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「また寝不足?」
朝の通学路で、隣を歩く明里が呆れたように俺の顔を覗き込んだ。
「最近アニメが面白いのがいけない」
「それ、先週も聞いた」
「先週とは違うアニメだから」
「そういう問題じゃないでしょ」
明里はため息をついた。
新星明里。
俺の幼馴染だ。
肩まで伸びた赤みのある髪に、よく笑う大きな瞳。制服をきっちり着こなしていて、朝から元気いっぱい。
性格も明るく、人懐っこい。誰とでもすぐに仲良くなれるし、困っている人を見つければ放っておけない。
そのくせ、たまに妙なところで抜けている。
小学校からずっと同じ学校に通っている。気がつけば、もう十年以上の付き合いだ。
「昨日何時に寝たの?」
「二時」
「……馬鹿じゃん」
「三話だけ見るつもりだったんだよ」
「何話見たの?」
「八話」
「もっと馬鹿じゃん」
明里が笑う。
こういう会話も、もう何年続けているのか分からない。
俺たちが通っているのは、私立明正高校。
都心から少し離れた場所にある、ごく普通の私立高校だ。
学校のすぐ近くには大きな川が流れている。
川沿いには遊歩道が伸び、その向こうには木々の生い茂った河川敷が広がっている。学校の周辺にも公園や雑木林が多く、都会というより少しのどかな雰囲気だ。
春になると川沿いの桜が綺麗で、昼休みに外へ出る生徒も多い。
勉強に力を入れているわけでもなければ、スポーツの名門というわけでもない。
少し古い校舎と、妙に広い敷地。
それから、なぜか部活動の種類だけはやたらと多い。
そんな学校だ。
今日は新年度の始まり。
昇降口には新しいクラス表が張り出され、生徒たちが群がっていた。
「何組だった?」
明里が人混みの向こうを覗き込む。
「……二組」
「あ、私は四組!」
「そっか」
「えっ、反応薄くない?」
「まあ、去年は同じクラスだったし」
「今年も一緒がよかったのに!」
「会おうと思えば休み時間でも会えるだろ」
「それもそうだけどさ」
少し残念そうにしながらも、明里はすぐに笑った。
まあ、いいか。
ずっと一緒だったから、別のクラスになるのも悪くない。
そう思っていた。
始業式も特に問題なく終わった。
校長の話は長かった。
新年度の心構え。
生活習慣。
交通安全。
毎年聞いているような話ばかりだった。
寝落ちしないようにひたすら頑張った。
そして教室へ戻り、担任の話を聞いて、教科書を受け取って、簡単なホームルームを終える。
「じゃあ今日はこれで終わりだ」
教師がそう言った瞬間、教室中から安堵の声が漏れた。
クラスが賑やかになる。
眠い。
帰ろう。
今日は家に帰って寝る。
それが一番いい。
配られたプリントや教科書を鞄に詰め込む。
「――いた!」
聞き慣れた声がした。
教室のドアの方を見る。
「明里?」
明里がこちらへ駆けてくる。
「何?」
「映画部!」
「……は?」
「一緒に見学行こう!」
明里は机を両手で軽く叩いて、俺の顔を覗き込んだ。
「なんだ突然? 映画部?」
「だって悠真、映画好きじゃん」
「見るのが好きなだけ」
「この前だって映画館行ったじゃん」
「あれはお前が誘ったんだろ」
「でも楽しかったでしょ?」
「まあ、それは……」
「ほら!」
明里が嬉しそうに笑う。
「じゃあ決まり!」
「いや、まだ何も決まってない」
「じゃあ見るだけでもいいじゃん」
「それなら家でいいだろ」
「駄目!」
「なんでだよ」
明里が少しだけ頬を膨らませた。
「せっかくの高校二年生だよ?」
「うん」
「青春しようよ」
「……急にどうした」
「だって去年まで同じクラスだったのに、今年は別々なんだよ?」
「まあ、それはそうだけど」
「だから!」
明里は俺の腕を掴んだまま、にっこり笑った。
「部活くらい一緒にやろうよ」
「……それ、映画部じゃなくてもよくない?」
「よくない」
「なんで?」
「映画部がいいの」
「映画部が?」
「うん」
明里は少しだけ間を置いてから、いたずらっぽく笑った。
「悠真と一緒なら、もっと楽しいと思うから」
「……」
「何?」
「いや」
なんとなく、顔を見られなかった。
「……分かったよ。見学だけな」
「ほんと!?」
「入部するとは言ってない」
「じゃあ、見学してから決めよう!」
「はいはい」
「約束だからね!」
明里は嬉しそうに笑った。
そのまま俺の持っている鞄を引っ張って、廊下を歩いていく。
「ちょっと、引っ張るなって」
「早く!」
「そんなに急がなくても映画部は逃げないだろ」
「分かんないよ?」
「逃げる映画部ってなんだよ」
笑い声が廊下に響く。
その時の俺は、ただいつもの明里とのやり取りだと思っていた。
この先も、こういう日がずっと続く。
なんとなく、そう思っていた。
ただこの時は、そんなことより眠かった。
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千波
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お豆腐メンタル
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コメント
1件
めっちゃ良かったです!!😭💕 悠真と明里の掛け合いが自然で、幼馴染の空気感がひしひし伝わってきました!「二時に寝て八話見た」→「もっと馬鹿じゃん」の流れ、あるあるすぎて笑った😂 明里の「悠真と一緒なら、もっと楽しいと思うから」の台詞、ちょっと不意打ちでキュンと来ました…!照れて顔見られなくなる悠真、分かるよその気持ち…!! でも最後の一文が気になる…この先何かあるの?続きが待ちきれないです!!🌸