コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「何だか変な感じです」
エリー。最近出番が少ないから事情がわからなくなるんだぞ? もっと頑張れよ?
?出番ってなんだよ?
俺が意味不明なことを考えている間も、変な現象は続いていく。
「エリーちゃん。ケーキのおかわりいるかな?」
「セーナさんは女神様ですっ!!」
変わり身はやっ!?
エリーが感じていた異変は、もちろん聖奈のことだ。
そりゃ地球から帰ってきてからずっとニコニコして、ヘタクソな鼻歌を歌っているんだから理由を知らなければ変に思うよな。
「くっ…私は負けてませんからっ!!」
ミラン…それは敗者のセリフだぞ?
俺がいうのは違う気がするから、口には出せないけど……
「ミランちゃん。私はここで待ってるから、頑張ってね?」
「くっ…」
いや、なにこれ?
後で聞いたが、ミランは手拭いのことも地球で何をするのかということも、事前に知っていたらしい。
驚いたことに聖奈の背中を押したのは、ミランだと聞いた。
side聖奈
〜少し前〜
「ミランちゃん…何を言って…」
「ずるいですよ。いいえ。セーナさんは卑怯です」
聖くんのお母様からのメッセージのことを伝えたら、怒られちゃった。
異世界で正妻の座を譲るのは悪い話じゃないと思ったけど…間違えたかな?
「私の気持ちに周りの物事は関係ないです。何故セーナさんは周りを理由にするのですか?それを卑怯だと言ったのです」
っ!!
「図星ですよね?セーナさんは本当にセイさんのことを愛しているのですか?」
「あ、愛してるよ?」
「では何故周りの所為にするのですか?」
「せいには…」
してるよね……
だって、本当の事を伝えて拒絶されたら…もう立ち直れないもん。
私はミランちゃんみたいに強くなれないよ……
「セイさんのお母様のことも、国王という立場も、社長という立場も。私たちの想いには関係のないことですよね?」
「…うん。そうだね」
「伝えるべきです。好きなら。例え忘れられていたとしても。
それが自分自身の気持ちや想いに対しての、誠実さではないのでしょうか?」
side聖
「ミランちゃんは強いよね」
ここは城の中にある寝室。
防犯上の理由からも、俺達はこれまで別々だった寝室をこの度同じにした。
あくまでも防犯上の理由だよ?
「今更か?ミランは元々しっかりした強い子だ」
「セイくんって、何気に人を見る目があるよね?」
女性を見る目は全くないがな!
って、危うくつっこみそうになったぞ!
墓穴を掘るだけでは済まなくなるところだったな……
ま、『一人の人』を見る目はあまり外れたことはないな。不思議と。
「俺にも一個くらい取り柄があったってことだ。聖奈やミランは沢山取り柄があるんだから、一個くらいいいだろ?」
「セイくんは沢山取り柄あるよ?」
……わからん。
「なんだそれは?」
「料理上手な奥さん(偽装)を持ってる」
「…それ以外には?」
「優秀なブレーンがついてる」
「…おい」
「お酒が強い?」
聖奈のことばかりやんけっ!
最後に漸く俺のことだけど、役に立たんことやん?!しかも疑問系って……
「もう寝る」
アホらし。
「嘘嘘!沢山あるよ!」
「…無理すんなよ」
「本当だってば!」
「じゃあ言えるのか?」
「困ってる人がいたら、手を差し伸べなきゃ気が済まないくらいのお人好しなところとか…」
「恥ずかしいからやめてください…」
何の罰ゲームかな?
それにそれは取り柄ちゃうやん?
世の中のカップルってすげぇな。
毎日こんな恥ずかしい話を繰り返しているのか?
「冗談はこの辺にして、本題を話そうか」
「そうだね。っていっても、逃げてるのはセイくんだけだよ?」
くっ…仕方ないだろ!!
俺の親のことなんだからっ!!
