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オーターが眠りについてから5日が経ち、彼女の身体に変化が起きていた。
始めは身体に埋め込まれた正八面体の水晶のみが黄土色の光を放っていたが、今はオーターの身体も黄土色の光を放っている。
『ふふ。触手に続き水晶もすっかり身体になじんだね。あとはお前が目覚めるだけだ。・・・それにしても予想よりも早くなじんだな。お前と私は相性が良いようだね。ああ早く生まれ変わったお前の声を聞きたい。』
世界樹が心待ちにしていると、
『・・・・ん。』
『!』
眠っていたオーターが目を覚ました。
開けたその目は金色の光を帯びている。
『私は・・・だれ?ここは、どこ?』
世界樹の言っていた通り、オーターは全ての事を自身の名すら忘れていた。
『やあ、おはよう。』
『・・・・・貴方様は?』
『私は魔法界を支える者、世界樹と呼んでくれて構わない。』
『世界樹・・・様?』
『そうだよ、オーター。』
『オーター?それは私の事ですか?』
『ああ。お前の名だ。』
『オーター、私の名前。』
『そう。そしてここは私の内部だ。』
『貴方様の内部?何故私はそのような所に。』
『それはお前が私と共に魔法界を支える為さ。』
『私にそのような力が?』
『ある。お前の胸に埋まっているその水晶がその証だ。』
世界樹に言われ、オーターは自身の胸元に埋め込まれた黄土色に輝く正八面体の水晶を見た。
『これがその証。』
『そう。それは私の核、心臓とも言うね。』
『そんな大切な物を私に?お言葉ですが私にそのような力があるとは。』
『いや、ある。オーター、お前は私の核を託せる程の魔力を秘めている。だから私の為に、そして魔法界の為にその魔力を貸してくれ。』
『・・・・・・。』
世界樹の力強い言葉にオーターはしばらく考え、こくりと頷いた。
『分かりました。やってみます。』
『うむ。では早速お前の魔力を。』
『その前にあの、世界樹様。』
『ん?』
『視界が・・・ぐにゃぐにゃしていて気持ち悪いです。』
『視界?・・・ああ。』
世界樹は触手を伸ばし、いまだにオーターにかけられている眼鏡を外した。
『これでいいかな?』
『はい、ありがとうございます。』
『どういたしまして。もうこれは今のお前には必要ないね。』
世界樹はそう言うと、ただの異物と化した眼鏡を外部へと捨てた。
まだ人であった頃、オーターは視力がすごく悪く眼鏡をかけないとほとんど見えなかったが、人ではなくなり世界樹の一部として生まれ変わった今は視力が回復したらしい。
『改めて・・・さあ、お前の魔力を開放するんだ。』
『はい、世界樹様。』
オーターは目を閉じて自身の魔力を全て開放した。
パアアアアアアアアアア。
全ての魔力を開放し、今までの比にならない程の光がオーターの身体から放たれる。
『おお!今までにないほどの魔力。力が、力が漲る。オーター、やはりお前は素晴らしい!そのまま続けるんだ。』
『仰せのままに・・・ん。』
世界樹に言われるままにオーターは魔力を開放し続ける。
オーターの魔力を受け、外部の世界樹は強い光を放ち更にその大きさを増していた。
『オーター、これから私とお前で魔法界を支えていこう。』
『はい。世界樹様。』
こうして、崩れ始めた魔法界の均衡を保つために砂の神覚者・オーター・マドルは世界樹と魔法界、そしてそこに住む人々の為にその身を捧げ(人である事を捨て)、世界樹の一部として生まれ変わった。
そして彼女は世界樹と共に魔法界を守っていくのだった。
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
魔法界。
イーストン魔法学校・レアン寮のある一室。
カッシャーン!
「・・・・ん?」
机に向かいいつものように勉強をしていたワース・マドルは、後ろから聞こえてきた何かが落ちた音に手を止め体ごと振り向いた。
「何だ?」
椅子から立ち上がり、ワースは音がした所まで歩き落ちてきた物を拾いあげた。
・・・それは、ヒビの入った眼鏡だった。
「あ?眼鏡?一体誰、の。」
ツウー。
「!」
ワースの右目から一筋の涙が溢れた。
(何だ。何故俺は泣いてる?)
「はあ、訳が分かんねぇ。疲れてんのか俺。今日はもう寝るか。」
ワースはため息をついて呟いた。そして手にしたままのヒビの入った眼鏡をじっと見つめる。
(何か分かんねぇけど、この眼鏡は捨てちまったらいけねえ気がする。それに・・・懐かしい感じがする。)
「・・・引き出しにしまっとくか。」
ワースは、机の引き出しの中にヒビの入った眼鏡をそっとしまい、続いていつも自身がかけているサングラスも外して一緒にしまった。
そして寝巻きに着替え、ベッドに入って眠りにつくのだった。
ー引き出しの中で、ヒビの入った眼鏡と黒のサングラスが一瞬キラッと光った。