テラーノベル
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命は一つだと、誰かが言っていた。
たった一つの命だから大切にしなくちゃいけないよ、と教える誰かの言葉にみんな当たり前に頷いていた。
僕も、その中にいたはずだった。
21歳のあの日までは。呪いをかけられて、助けてもらったヒーロー協会から、デバイスを手渡されるまでは。
あの日から、僕の命の価値は煙と同等になった。九つの残機、消費しても煙草一本で元に戻るそれは容易く今までの常識を覆す。
とある出来事から察することができるようになってしまった致命的のライン、それがチラついた瞬間、脳内には死んで回復するという選択肢が浮かぶようになった。
幸運なことに、マナくんが激怒しながら医療班に連れていってくれるのでまだ残機を使ったことはないのだが。
そのたびに思うのだ。彼らに残機というシステムを伝えたらどんな顔をするだろうか、と。秘密にしていたことを怒るだろうか、可哀想だと同情してくれるだろうか、人間じゃないなんて突き放されるだろうか。
ぐるぐると巡る考えに嫌気が差す。なあ、この間のリトくんとのお出かけは楽しかったろう。彼らが優しいことなんて十二分に分かっているだろう。それでどうしてこんな風に踞っていられるんだ。
なう、にい、なあおと猫たちが鳴く。
時々思ってしまう子供のような思考はいつになったらやめられるのか。成長しない自分に呆れさえ感じて、少し笑う。
煙のような猫を撫でて、風に揺れることのない毛並みを整えた。
「……ねえ、例えばだよ」
ポツリと話しかけても猫はこちらを見向きもしないで欠伸する。その態度はもはや慣れたもので特になにも思わなかった。
「死にたくないっていったら、怒るかい?」
猫は答えない。
「……彼らが大切になっちゃったっていったら、怒るかい?」
猫は答えない。話しかけられているのは自分ではないと理解しているからだった。それは七人の彼らなのかもしれないし、世間かもしれない。もしくは過去の自分自身か。
なんにせよ猫は答えなかった。ただ、答えを返せる人間の方向を、見つめていた。
「おはようさん!テツ」
「マナくん!おはよう」
青空の下、彼の白い衣装がキラリと光る。最初はその白を白衣と重ねて取り乱したけど、彼の人となりを知った後ならば特に何も思わず接することができるようになっていた。
未だに、白衣の人間を見ると息が出来なくなる。酸欠で視界が暗くなって、気絶で視界が暗くなって見えなくなったときにやっと安心する。
でもマナくんは別だった。誰一人見落とさないよう駆け回って、その真っ白なヒーロースーツを泥だらけにしても誰かの手をとる姿はいつだって格好いいと思っていた。特別、ってやつかな、なんて思って一人で気恥ずかしくなる。切り替えるようにして彼のもとへ足を踏み出した。
「いやぁ、やっと俺の番が巡ってきたって感じやな……」
隣を歩いていれば、マナくんがしみじみと呟く。どうやら今まで一緒に見回りができていなかったことが寂しかったらしい。
「拠点でたくさん話してるじゃん」
そう言えば「分かってないなぁ…」という目で見られた。何故。
拠点で時間が合えば一緒にご飯を食べるくらいの仲ではあるし、いいのではないかとも思うが、それはどうやら違うらしい。
「あきまへんわ、最近の子はあきまへんわ」と大袈裟に関西弁を言ってプンスカと顔に描いて歩いていく彼の背を笑いながら追った。
最初は、顔がいい人。次の瞬間に人見知りの可愛いやつ、次に仲良くなりたいヒーロー仲間。
テツに思ったことは並べてみれば単純で、小学生の子供か!とも感じる。
でも、そんなふうに思わせてくれるのがありがたかった。リトもウェンもだけど、最近の荒れている世間に少し疲れて人々の目をしっかりと見られなくなるときがヒーローにもある。
その中で、佐伯イッテツという男はどこまでも真っ直ぐだった 。裏も表もなくて、一生懸命に生きているような素直な人間。
自分の中の全部が見透かされてしまうんじゃってくらいにテツの目は真っ直ぐで、裏も表もなくて、眩しかった。
だからこそ、その純粋な瞳が時折苦しそうに歪められるのが耐えられない。純粋な子供のような彼だからこそ、フラッと消えてしまいそうになって怖くなる。
