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「あ……ありがと……!」
感謝の気持ちを込めて言うと彼はひらりと手を振って売店コーナーへ向かった。
岬くんを待っている間にも、視界の端にはモフモフした白い塊が動いているのが見える。
思わずそっちに目を奪われていると、やがて戻ってきた岬くんが
紙袋に入ったエサを2つ差し出してくれた。
「はいどうぞ。これで好きなの選んであげればいいんじゃない?」
促されて紙袋の中を見ると中にパック詰めされた干し草があった。
なるほどこれをあげるわけか。
干し草の匂いが、かすかに鼻をくすぐる。
「うん!」
僕は早速中に入っているものを摘まむように手に取り
それを片方の掌に乗せて目の前の羊たちに向けて差し出した。
すると彼らは意外にも警戒することなく寄ってきてペロリと舐めるように舌を動かす。
羊の柔らかい舌が手のひらを撫でる感触に、僕は思わず身震いした。
「わっ……」
その感触に驚きつつもつい笑顔になってしまう。羊のつぶらな瞳が僕を見上げている。
「すごい大人しいね」
近くまで来た羊さんたちは特に暴れたりしない様子でおとなしくエサを食べてくれている。
その姿が、あまりにも可愛らしくて、僕は夢中になった。
それを横目で見つつ岬くんも自分の分のエサを手に持って与え始める。
彼もまた、羊たちとの触れ合いを楽しんでいるようだった。
◆◇◆◇
しばらく二人で餌やりを堪能したあと
僕達はその場を後にした。
僕の手のひらには、まだ羊の舌の感触が残っているようだった。
去り際に振り返ると、羊たちは相変わらずマイペースに草を食んでいて微笑ましい気持ちになる。
彼らのおかげで、心がすっかり癒された。
「朝陽くん、楽しかった?」
岬くんが優しく問いかけてくる。
「うん、すごく癒された!羊さんって可愛いね」
素直に感想を述べると彼も嬉しそうに同意してくれた。
「ふふっ、朝陽くんが楽しんでくれてよかった」
彼の笑顔は、僕にとって何よりも嬉しいものだった。
◆◇◆◇
それからお昼時になって、僕たちのお腹も空いてきた。
「腹減ったし、ご飯食べよっか?」
「うん、たくさん歩いたしお腹空いた」
そうして僕たちはフードエリアへと向かうことになった。
遊園地の中心部に位置する大きな噴水広場。
水しぶきがキラキラと輝き、涼しげな音を立てている。
そこを中心に放射状に広がるようにして様々なレストランや屋台が出展されていた。
ハンバーガーショップの香ばしい匂いや
アイスクリームの冷たく甘い匂いなどが漂ってきて、食欲を刺激する。
どれもこれも美味しそうで、どこにしようか迷ってしまう。
「あっ、あそこにザンギとかあるよ」
僕が指差す方向を見ると確かに看板を掲げたお店が見えた。
そこではジュージューと鉄板の上で焼かれているザンギの姿があり思わず唾を飲み込む。
香ばしい匂いが食欲をそそる。
岬くんも僕と同じくそちらに視線を向け「食べよっか」って微笑んでくれた。
彼の笑顔に、僕の心はさらに軽くなる。
僕らは早速行列に並び順番を待つことにした。
列は長く、少し時間がかかりそうだ。
その間にも色々とメニューを吟味することができる。
ザンギだけでなく、チキンレッグや
ピクニックランチセットやクレープ、チュロスなどもあり
どれも美味しそうなものばかりだ。
どれにしようか、岬くんと相談しながら悩む時間も楽しい。
そしてしばらくして、ようやく注文の順番が回ってきたため、僕は意を決して口を開いた。
「この、チキンレッグとクレープひとつください」
店員さんは明るく笑って返事をしてくれた。
そして続いて岬くんの注文を聞こうとすると、彼は既に別の品を選んでいたらしく迷わず答えた。
「じゃあ俺はストロベリー味のチュロスと、ポップコーンの塩味で」
結局僕らはそれぞれ違うものを買うことにしてテーブル席に向かったのだった。
お互いの選んだものを見せ合いながら、笑い合う。
注文した料理を受け取り席を探していると
遊園地内ということで、家族連れが多く賑わいを見せていた。
子供たちの笑い声や、親たちの楽しそうな会話が聞こえてくる。
中には制服姿の男女グループなんかもいて楽しそうに談笑している。
僕たちも、彼らのように楽しんでいるだろうか。
「どっか空いてるかな……」
思わず呟くと隣にいる彼は少し考え込んだ後
「あっちのベンチ空いてるし、あそこで食べよっか」
と言ってくれた。
見ると屋根のあるテント式の休憩スペースがあって、日陰となっていることが確認できた。
日差しが強い日だったので、涼しい場所を選んでくれる岬くんの気遣いが嬉しかった。
僕たちは買ったばかりの食事を抱えてそこへと向かった。
席につくと僕たちは向かい合って席に座った。
「「いただきまーす」」
お互いに言い合い、僕はまず最初にクレープを食べようと包み紙を剥がしてから一口齧りつく。
「ん〜っ!」
柔らかい生地に包まれた苺ソースとホイップクリームの甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。
さらに上に載っていたベリー類の酸味のおかげで
程よいアクセントになり最後まで飽きることなく堪能できるというものである。