テラーノベル
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相変わらず忙しい日々をすごしあっという間に冬になり、式場もイルミネーションが輝きだした。
「進行もだいぶ決まりましたよ」
ベッドに一緒に入り、麻耶は進行表を芳也に見せながら嬉しそうに微笑んだ。
「あれ?なんでここ?が付いてるんだ?お色直しは?」
「それが……唯奈ちゃんはしなくても良いって言ってて、でも健斗さんから電話があって絶対和装でお色直ししたいって……」
その言葉に、芳也は苦笑した。
「兄貴はベタ惚れだからな。唯奈ちゃんの着物姿を見たいだけだろ?」
「たぶんそうですよね。どうしよう?」
「二人で決めてもらうしかないだろ?」
クスクスと笑いながら言った芳也に、麻耶も頷いた。
「麻耶、それよりお前……」
そこで芳也は言葉を止めてジッと麻耶を見た。
「なんですか?」
芳也の態度の意味が分からず、キョトンと麻耶は芳也を見つめた。
「始めに聞いたけど、なんか言い寄られてるんだって?」
「はあ?」
麻耶は意味が解らず、声を上げた。
「事務所で噂になってたから気をつけろよって……。レストランに来ているお客様がいらっしゃるといつも麻耶の事を呼ぶって……」
「ああ……」
クスクス笑って言った麻耶に、芳也はムッとすると、
「なんで笑ってるんだよ。嬉しいのか?」
「そんな事が噂になってるなんて……そう思っただけです」
「そんな事って……」
「だって……70歳すぎのおじい様ですよ?その人」
麻耶の答えに今度は芳也が唖然とした後、枕に顔を埋めた。
「嫉妬……してくれました?」
麻耶は嬉しくなり、芳也にピタッと体を寄せた。
「別に……してない」
ぶっきらぼうに言った芳也に、
「でも、孫の嫁に来てくれってよく言ってくれるんですよ」
フフッと笑った麻耶を引き寄せると、
「そんな事絶対に認めない。麻耶は俺のだからな」
真剣に言われたその言葉に麻耶は笑みがこぼれた。
(どうしてこんなことになったんんだろう?)
明日から、年末年始の休暇と言う所で、仕事終わりに麻耶はリムジンに乗っていた。
「麻耶ちゃん、そんなに緊張せんでいい。悪いようにはしないからな」
「白木様……どうして……」
遡ること30分前、
(今日は温かいお鍋でも芳也さんとしようかな……)
忘年会も昨日終わり、今日は大掃除を済ませて早めに帰れると、そんな事を思っていたところに、いつものようにレストランから電話が入った。
随分打ち解けてきていた麻耶は、年末のご挨拶をとウキウキして白木の元に向かったはずだったが……。
どういう訳か今は一緒に車に乗せられていた。
「白木様、あの私本当に……」
急に乗せられた初めてみるリムジンに戸惑いながら、声を掛けた。
芳也に連絡しようと携帯を手にするが、横にいるお客様の前で携帯を打つのもはばかられ、携帯をまたカバンに戻した。
「どちらに行かれるんですか?」
「紹介したい人間がいるんだよ」
嬉しそうに言った白木の言葉に慌てた。
「もしかして、お孫さんですか?」
「よくわかったな。わしが言うのもなんだが、良い男だぞ」
「あの、私、実は……」
お付き合いしている人がいると言おうとした麻耶の言葉を遮って、
「おっ、ついたみたいじゃな」
運転手の男性がおもむろに、開けた扉の向こうに見えた風景に麻耶はあ然とした。
「ほら、麻耶ちゃん降りた降りた。今日は親戚が集まってご飯をたべるだけだからな」
「え……え……?白木様?」
これは自宅なのだろうか?と思うほどの豪邸に歩いていく白木の後ろを麻耶はついていくと、おもむろに扉が開けられてお手伝いさんらしい人が出迎えてくれた。
「みんな揃ってるかの?」
「はい、旦那様」
白木の雰囲気が変わった気がして、麻耶はこれ以上言葉を掛ける事ができず、ただ後ろをついて行った。
(どうしよう……どうしよう……どうしてこんなことに……)
もうパンクしそうな頭でなんとか正気を保ちながら、案内された部屋へと入るとそこには20人は座れそうなテーブルがあり、何人かが席についていた。
白木が部屋に入ると、その全員が白木を見て、口々に「おかえりなさい」と声を掛ける姿を見て、麻耶はどうしていままでこの人がどこの誰かという事を調べなかったのかと後悔した。
(どうしよう……こんなにすごい人だったなんて)
俯くしかなくなってきた麻耶は、冷や汗が背中を伝うのがわかった。
「お義父さん、その子は?」
少し難しい顔をした男性の声に、白木は、
「嫁候補じゃ」
「え?」
その言葉に、驚いた声を上げた麻耶と、その男性の声がハモリ、麻耶は口に手を当てた。
その姿に、
「お嬢さんは理解してないようですよ」
困惑した麻耶を見ながら、その男性はため息をついた。
「ほら、麻耶ちゃん挨拶をして」
白木に促されて、麻耶はどうしたらいいかわからずにいたが、
「水崎麻耶と申します」
なんとか下げた頭を上げると、刺さるような視線に俯きたくなった。
「いいから来い!おじいさまが呼んでるんだよ!」
「だから俺は見合いとか嫌だっていってるだろ?年明けに彼女を紹介するっていっただろ?」
(ん?)
