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#料理男子
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「そうだ。食べ終わったら一緒に風呂に入ろう」
「え、嫌ですけど。あ、お吸い物いい匂い」
全て温めてテーブルに並べると、見た目も美しい。
食べるのがもったいないけど、美味しそうな匂いには負ける。
「まあ、入るけど」
スルーしたのに、諦めの悪い喬一さんはお箸を並べながら、さらりと言う。
こちらも騒がずに流したのに、諦めが悪い。
「嫌です。いただきます」
「嫌の嫌だね。仕事を頑張ったダーリンにご褒美が欲しいものだ」
「ご飯の後ってお腹がぽっこり出ちゃうから嫌ですー」
たけのこご飯の香りも美味しい。パクパク食べていたら目の前の喬一さんがにっこり笑った。
「じゃあ今日の夜、ご飯の前に入ろうか」
「ひ」
「今は我慢しとくけど、夜な。決まり」
「え、ええ……っ」
「ほら、可愛いハニー。ご飯が冷めるよ」
ご機嫌な旦那様は、それからは私が何を言っても完全にスルーしたのだった。
この人に、本当に勝てない気がする。
しかも食事を終えた後、寝てくださいと言うのに私がお皿を洗うのをソファに座って待っている。これって一緒に寝ようって意味だよね。
私はさっきテーブルで転寝してたからあまり眠くないけど、彼は私を抱きしめてさっさと寝ちゃうんだろうな。ドキドキして絶対に眠れないに違いない。
ちらっとソファの彼を見ると、恩師の著書をせっかく頂いたからと目を通している。
一か月で数冊は読んでいるようだけど、中身は難しい医学書で私は視た瞬間眠気が押し寄せてきた書籍だ。
私が代わりに読んで、どんな内容だったか伝えられたら、睡眠時間確保できるのに。
でも本を、頬杖ついて読む喬一さん絵になるな……。
「そうだ、ハニー」
「え、は、はい!」
見とれていたのがバレたのかな。焦ったけど、どうやら違ったらしい。本をしおりを挟んで閉じると、キッチンにやってきて一緒にお皿を拭きだした。
作ってくれたから片付けは私!と約束したのに。
「年末なんだけど実家には帰らず、年明けに挨拶に行こうと思うんだけどいい?」
「え……お姉さん、待ってるんじゃ」
「うちは年末年始、親戚付き合いを絶ってるから俺たちが帰ると、それを理由にゴミが湧く」
「ゴミ……」
親戚を嫌っているのは、喬一さんの言葉の端々から感じていたけど、結婚式からも遠ざけて、鉢合わせも避けたいらしい。
「ああ、ごめん。驚かせたか。ちょっと、本当に親戚は好きじゃないんだ」
「いえ。あのう、何があったか聞いても大丈夫ですか?」
「気分がいいものではないよ」
即答され、戸惑ったけれど彼の横顔を見る。
「喬一さんが思い出したくないなら、無理には聞かないんですけど、でも私の実家でもあるので、知りたいというのが本音です」
こんな優しい喬一さんが怒るのだから、相当なものだと思う。
するととても言いにくそうに、彼が口籠っていたが意を決したように言った。
「姉の結婚式に参加したいと無理やり入ってきたくせに、当日欠席したんだ」
「ええ……?」
「一番大きな会場を取って、ガラガラにするのが魂胆だったんだろう。向こうのご両親は、婿養子に出すことを認めてはいたけど、もし親戚が誰も来なかったら傷つくだろう。破談させようとしたに違いない」
「酷い。あんまりだ。親戚なのに」
「その時、ドタキャンした親戚の代わりに、昔から仲良くしていたからと君のご両親とシャシャングリラのオーナー夫妻、そして姉と旦那さんの友達が急遽駆け付けてくれて、シャングリラホテルの宿泊手配までしてくださって、親戚が来るよりは最高な式だったけどね」
「……うちの親、偶にはいい仕事しますね」
「腸が煮えくりかえったよ。それ以降、姉を跡取りと認めていない親戚には店の敷居も跨がせていない。うちからの援助は全て絶った。大体古いんだよ。分家とか本家とか」
だから私たちの式は、誰にも見せないように両家だけで行ったんだ。
挙式も彼の親戚は来なかったからきっと結婚式自体も知られていないんだろう。
豪快でさっぱりしたお姉さんだったけど、とても苦労されていたんだと思うと胸が痛む。
「まあ関わらなくていいけど、もし近づいてきたら全力で守るから安心して」
「私も自衛できます」
「と言っても姉の結婚式以降、全く連絡もしていない。今更、すり寄ってこないだろうけど、念のためな」
そんなに長子であるお姉さんが店を継ぐのは駄目なのかな。能力的にもお姉さんは申し分ないのに。でも確かに、それならば私も許せないな。
もしうちの兄が会社を継ぐのを、親戚が文句言ってきたら――。私が生ハムきゅうりを持って追い出すより早く、父が塩を投げつける。いや、塩を持った手で殴りかかりそうだ。
そんな、彼の歴史ある老舗の看板がない私たちみたいな能天気な親子だからこそ、喬一さんは選んでくれたのかもしれない。
「さて、やっぱり一緒にお風呂にはいろっと」
「ええ? 無理ですよ。無理」
「教えたんだから、ご褒美だよ。ほら、行くよ」
最後のお皿を拭いて、食器棚に並べ終える。夜勤明けだというのが信じられないほど手馴れた手つきで、私をお風呂に浚ってしまった。
私を守ってくれると言ってくれた彼のために、私ももし親戚が何か言ってきたら、絶対に守って見せると誓う。