だから、少しずつ話したいと思ったのだ。少しずつ、少しずつ。テツが自分から話そうとしてくれるまでゆっくりと。
お節介な仲間だと、怒ってもいいから向き合わせてほしい。
そんなことを考えながら、隣を歩くテツを見た。コロコロと変えるようになった表情に頬が緩む。初対面の貼り付けたような笑顔は最近はめっきり見ることがなかった。
リトと遊びいったからか?とふと思う。そして、そういえば遊びに行ってないの俺だけやな、とも思った。ウェンは飲みにいったし、リトはミュージカル観に行ったし…
こうしちゃいられねえ!と心の中のテツくんのお友達のマナくんが叫んだ。
「テツ!」
「えっ、なっなんでしょう」
ゆっくりとは言ったが、俺だけ実績なしなんて面白コメディアンのマナくんが泣く。俺の目標は、テツを爆笑させることなのだから。
「今度、どっか遊びいこう!」
紫色の瞳は、投げられた言葉を咀嚼するように数回瞬きしてから、ゆるゆると細められた。「うん」と小さく聞こえたことに、ガッツポーズをとりそうになる。
ほな、どこ行くか考えんとな~なんて話しながらも、走っていく小学生や花屋のお婆さんへと目を動かし、見回りを行っていた。空は青く、空気は澄んでいる。太陽の眩しさに目を細めながら、笑った。
数時間もしないで、それが壊れることも知らずに。
デバイスから通達を受けてから、緋八と佐伯はすぐに現場へと向かっていた。
「大型ショッピングモール狙うとか!最近の大人しいイタズラとスケール違いすぎひん!?」
ガッカリポイントなる正体不明のエネルギーを集めているCOZAKA-Cに対して、ヒーローは事件が起こってから向かうしか対処法がない。その事実に歯噛みしながらも、到着が一秒でも早くなるよう走っていた。
今日の見回りが己と佐伯で良かったと思う。俊足のハニービーとも呼ばれるヒーローとすばしっこさで右に出るものがいない身軽なヒーローならば最短で現場に着くことができる。
現に、通達を受けてから五分もしないで二人は大型ショッピングモールに着いていた。
「皆さん!焦らないで!ヒーローが来たのでもう安心して!」
大声を張り上げてテツが避難誘導をし、逃げ遅れていた市民を安全な場所へと逃がしていく。言葉を交わさずとも無意識に自分がCOZAKA-Cへ攻撃、テツが避難誘導と役割を分担できたことになんだか嬉しくなる。
それでも、レイピアの自分ではショッピングモールを埋め尽くすCOZAKA-Cを対処しきれず、高火力の二人の早い到着を願った。
「マナくん!避難終わった!ショッピングモール内に人一人の生体反応もない!」
「ようやったテツ!ウェンとリトが来るまでCOZAKA-C一匹も逃がさんで!」
「了解!」
レイピアで刺して、固定して動けなくする。ショッピングモールという物が溢れかえった場所での戦闘は中々辛いが、それでも体を動かし続けた。
「どこから湧いてきとんねんCOZAKA-C!」
「倒しても倒してもキリないんだけど!」
焦りが、つのる。
おかしい。明らかにおかしい。戦闘開始からもう二十分は経っている。リトとウェンも既に合流した。耳をすませば落雷のような音と、大剣を振り下ろすウェンの声が聞こえてくる。
しかし、大量のCOZAKA-Cに押されるようにして連携をとることが出来ていなかった。目の前の敵を倒すことに必死で、四人がろくに作戦をたてる事もできない。
「おかしい…」
呟いて、レイピアを構え直す。その間も頭の中で強い違和感の正体を探っていた。
おかしい、こんなのガッカリポイント目的とは思えない戦い方だ。COZAKA-Cに感情はないが、いつだってガッカリポイントを集めることを目的に動いている。
俺らを散らすことが大量のCOZAKA-Cの目的だとして、その次はなんや。ヒーローを殺すこと?そんならもっと大型がいなくちゃおかしい。なぜ捨て身で突っ込んでくる。物量で押して、何を隠そうとしている。何を見えなくしようとしている。
ふいに、COZAKA-Cの隙間からテツの姿が遠くに見えた。倒してもキリがない、と大声で喚いてるのが分かる。いつも道理の彼だがそれでも、おかしかった。
だって、何故テツの背後にはCOZAKA-C以外のナニカが__
「ッテツ!!!」
手を伸ばそうとしても目の前のCOZAKA-Cに邪魔されて一歩も前に進めない。それでも傷を負うことも気にしないで彼だけを見つめた。
「どけェッ!!!」