いや…聖奈の両親のことでも俺が尻込みしそうだな……
「実の両親に改めて報告とか挨拶ってのが、俺には感覚としてわかんないんだよなぁ…」
「そういう文化なんだから、諦めよ?」
うっ…いくらベッドが違うとはいえ、目元まで布団を被り上目遣いで可愛く言うの禁止っ!!
こちとら先日まで筋金入りの年齢イコール彼女いない歴だったんだぞ!!
そう言えば……
「…聞いてもいいか?」
「?どうしたの?改まって」
「………」
「もう!なに?怒らないからお姉さんに言ってみて?」
聞きづらい…が、気になる。
「…聖奈は何人と付き合ったことがあるんだ?」
「…ふふっ」
やっぱり笑われたっ!!
「わ、忘れてくれっ!!」
「初めてだよ」
「嘘つけぇぇえいっ!!?!」
俺と同等の経験値のはずがなかろう!!
「ホントだよ。私、元々女子校だよ?大学でも誰かと付き合ってる噂なんてなかったよね?」
「そんな…同じレベル一だったなんて…」
俺は同レベルのやつにずっと弄ばれて揶揄われていたのか…?
そんなバカな……
「ふっふっふっ。村人のレベル一と魔王のレベル一では大違いなのだよ」
「そ、そういうことだったのか…」
よし。やっぱり寝よう。
この後めちゃくちゃ……すぐ寝た。
あんなことがあって、二人の関係も少しは変わるかと思ったけど……
何も変わらないって素晴らしいな。
数日後、地球へと戻っていた俺達は実家へと向かっていた。
「変じゃないか?」
「うん…それを聞くのは、今回は私の方なんだけど…」
そりゃそうか。
何だか畏まった格好をすると、無駄に緊張するんだよな……
「よく似合っている。聖奈は何を着ても綺麗だぞ」
聖奈は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そう。よくよく思い出せば聖奈も恥ずかしがっていたよな……
こうやって揶揄うと、同じ経験値だということが俺でもわかる。
大人っぽく…経験豊富っぽく見せていたのは、恥ずかしさを隠す為だったんだな。
聖奈の一面をしっかりと記憶したところで、リムジンは実家へと着いた。
「何だか随分と老け込んだ気がするな…」
親父は縁側でそう独り言を溢している。
まぁ手の掛かった末っ子が結婚するんだ。
そう思うのも無理はあるまい。
簡単に言えば、肩の荷が降りたと言ったところだろうか。
いや、老けさせた張本人が言うことではないんだろうけど。
「お父様お茶が入りました。温かいうちに飲んでくださいね。後、お茶請けにお土産を開けさせてもらいました。よかったら食べてみてください」
「こ、こんな…出来た娘が……二人はこの家に住むのだろう?」
猫を被った聖奈に騙されているだけだぞ。
まぁ元々お茶は入れてくれるから、言葉遣いや発言以外は素だろうけど。
「そんなわけないだろ。俺達は世界中を飛び回っているんだ。こんな田舎だと仕事が出来ない」
「お父様すみません。どうしても仕事の関係上、都会や空港に近くなければ…」
俺達はこっちでも忙しいからなぁ。
まぁ転移魔法が使えるから何処でも同じなんだけど……
バレるわけにはいかない秘密が多過ぎるんだよ。
悪いな。
「うむ。仕方ない。いや、半分冗談だったんだ。聖奈さんすまないね。
まぁウチだとリムジンが似合わないからな!はっはっはっ!」
それは激しく同意するけど…乗ってる俺にも似合わないからな?
