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一口食べるごとに、幸せな気持ちが広がっていく。
その間にも岬くんもチュロスの棒を持って美味しそうに頬張っていた。
彼の口元についた砂糖が、なんだか可愛らしく見えた。
「美味しいね〜」
「うん!でもやっぱり僕もチュロス買ってこようかな」
「ははっ、俺の見てたら食べたくなっちゃった?」
岬くんが楽しそうに笑う。
「うん、岬くんって美味しそうに食べるから」
「え、初めて言われたかも」
「そうなの?」
「うん、てかそれ言うなら朝陽くんは甘いもの食べてるときとかリスみたいで可愛いよね」
「り、リス?」
「うん、なんか頬っぺ膨らませてモゴモゴさせてるとこがリスっぽいというか」
(……そんな風に見えてたんだ)
自分の意外な一面を指摘されて、少し恥ずかしくなる。
「岬くん僕のこと小動物かなんかだと思ってない?」
「え?うん」
「そ、即答しないでよ!もう…」
「…ふっ、今度はハムスターみたい」
「どういう意味!?」
彼はケタケタと笑いながら言うので少し不貞腐れてしまう。
彼のからかいに、僕はムキになってしまう。
それでも岬くんが楽しそうだったのでまあいいかと思った。
◆◇◆◇
そして15時過ぎあたり。
日差しも少し傾き始め、夕方の気配が漂い始める。
「あんまり長居してるとまた体調悪くなっちゃうかもしれないし、そろそろ遊園地出よっか?」
岬くんがスマホの時計を見ていう。
僕の体調を気遣ってくれる彼の優しさに、胸が温かくなる。
「じゃ、じゃあさ…最後に、あれ乗らない?」
そう言って俺が指を指したのは観覧車だった。
僕の視線の先には、夕陽に照らされた巨大な円形のアトラクションがキラキラと輝いていて
幻想的な雰囲気を醸し出している。
あれに乗れば、きっと今日のデートの最高の思い出になるだろう。
「あれって…観覧車だけど、朝陽くん大丈夫なの?」
岬くんは少し心配そうな顔をする。
観覧車は狭い空間に閉じ込められるため、僕の発作にはあまり良くないアトラクションだと思われるが
予測不能な動きをするジェットコースターやバイキングよりは
断然安心して乗れるアトラクションのひとつだ。
「……うん、狭い場所は苦手だけど、みさきくんとなら……って思って。それにね、バイキングみたいに急な動きもないし、みさきくんに迷惑も掛けないと思うんだ…!」
「…だから、乗ってみたいんだけど…我儘に、なっちゃうかな?」
僕は勇気を出して、正直な気持ちを伝えた。
彼の隣なら、どんな恐怖も乗り越えられるような気がしたのだ。
「ううん、そんなことないよ?むしろありがと、そこまで考えてくれて」
彼は少し驚いたような顔をしたあと優しく微笑んでくれた。
その笑顔に、僕の心は温かくなるのを感じた。
僕の気持ちを受け止めてくれたことに、心から感謝した。
こうして僕たちは観覧車乗り場へと向かった。
一歩一歩進むごとに、期待と少しの不安が入り混じる。
◆◇◆◇
観覧車の列に並ぶと次々と順番が迫ってくる。
列の先頭では、ゴンドラがゆっくりと扉を開閉している。
「わっ……」
ゴウンッ!!という轟音と共に巨大な扉が開き中から乗客たちが出てくる。
皆楽しそうな表情を浮かべておりこれから始まるアトラクションへの期待感を滲ませていた。
僕も、彼らのように楽しみたい。
やがて僕たちの番になり係員さんによって扉が開かれると、共に足を踏み入れる。
ゴンドラの中は、想像よりも広々としていた。
僕と岬くんは互いに向かい合って座った。
窓からは、すでに園内の景色が見え始めている。
────────
─────…
ガタンゴトンガタンゴトン……
ゆっくりと上昇していく感覚に少しばかり緊張する。
ゴンドラが揺れるたびに、心臓がドキリと音を立てる。
それでも、中心部に来ると眼下に広がる風景はとても綺麗で見惚れてしまった。
遊園地全体が、まるでジオラマのように小さく見え、夕陽に照らされてキラキラと輝いている。
「わぁ……」
思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
こんな景色は、今まで見たことがない。
下を見ると地面が遠くに見えて小さく感じるほどであった。
逆に周りの建物などは近く大きく見える。
まるで、僕たちが空に浮かんでいるかのようだった。
また反対側を見ると遠くに海が見えた。
キラキラと光る水面が眩しい。
夕陽が海に反射して、オレンジ色の光の道を作っている。
「綺麗だね……」
ポツリと言うと向かいに座っている岬くんが頷きながら応じてくれる。
「だね。でも俺…まさか朝陽くんと観覧車乗れる日が来るとは思わなかったから、今日一嬉しいかも」
「えっ?そ、そんな…大袈裟だよ、観覧車乗れただけで…っ」
僕は照れて、慌てて否定する。
「十分凄くない?朝陽くん中学の頃は発作酷くて座って見てるのが限界だったんでしょ?」
「そりゃ、そうだけど……」
「なら朝陽くんが一生懸命向き合って治そうとしてきた結果だと思うし、これは朝陽くんの努力の賜物だと思うよ」
彼の言葉に胸が一杯になる。
そして、今までの辛かったことや頑張ってきた記憶が蘇ってきて胸が熱くなった。