なんでその考えに至らなかったのか。人間でもよくやる手口だ。見えなくして、見えない間に連れ去っていく。それならば一個体が弱いCOZAKA-Cでもヒーローの目の前で人を拐える。
COZAKA-Cの群れに紛れるようにして、ナニカがテツに近付いた。宝石箱のような見た目をしたナニカはガパリと口を開いたかと思うとみるみるテツを飲み込んでいく。不自然なほどに変形し大きくなった宝石箱は、蓋を閉じてそのまま何処かへ消えてしまった。
異常を察したウェンのビームによって、辺りが見やすくなる。雷が落ちたような衝撃のあと、焼け焦げたCOZAKA-Cを踏みつけてテツのいた場所へ向かった。
テツのデバイス。それだけが床に落ちていた。デバイスを酷使したことで疲労を滲ませている二人へと視線を映す。
「テツが、 」
感情ののっていない俺の声を聞いて、生き残っていたCOZAKA-Cがケタケタと笑う声だけがショッピングモールに響いていた。
「状況は理解した。」
東の拠点に八人が集まり、机を囲う。
初対面のときよりも口数が少なく、重々しい空気が拠点に広がっていた。
伊波の冷静な声がよく通って、あまりに静かなOriensがいる空間から目をそらすように伊波の手元に目をやった。机の上に広げられた資料、資料、資料。 ほとんど、Oriensの三人が東でかき集めたものだった。
佐伯が連れ去られたという日から、もう5日が経過していた。
48時間が経過した 時点で東のヒーローだけではこれ以上の追跡は不可能だといい、西へ応援が求められた。東のヒーロー協会の偉い人らはなんだかやけに焦っていて、ろくな状況説明もせずDyticaが東へと向かわされた。
そして、Oriensの拠点のドアを開ければこの重苦しい空気が広がっていた。
多分、佐伯がいないからだと思う。COZAKA-Cに連れ去られたと聞いて、ぼくもびっくりしたし。Oriensは仲が良さそうだったから、余計に驚いただろうと思った。
拠点に入ってまずしたことは倒れそうな三人を寝かせることだったし。睡眠はとってる、時間が惜しいと三人とも口を揃えていったけど、全部伊波が黙らせた。確かに食事も睡眠もとっているだろうが、心というものはそれ以上に体に影響を与える、らしいから。
寝かされて、きっちり八時間の睡眠の後起きてきた三人はいくらかマシな顔になっていた。
そして、状況を一番分かっているマナとまとめ役の伊波を中心に会議が始まった。
「まず、今回のCOZAKA-Cの行動は明らかにおかしい。ヒーロー、というよりも人を連れ去るなんていう行動は今まで確認されてない。」
声を張る伊波の言葉に耳を傾ける。COZAKA-Cはガッカリポイントを集める機械のようなものだから、人を連れ去るなんてハイリスクなことをするにはポイントを集める効率が悪すぎる。だからこそ異常だと言えた。
「だから、今回の件は佐伯イッテツ限定の行動だと考え話を進めるよ。」
そしてその前に、と伊波は続けた。ギロリと右のほうを睨んで刺々しく言う。
「これからイッテツの居場所が分かるだろう人達に色々と説明を貰いたいと思います」
思わず、は?という声がもれた。マナや赤城も驚いたように目を見開いている。
伊波の視線の先を見れば、ばつが悪そうにそっぽを向く狼と焦ったように弁明する蛸がいた。
「いや、あの、俺たちが居場所を知っているのではなくて居場所を知っている人を知っているというか…」
「それを!三人寝かせてる間に!共有しろっていってんだよ!!!俺が!探してた時間!返せ!!」
「伊波、落ち着け…まだその人らに教えてもらえるか定かじゃなくて…」
ブチギレ伊波が一言「正座」というと、素直に従った。悪いと思う気持ちはあるらしい。珍しいなと思って見ていれば、隣がゆらりと動いた。宇佐美が二人に近づいて、しゃがみこむ。
「教えてくれ、テツの迎えに行かなきゃいけねえんだよ」
お礼ならいくらでもするからさ、という声は明るくて、今までの息苦しかった空気を和らげる。そんな言葉だったからこそ、二人は苦しそうに眉をしかめた。
言いづらそうにしながらも、ゆっくりと口を開く。
「…イッテツの居場所を探せるだろう人たちは、東のヒーロー本部です。多分、GPSかなにかで探せるかと」
流れてきた情報に頭が追い付かなくて、その場の空気が固まった。東のヒーロー本部が分かっているならば、なぜそれをヒーローに伝えない?
