テラーノベル
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帝国使節団が公国に滞在して数日。
城の中は穏やかだったが、見えない緊張が漂っていた。
夜、湖のほとり。
ダイスケは一人で座っていた。
水面は静かで、月が映っている。
この湖は好きだ。
ここに来ると、母上のことを思い出す。
自然と歌がこぼれる。
🩷♪~
静かな旋律。
水に溶けるような歌。
すると、背後で足音が止まった。
🤍なるほど
振り向く。
そこに立っていたのは… ラウール。
🩷…!
驚いて歌が止まる。
ラウールは湖を見たまま言った。
🤍続けて
🩷え…?
🤍聴きたい
その声は命令ではなかった。
むしろ、純粋な興味のようだった。
ダイスケは少し迷った。
でもなぜか、この人には嘘をつけない気がした。
静かに息を吸う。
そして、もう一度歌う。
🩷♪〜
夜の湖に、歌が広がる。
風が静まり、水面がわずかに光る。
遠くの鳥の声も消える。
ただ歌だけがある。
ラウールは動かなかった。
じっと聴いている。
やがて、歌が終わる。
静寂。
その後ラウールは、ぽつりと呟いた。
🤍…違う
🩷え?
ラウールはゆっくり振り向く。
その表情は、昼間と違っていた。
驚いている。
🤍古文書と違う
🤍これは、人を操る力ではない
🩷うん、俺の歌は人を操らない
🩷ただ、寄り添うだけ
ラウールは少し黙った。
湖の水面を見る。
そして、小さく笑った。
🤍面白いね
🩷…?
🤍なら、なおさら必要だ
その目にまたあの光が戻る。
🤍この力は世界を変える
🩷違う!
思わず声が出た。
ラウールが少し驚く。
🩷歌は誰かを支配するためじゃない
🩷誰かを助けるためのものだよ
ラウールは静かにダイスケを見た。
長い沈黙。
やがて言う。
🤍セイレーン、君は優しい。だけど
夜空を見る。
🤍優しさだけでは、世界は変わらない
そして歩き出す。
去り際、振り返らずに言った。
🤍でも、歌は気に入った
🤍また聴かせて
そして闇の中へ消える。
湖に静けさが戻る。
ダイスケは少し震えていた。
ラウール。
あの人は怖い。
でもどこか、寂しそうだった。
その夜。
遠くの廊下で、リョウヘイが全てを見ていた。
💚…まずいな
皇太子が、ダイスケに興味を持った。
それはつまり。
帝国が本気で動くということだった。
大公城中庭、誰もいないはずの場所。
リョウヘイは一人、立っていた。
足音が聞こえ振り返る。
🩷リョウヘイ?
少し驚いた顔。
リョウヘイは苦笑する。
💚見つかったか
ダイスケは近づく。
🩷明日、発つって聞いた
💚ああ
短い返事に沈黙が落ちる。
ダイスケは少し迷ってから言う。
🩷その…今までありがとう
丁寧な言葉。
距離のある言葉。
リョウヘイはそれを聞いてすべて理解する。
(ああ、そうだったな)
💚…ねぇ、ダイスケ
ダイスケが顔を上げる。
リョウヘイは笑う。
💚お前のこと、好きだった
ダイスケの呼吸が止まる。
目が揺れる。
空を見上げる。
月がやけに遠い。
💚レンに負けたな
🩷リョウヘイは…
リョウヘイは遮る。
💚いい
優しい声。
💚それ以上言うな
沈黙。
そして最後に言う。
💚じゃあ、またな
背を向けて歩き出す。
リョウヘイは振り返らない。
そのまま 闇の中へ消えた。
帝国・騎士団の詰所。
小さな灯りがひとつ。
リョウヘイは一人で座っていた。
机の上には酒瓶とグラス。
もう半分ほど空いている。
💚…はぁ
小さく息を吐く。
公国での出来事を思い出す。
月明かり。
ダイスケの顔。
そして、レンの腕の中。
💚完全に負けたな
グラスを傾ける。
酒が喉を通る。
苦い。
リョウヘイは笑う。
💚まあ、最初から分かってたけど
ダイスケがレンを見る目。
あれは自分には向けられないものだった。
💚ほんと、分かりやすい奴
もう一口飲む。
その時、扉が開く。
💛まだ起きてたのか
ヒカルだった。
聖騎士団長・リョウヘイの上官。
ヒカルは部屋に入ると酒瓶を見る。
💛珍しいな、お前が飲むなんて
リョウヘイは笑う。
💚失恋
ヒカルの眉が少し上がる。
💛へえ
ヒカルは向かいに座る。
💛誰だ
リョウヘイは天井を見る。
少し考える。
そして 苦笑する。
💚言えない相手
ヒカルはそれ以上聞かない。
聖騎士の世界では秘密は多い。
ヒカルは静かに言う。
💛辛いか
リョウヘイはグラスを回す。
しばらく考えて 言った。
💚いや、むしろ安心した
ヒカルが少し驚く。
リョウヘイは笑う。
💚ちゃんと、幸せそうだったから
ダイスケの顔を思い出す。
真っ赤な顔。
レンに抱きしめられて。
あんな顔自分には見せなかった。
💚だからこれでいい
グラスを空にする。
💚俺は、俺の仕事をする
ヒカルが聞く。
💛帝国か
リョウヘイは頷く。
💚皇太子、教皇庁…全部腐ってる
目が少し鋭くなる。
💚だから壊す
ヒカルは静かに笑う。
💛いい目だ
そして立ち上がる。
💛なら飲みすぎるな。明日から忙しい
ヒカルは部屋を出ていく。
扉が閉まる。
また静かな夜。
リョウヘイは、最後の酒を注ぐ。
そして窓の外を見る。
遠くの城。
どこかにレンとダイスケがいる。
小さく呟く。
💚幸せになれよ
そして 少しだけ笑う。
💚二人とも
グラスを一気に飲み干す。
それでこの恋は終わった。
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