「□□さん、彼氏できたの?」
よく話す同僚の女の子にこそっと小さな声で聞かれた。
「いないけど、なんで?」
「だってあんな仕事熱心だったのにぼーっとしたり、急ににやにやするし。絶対そうだ」
いるなんて言ってないのに彼女は羨ましい〜と嘆いた。
彼氏ではないけど、誰もいないって言ったら嘘になる。私にやにやしてたのか、、
「ばれてないって思ってるんだろうけど、□□さんなんか変わったしすぐ分かったよ」
「だからいないですー。この話は終わり」
変わった、かな?
仕事に戻ろうとして手を止める。樹のことを思い浮かべた。生意気だけど私に頑張ってご飯作ってくれたり、なんだかんだ健気で可愛い弟みたいな感じだった。
前は仕事に熱中していたけど、最近は樹に早く会いたくてすぐ帰るようになった。思い返してみたら、もう樹がいる生活が当たり前で、1人だった時のことが思い出せない。
昼休憩の終わりを知らせるチャイムがなった。あと5時間だけ、早く終わらないかな。時計を見て気づいたらそんなことを考えていた。
思わず自嘲する。
確かに、私変わったな。
◇◆
午後は取引先となんやかんやで外出。近くの駅へ上司と話しながら向かう。
「…あ、」
「どうした?」
「いえ、なんでもないです」
そう返事したあとも私の視線は一点に釘付けになったままだった。反対側の道で、前から樹が歩いて来るのが見えた。それだけならまだいい。
問題は女の人と歩いていること。
バイト先の子とか彼女ではないはず。別に、私には関係ないんだけどさ。
女の子が樹の手をとって立ち止まった。樹は背を向けて何か話してるみたい。ここからじゃさすがに内容は分からない。
「っ、」
2人が顔を寄せてキスするのが見えた。
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