社用車として運転手付きのリムジンを使い始めたのは、建国後割とすぐだったりする。
転移魔法も自家用車もある俺には必要ないんだけど、移動中も仕事をしている聖奈にはとても必要なものだった。
もちろんただの贅沢でも、二つ返事で承諾していたけどな。
「聖奈ちゃん。お茶が冷めちゃうわ」
他所行きの言葉を使っているのはお袋だ。
あんたがどんだけ田舎者でも、この結婚はなくならないから無理するな。
「はい。頂きましょうか」
「このクッキー美味しいわね。聖奈ちゃんが選んだのでしょ?聖にこんな美味しいものを選べるはずないものね」
うん。話のタネなるならいくらでもいじってくれたまえ。
ウチの親への報告は何の問題もなく無事に終わった。
問題は……何で同じ日なんだよ……
「新幹線に乗るのは久しぶりだな」
問題の、聖奈の実家への挨拶と報告に向かっている。
場所は新幹線の距離にある政令指定都市。
「本当に行くの?手紙で済ませばいいのに」
「ははっ。俺が尻込みした後は聖奈の番か?」
「そういうわけじゃないけど…聖くんに何を言うか…失礼な親だけど許してね?」
色々聞いていたから、ある程度覚悟はできてますよ。
「そんなに会う機会もないだろうから、偶のことだと思って我慢するよ」
「多分、驚くと思うけど……聖くんのご両親と正反対だから…」
じゃあつまらん冗談は言わないな。
まさかアメリカンな方のジョークが多いのか!?
緊張をつまらない妄想で掻き消しながらも、景色は流れていった。
「ここは……本当に個人の持ち物なのか?」
俺の前には永遠とも思えるくらい長い塀が続いている。
そして、防犯カメラが付いている門扉まである。
皇居かヤバい職業の人の家にしか見えないが……
「うん。実家だよ。まぁ半分勘当された身ですけど」
ゴソゴソ
「何してるの?」
「いや、武器をすぐに取り出せるように…」
「…身体能力は普通の人だから大丈夫だよ」
そりゃそうか…いかん。テンパってきた。
ピンポーン
『はい。どちら様でしょうか?』
「聖奈です」
ガチャ
聖奈が呼び鈴を鳴らし名前を伝えると、門の鍵が解錠された。
「さっ。行こう」
刑務所かな?
何で実家なのに他所行きの言葉なんだよ……
はぁ…緊張するなぁ……
聖奈に先導されて、遠隔で鍵が開けられた門をくぐって進む。
門の中は綺麗に手入れされている日本庭園があり、その大分先に家が見えた。
学校より敷地が広くないかい?
家の前に着くと、そこには人が立っていた。
30歳くらいの女性で、こちらに気付くと頭を下げてきた。
「お嬢様。おかえりなさいませ。皆様お待ちです。こちらへ」
聖奈はその女性には何も言わず、大人しく着いて行く。
もちろん俺はさらに大人しく…まるで空気のように着いていった。
「お嬢様がご到着なされました」
女性が長い廊下の先にあった扉の前で何事か告げる。
「入りなさい」
ガチャ
「どうぞ」
扉を開けた女性に促されて、俺達は部屋へと入っていった。
部屋の中は庭とは違い完全な洋室だった。
部屋と言っていいのかわからないくらいには広かったけど。
中には一人掛けのソファ8脚が馬鹿でかいテーブルを囲んで置いてあり、その半分がすでに埋まっていた。
テーブルの側まで寄ると・・・
「こちらが私の婚約者の東雲聖さん。聖くん。向かって一番奥にいるのが父で、その左隣が母、母の隣が妹で、妹の向かいに座っているのが叔父さんだよ」
「は、初めまして。本日はお忙しい中お時間を頂きありがとうございます。聖奈さんと結婚を前提に『好きにすればいい』…えっ?」
聖奈に紹介してもらい、いざ自己紹介を始めた俺の言葉を、一番奥に座っている父と紹介された人物が遮った。
「好きにすればいいといったんだ。それは半ば勘当した身。そんなモノに一々時間を割くのが無駄だと言っているんだ。
君も経営者なのだろう?時間はうまく使うことだな」
何だ、こいつは・・・
俺が呆気に取られていると、その横にいた母と紹介された人物が立ち上がった。
「聖奈。よく顔を出せたわね?貴女が無能なせいで、知り合いに言えないような恥ずかしい大学にまで通わせてあげていたのに…そこすらまともに通えないなんて……
この恥晒しがっ!!」
何だ、このババァ・・・
聖奈。悪い。我慢できそうにないわ。