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『氷の花園で、君を弄ぶ』冷たい。けれど、柔らかい声が、耳元で囁いた。
「ねぇ、あいちゃん。なんでそんな顔してるの? まるで、僕が悪いことでもしたみたい」
その声に振り返ると、氷のような瞳をした男が笑っていた。童磨。上弦の弐。鬼たちの中でも、特に異質な存在。
「わたしの髪……また、切ったでしょ」
肩まであった髪が、ぱつんと揃えられていた。眠っていた間に、彼に何かされたのは、もう何度目だろう。
「だって似合わなかったんだもん。そのままだと、退屈だったからさぁ」
そう言って、童磨は屈託のない笑みを浮かべる。悪気はない。けれど、だからこそ怖い。
「やめてって言ってるのに……!」
「でも君、逃げないじゃん? なんだかんだで、ここにいる。……ってことは、僕のこと好きなんでしょ?」
にこっ。
その笑顔が、なぜか胸の奥をざわつかせる。
怖い。でも、目が離せない。
「君ってさ、本当に不思議。泣いたり怒ったりするくせに、僕を睨むその目が、すっごく綺麗なんだよね」
彼の手が、私の頬に触れた。氷のように冷たい指先。でも、それが一瞬、熱を帯びたように感じたのは――錯覚だろうか。
「ねぇ、あいちゃん。もっともっと、僕にいろんな顔見せてよ。退屈なんて、君が全部壊してくれるんだから」
その笑みの奥に、何があるのか――わたしはまだ、知らない。
けれど。
逃げられないのは、私の方なのかもしれない。