扉の向こうから聞こえる、その聞き覚えのある声に、麻耶は扉を振り返った。
バンという音ともに開けられた扉の向こうにいた人を麻耶はぼう然としてみた。
「麻耶……」
「芳也さん……」
同時に声を上げた二人を白木は笑いながら見ていた。
「ほれ、麻耶ちゃん、孫の芳也だ。麻耶ちゃんのお見合い相手」
「白木様……初めから……」
その言葉に、一人の女性が話を始めた。
「最初は本当に偶然よ。あの時あなたが父に声をかけたんだもの」
「あっ、奥様……」
初めて会った日に一緒にいた女性がにこやかに笑っていた。
「芳也の仕事が見たくて、こっそりレストランに行ったのは偶然ではないけど、あそこであなたに会ったのは偶然よ」
「お袋、そんなことしてたのか?」
芳也の驚いた声に、麻耶はこの女性が芳也の母親だとわかり更に緊張した。
「それから、芳也の話からあなたが芳也のお付き合いしている人だとわかったわ。その後も父があなたに会いに通っていたことはつい最近まで知らなかったけど」
苦笑しながら言った芳也の母に、麻耶は慌てて頭を下げた。
「重ね重ね失礼いたしました」
「あら?何が?いつも楽しく会話をして、父も母も本当の娘になって欲しいっていつも言ってたもの」
フフッと笑う芳也の母を見て、麻耶もすこしほっとして、隣の芳也を見た。
「まあ、二人とも座りなさい。食事をしながらにしよう」
そう言うと、麻耶は改めて健斗と唯奈もいることに気づいた。
「麻耶ちゃん、騙す様な事をして悪かったな」
食事をしながら白木はニコリと笑った。
「いえ、そんな……」
「明日からわしは、ばあさんと旅行でな。新年に挨拶に来るとは聞いておったが、どうしてもわしがいる時に会いたくてな」
「そうだったんですか……」
「それに……」
そこで白木は芳也の父をチラリとみると、
「麻耶ちゃんは、父親に反対されるのではないかと心配していただろ?」
「そんな事お話しましたか?」
慌てて言った麻耶の言葉に、
「直接は言わなかったが、他の話の時に、身分が違うと認められない人も多いというような話をしておった。それは自分のことだったんじゃないのかな?」
(確かにそんな不安を口にしたかもしれない……)
「はい……」
「その不安をわしが取り除いてやらねばいかんと思ったんじゃ」
そう言って笑顔を見せた白木に、麻耶は頭を下げた。
「お義父さん!ちょっと待ってください!まるで私が悪者になっているじゃないですか」
そこで苦虫を潰したような父の言葉に、麻耶は顔を上げた。
「麻耶さん、私はむしろ君には感謝をすれど、反対する気は全くない」
「お義父さんがここまで君を気に入っているところを見れば、君の人と成りは確かだろうし……それ以上に、あの頑なに心を閉ざしていた芳也が君のお陰でようやくこの家に戻ってきてくれた。私の今までの過ちを謝る機会を与えてくれた君には感謝しかない。本当にありがとう。そしてこれからも芳也をよろしく頼みます」
「親父……」
その言葉に、麻耶は涙が溢れそうになるのを何とか抑えると、
「もったいないお言葉です。私には誇れるものも何もなく、平凡な家庭で生まれて何も持っていません。こんな私を認めて頂いて本当にありがとうございます。よろしくお願いいたします」
麻耶は零れかけた涙を拭うと、頭を下げた。
「話がまとまった所で、さあ食事を楽しみましょう」
芳也の母の言葉に、和やかに食事会は続いた。
「すごく緊張した……」
麻耶は芳也の部屋のベッドに座ると、大きく息を吐いた。
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