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#料理男子
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それからお互いのお弁当を作ったり、彼が忙しそうなときは私がご飯を作るようになってから、ちょくちょく一緒にお風呂に入るようになり二人の時間が増えた気がする。
彼が医学書を読む隣で、私がケーキの本を読む。
喬一さんに、「これとこれ、甘さ控えめみたいですよ」というと、「ん?」って優しい声で聞き返してくれて、どっちがいいか答えてくれるのが嬉しい。
「最近、すれ違い生活じゃなくなりましたね」
「ああ、日色さんがお子さんの行事で忙しくて、色々交代したり時間を配慮してたから。今は落ち着いたよ」
「ええ、日色先生ってご結婚されてたんですか」
「ん。それで前の職場で出世コースから外されたから、うちに引き抜いた。お子さんが居たら、前の職場ではやっていけなかったから、彼女も喜んできてくれたよ」
「受付の方が、日色さんのことを古女房って言ってました」
「ぷ。女性はすぐに勘繰るよな。ベテランの彼女には助けられたけど、俺は昔から紗矢一筋だし」
また照れもせずにそんなことを言う。一向に彼の甘い言葉に慣れない。すぐに真っ赤になる頬を押さえながら、料理本をめくった。平常心。平常心だ。
「あ、これ美味しそうです」
「作ろうか?」
キノコのデミグラスソースをたっぷりかけたハンバーグだったのだけど、彼はかけていた眼鏡をテーブルに置くと、腕まくりを始めた。
確かに喬一さんにはハンバーグなんて簡単なのかもしれない。
「きのこなら常備してあるし。ひき肉も冷凍してある」
「食べたいっ じゃあ私サラダでも」
一緒にキッチンに入って、私もサラダ室からブロッコリーやキュウリを出す。
するとエプロンを腰に巻きながら彼が感慨深そうに頷く。
「料理って誰にも邪魔されず、趣味に没頭できる唯一の時間だって思っていたんだけど」
私がエプロンを付けている姿を遠慮なくじろじろ見ながら、微笑む。
「紗矢と一緒なら、いいね。二人で料理ってとても楽しいよ」
「私も、嫌がられるかなって思ったんだけど優しく教えてくれるから感謝してます」
料理をするときはキッチンに入ってこないでほしい。
喬一さんは最初に確かにそう言った。なのに、簡単に私に一緒に作ることを了承してくれて、趣味の邪魔にならないかと思ったら一緒に楽しんでくれる。
私には聖人君子のような旦那様だ。
それに腰巻エプロンの破壊力ときたら、私は彼のエプロン姿で白ご飯が何杯も食べれそうだ。
「俺の趣味ばかり付き合わされて申し訳ないな。俺も紗矢の趣味に付き合おうかな」
「ゲームですか?」
「そ。俺に似た眼鏡キャラとクリスマスデートに課金だっけ?」
「喬一さんって記憶力良すぎ。残念ながら、全くプレイしてなかったので、今から課金してもクリスマスデートは無理ですね」
ひき肉をボウルに入れた喬一さんは不思議そうな顔をする。
こんなにゲームの知識が全くない人に説明するのは恥ずかしいから、興味を持たないでほしい。
「期間限定イベントなんですよ。今からやっても一日一話進めるシナリオがクリスマスまでに終わらないんです」
結納、挙式、引っ越しをこの短時間で行ったんだ。ゲームなんてログインすら忘れた日もある。
「それは君の趣味の時間を奪って申し訳ないな」
「……いいえ。喬一さんよりいい男なんてゲームの中にさえもいないので大丈夫です」
悔しいけど、あんなに心の癒しだったゲームのキャラとの交流が、ログインするためのノルマのように思えてしまう。
ただ、喬一さんの仕事を待つ間に進めるのには楽しいから、完璧には止めていないけど、今は本当に純粋にシナリオを楽しんでいる。
「……可愛いお嫁さんから、ご飯の前に甘いデザートをもらった気分だ」
「あれ、喬一さんって甘いもの苦手でしたよね。控えた方がいい?」
にやりと笑うと、素早く彼は私の額に口づけた。
「癖になりそうな甘さだ。もっと欲しいぐらい」
「うーん。君の瞳は、百万ドルの夜景を閉じ込めたようだ」
「既製品の甘さはいらないな」
ぺしっと今度は額を軽くたたかれた。アメとムチだ。
でも私は喬一さんみたいに気障な言葉がすらすら出ないから、言葉が全く浮かんでこない。
「素直に好きって言ってくれるだけでいいよ」
「シンプルイズベストですね。でもそれが一番恥ずかしい、かも」
「お、じゃあこれからはそれを強請ろうっと」
恥ずかしいって言ったのに、喬一さんは偶に意地悪だ。
嬉しそうな、無邪気な子どもみたいな部分がある。
それでも私は、その倍以上彼から甘いデザートをもらっているので、反論なんてできないし拒否することもできない。
私も毎晩、甘いデザートが欲しいからね。