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「も、もふくんドラキュラなの…?」
「ごめん、嘘ついてて。」
もふくんは俺を優しく抱いて空に舞った。カツっと靴の音が屋根に響く。二人だけの空間。
確かに考え直すと人の血を生きる糧とする人は見たことがない。こんなに血色の悪い肌がさっきまでは普通で、安心する人だったのにみるみるうちに俺のココロは恐怖で染まった。
もふくんは、なんのために俺を奪ったの?
「えっ、あっ、カヒュッカヒュッゴホッケホケホ」
「ど、どぬ!しっかりっ…!」
「カヒュッ…」
「あ”っ」
意識が遠のく。倒れたはずの躰は何故か痛みを感じない。そっか、もふくんが抱いているのか。
「も、ふくん」
「どぬっ、」
「ごめんね、また心配かけてっ」
「心配かけろよッ、ごめん、大丈夫?」
「ん、らいじょーぶ」
「よかった、俺どぬの血は吸わないから」
「んん、吸っていいのに。」
ずっと、ずっと同じ答えを出す。もふくんなら大丈夫ってなぜか思う。
俺って最低だな、好きな人が一瞬で怖くなってまた惚れて、大馬鹿者だ。
「そんなのできないよッ、」
「もふくんはさ、俺をなんで奪ったの?」
「どぬに愛を知ってもらうため。」
「嘘、ぜったいそれじゃない」
「なんで、本当だよ」
「もふくんは俺に好きって言ってくれたじゃん、本当を教えてよ、
自分の正体を教えてくれたように、もっと教えてよ、知りたいよ、もふくんのことが好きだから」
「ッ…綺麗って思ったんだ」
少し間をおいてもふくんの口から言葉が溢れた。
「え?」
「あの満月で明るい夜、
月色に染まった白髪、少し憐れむような顔、迷いのない足の動き。
そのままのどぬに恋をしたんだ、一瞬で。そして綺麗で欲しいなって思った。」
「…ッ//」
もふくんがようやく明かしてくれた本当のこと。迷いのないもふくんの真っ直ぐな言葉に胸がズキズキするけれど、聞かずには居られない。
「以前からその屋敷は知ってたんだ。
大手企業、だし…俺の親の取引相手だったから」
「えっ」
取引…?俺はお父さんから仕事について何も聞いたことがない。もふくんのお父さんが医者ってことは医療関係の製造会社とかだったのかな、
「そして、俺もよく商談を聞いてて、どぬのお父さんが僕にどぬの話をしてくれたんだ。」
「お父さんが…?」
俺を部屋にしまって生かしておいただけのお父さんが…?
「凄く綺麗な子だって。唯一無二の風貌は自慢モノだって。結局どちらにも似なかった子だけど凄く大切だって。将来は君のお嫁さんかもしれないって。」
「え…ッ/ た,いせつ…嫁…?」
「うん、どぬはいつも出かけてるって言われてて会えなくて、まさかあの飛び降りようとする瞬間まで閉じ込められてるって知らなかった。そしてタイセツが嘘だったんだって同時に思って奪って僕のものにしようって思った」
「もふくんのもので俺よかった。お父さんのこともしれてよかった」
「そっか、怖がられるかもって、嫌かもって思った」
「え?」
「嫁って嫌じゃないんだなって。奪ったのも俺の勝手なのに怒らないんだなって。」
「嫌じゃない、好きって思ってる。奪われて良かったって。」
「そうなんだね、それならよかったのかなッ」
「うん…!」
「うわあっ、ごめんねっ黙っててッ」
ぎゅっ
「ありがとうもふくん、俺を奪ってくれて。救ってくれて。色々教えてくれて。」
「ありがとうッ、わがままな僕を許してくれて…」
俺等は二人で抱き合って満月の月を見た。俺は満月じゃなくて、満月の日だけ赤くきれいに光るもふくんの目に心を奪われた。きっと、完全なドラキュラになるのは満月の日だけなのだろう。
俺はもふくんの腕の中で眠りに落ちた。
「どぬ、どぬ、起きて」
少し焦ったような余裕のないもふくんの表情。
「あ、もふくん…?」
「うん、ほら、夜明けが近い。」
「ん、」
「俺、ドラキュラの日の夜明け、光を浴びると生きられなくなる」
「えっ、」
「ごめん、」
「いやいやっ、これは急がないとだよ、あと持って五分…
もふくん、飛べる?」
「ん、飛べる。」
「じゃあ、木陰にでも、」
「いや、全力で家まで戻ろう」
「え、間に合う?」
「僕の血を含んだその枷を嵌めてるどぬも生きられなくなっちゃう」
「え」
「ごめん、僕のものにしたくて嵌めちゃったの…」
「いいよ、」
「今外せば間に合う」
「嫌、絶対。」
「そっか、わかってたけど。じゃあ飛ぶよ、急がなきゃ」
「うん!」
「じゃ、失礼」
ひょいっ
「んわっ!?//」
「これじゃないと飛べない。」
「わっ、わかったよッ/」
「ありがと」
俺を姫抱きにして、もふくんは少し明るくなりつつある空を飛んだ。