて。毎日、食うものにも困り、住む場所もなく、誰も助けてくれず、私が捨てられたときと同じ絶望を、ずっと味わいながら這いずり回って。もう二度と、私の前に現れないで」
佐藤聡太は床に顔を押しつけ、声を殺して泣きじゃくった。
私は振り返らずに部屋を出た。廊下に出た瞬間、真言寺くんが私を優しく、けれど強く壁に押し付けるように抱きしめた。
「穂乃果さん。かっこよかった。本当に……痺れたよ。君が自分で決めて、動いたからこそ、こんなに輝いて見える」
私は彼の胸に顔を埋め、初めて自分から強く抱き返した。胸の奥に残っていた最後の重い塊が、溶けて消えていくのを感じた。
「……ありがとう。でも、これは私がやりたかったこと。真言寺くんがいてくれたから、勇気が出せたの」
真言寺くんは私の髪を優しく撫で、耳元で甘く囁いた。
「うん。穂乃果さんが勝ち取った勝利だもんね。今日は特別に、僕の指でたっぷり甘やかしてあげる。イチゴキャンディーも、キスも、温かいハグも……全部、穂乃果さんの好きにしていいから」
私はその温もりの中で、幸せのため息をついた。もう、誰かに守られるだけの私じゃない。私が選んだ道で、強く生きていく——そう心に誓った。