「詳しく教えて」
硬い赤城の声に観念したように、事の全てを話し出した。
東のことについて調べていたら、資料請求の中にGPSについての記載があったらしい。その形状がまるっきり佐伯の着けているチョーカーと同じであった。少し前に知ったその情報を今の今まで口に出さなかった。
「いや戦犯やんけ!!!」
「まだ負けてないんですけど?」
何はともあれ佐伯の居場所が分かるかもしれないという情報に皆の表情が緩む。
「……GPSだとか、東についてふかーく調べてる二人だとか、聞きたいことは色々ある。」
「イッテツ取り返してから、全部ぶちまけてもらうからね。」
伊波がそういってビシッと二人を指した。安心から泣きかけているマナを支えながらの言葉にふっと笑う。
しかし、その顔はだんだん難しい表情になり、目線は資料へと下がっていった。
「……と、は、言っても今すぐ東の本部に凸るわけにもいかないしなあ…」
「え?だめなん?」
「うん、佐伯イッテツ限定となると即行動には移せない。COZAKA-Cの思惑、何故イッテツだったのかを先に調べなきゃ…人命がかかってる以上、下手な事出来ないしね」
なるほどなあ?と返事をして、僕も資料を見てみた。ひっくり返しても何故佐伯である必要があるのかはサッパリで考えることは向いていない、とすぐに手を離した。適材適所というものである。
宇佐美がヒーロー特権使ってかき集めんだけど、燃えちまったのか数も情報も全然なかったんだよなとぼやく。
赤城が燃えたなんて記録なかったけどね、というよりも見つからなかった空白の期間が全部の資料に共通してて~、なんて難しいことを話す。
それをぼーっとみていた。変に何かが引っかかっているような感覚がして、そちらへ意識を集中させる。
見つからない佐伯。
GPSをもってる東本部。
それを知ってた蛸と狼。
理由が分からないCOZAKA-Cの行動。
うんうん唸りながら考えて、チラリと横を見た。見ればいつもよりもせわしなく表情を変える星導と、口パクでなにかを伝える小柳がいた。
無意識にその唇の動きを脳が読み取る。
「……なんや、そういうことか」
酷く冷たい、任務の答えを弾き出す忍者の声が小さくもれた。耳のいい狼がばっとこちらを向き、しまったという顔をする。
それを見て、分からんなあと思った。なぜそれを隠すのか。それはそんなに重大なことなのか。生きてるが時間が長い二人だから言うことを躊躇ったのか。考えてもよく分からないから場を進めるために言ってしまおうと思った。
任務の遂行、それが求められた状況ならば、すぐ動くのが忍者というものだ。人の心とかあれそれよりも最重要は任務だと、里では教わった。
「長生きなんやね、佐伯って」
よく分からない顔をした狼と蛸がいた 。
ますますよく分からんなあって頭の片隅で考えて、どうでもいいと頭を振った。
緋八マナ
目の前で佐伯を連れ去られた。
彼は悪くない。あまりの異常事態であったがための出来事。
どこ……どこや…どこやねん!!!ってなりました。
宇佐見リト 赤城ウェン
一歩届かなかった。
東をあっちこっち回って資料を集めてきた。本部の人たちは、あまり手伝ってはくれなかったけど
伊波ライ
相方を支えながら情報の整理を行っている。Oriensを寝かせて、作業のためパソコンを開こうとしたら、星導と小柳が死ぬほど重大なこと隠し持ってて激怒。
そういうことは先に言え
星導ショウ 小柳ロウ
長寿ということの皆との違いを長い人生の中で経験しているからこそ、すぐに口を開くことが出来なかった。覚悟決めろってお互いに頭悩ませていたら、オッドアイの瞳と目があった。
叢雲カゲツ
冷酷で合理的で非情という三拍子を揃えた里にいた。長寿のやつらの考えは分からない。でも、この間伊波がいれてくれたホットココアは心臓のあたりがあったかくなって美味しかった。成長途中できっと彼もまだ迷子。
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久しぶりの投稿ありがとうございます🥹💕 今回の作品もむっちゃ良かったです🫶🏻 これからの展開が楽しみです!💕
つきみさん、第6話拝読しました。テツが残機を煙草で補充できる存在だと明かす場面と、マナたち仲間との日常描写の対比が引き立っていて、後半の連れ去られシーンにゾッとしました。猫に「死にたくないと言ったら怒るかい」と問うテツの孤独が痛いほど伝わる回だったと思います。そして叢雲が最後に「長生きなんやね」と核心をポロリ…続きでOriensがどう動くのか、すごく気になります!
まかろぬんな
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結@自担が尊い
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