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芙月みひろ
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#虐げられヒロイン
芳也の部屋は豪邸と言う感じではなく、茶色と白のモダンな部屋だったが、ずっと使用してなかったのだろう、高校の参考書や、サッカーボールなど幾分若い男の子の部屋と言う感じだった。
「大丈夫か?」
麻耶の隣に座ると芳也は麻耶の瞳を覗き込んだ。
「何がなんだか分からなかったけど……。とりあえず無事に認めて貰えたってことで大丈夫ですかね?」
「ああ、麻耶ありがとう」
ゆっくりと芳也の胸の中に抱きしめられて、麻耶はやっと緊張が解けた気がした。
「この部屋、俺がアメリカに行く前と全く変わってない」
「大切に掃除してくれてたんですね」
優しく見上げた麻耶の瞳にそっと芳也は口づけると、
「全部麻耶のお陰だよ。俺がこの場に、この家に戻る機会を与えてくれてありがとう」
「芳也さん……」
唇を重ねようとしたところに、
「芳也!麻耶ちゃんはまだ嫁入り前です。この部屋に一緒に寝ることは認めないわよ」
ドアの向こうから聞こえた母の声に、芳也も麻耶も顔を見合わせて笑いあった。
「わかってるよ!」
ドアの向こうに声を掛けると、
「じゃあ、麻耶今日は悪かったな。じいさんにも付き合わせて。本当にありがとう。また明日」
そう言ってチュッとキスを落とすと、立ち上がってドアを開けた。
「芳也さん。おやすみなさい」
麻耶は芳也の母と一緒に廊下に出ると、芳也に手を振った。
「客間に案内するわね」
にこやかに言った芳也の母に、麻耶も笑顔を向けた。
そんな麻耶をジッと見た後、
「麻耶ちゃん、本当にありがとう」
急にお礼を言われ麻耶はびっくりして、芳也の母を見た。
「白木様……あっ?えっと……」
「あら、ごめんなさいね。名前も名乗ってなかったわね。お父さんのせいで」
フワリと笑った芳也の母は、
「宮田穂希です。白木は旧姓ね。穂希(ほまれ)さんって呼んでね」
「はい。……穂希さん」
少し照れながら言った麻耶に優しい瞳を見せながら、
「主人も父には頭が上がらないのよ。だから父を味方につけたからもう何も怖いものはないわよ。本当はね、私は主人の弟の婚約者だったの。主人には違う婚約者がいてね。あの頃はそれが普通で。でも……強引に私と結婚したいって父に言ってくれて……いろいろあったからそれ以来、主人は父には弱いのよ」
昔を思い出したように言った穂希の言葉に、麻耶も笑顔を向けた。
「芳也から話を聞いているとは思うのだけど……」
そう前置きをして、穂希は言葉を止めた。
「妻の欲目ではないけど、主人はただ愛情を表すのが苦手な人なの。決して芳也を愛してないとかそんな事はないの。だから……。芳也を、この家の事で見放さないであげて欲しいの。もちろん、芳也が何かしたり、芳也自身に問題があればそれは仕方ないと思うわ。でも宮田の人間だからとか、それで……」
麻耶には穂希のいう事がなんとなくわかった気がして、穂希を見た。
「大丈夫です」
しっかりと目を見てニコリと笑った麻耶に、穂希も安心したような表情を見せた。
「ありがとう。これからもよろしくね。娘が急に二人もできてうれしい」
案内してもらった客間はとても落ち着く部屋で、シャワールームもついていて快適だった。
不安をよそに、想像以上に温かい宮田の家を知ることができ、麻耶はゆっくりと眠りに落ちた。
年末年始と近場に旅行に行ったり、芳也の家に新年の挨拶に行ったりとあっという間に年が明け、いつも通りの日常に麻耶は戻っていた。
そしていつも通り少しの時間を見て、芳也と麻耶はソファでゆっくりとしていた。
「ねえ、こういうの綺麗だし楽しそうじゃないですか?」
麻耶はノートに書いた絵を芳也に見せた。
麻耶の膝の上に頭を乗せていた芳也はそのノートを受け取ると、目を落とすとじっとその絵を見ていた。
「なあ、これって風船を上と下からってこと?」
真剣な目で芳也は麻耶を見た。
「そうです。風船って上に飛ぶでしょ?それを上から下に落としたらどうかなって。プレゼントとか手紙をつけて。そして同時に下からも風船を放すんです。唯奈ちゃんに提案してみようかなと思って」
何か考え込む芳也に、「ちょっと思っただけです」そう言うとノートを奪い取り麻耶は恥ずかしそうにノートで顔を隠した。
「いや、いいと思うよ。両方から一度テストでやってみようか?」
「え?本当ですか?ただの思い付きだったけど、芳也さんにそう言ってもらうと嬉しいかも」
ニコニコ笑っていた麻耶だったが、不意に芳也をジッと見た。
「ねえ、芳也さん」
「ん?」
ぼんやりと麻耶の膝の上でテレビを見ていた芳也は、麻耶を見上げた。
「最近、何か悩みありますか?」
「……ないよ」
「本当に?」
「なんで?」
「なんでって……」
最近麻耶は、二人でゆっくりしているときに、芳也が何かを考え込むような仕草をする事やよくなる電話が気になっていた。
(誰からの電話?どうして電話がかかってくると自分の部屋にいっちゃうの?)
そんな事をぼんやりと考えていると、
「……っん!芳也さん……」
ゆっくりと少し開いた麻耶の口に芳也はスルリと舌を差し込むと、麻耶の舌を絡めとった。
「麻耶。麻耶……好きだよ」
キスの合間にかけられる言葉と、とろけそうなキスに麻耶はソファに沈みこんでいった。
(ごまかされてる……?)
麻耶はそんな不安がぬぐえずにいた。
そんな事があった次の週の月曜日、麻耶は友梨佳と久しぶりに飲みに行くために会社を出て東京の街にいた。
「麻耶!こっち」
その声に待ち合わせの場所で二人は合流すると、いつものバルに向かって歩きだした。
「その後どう?」
「いろいろありがとうね。館長にも話してくれたんでしょ?」
「まあ、少し心配だったし。館長しか二人の事知らないだろうしね」
少し照れたように言った友梨佳に、麻耶も笑顔を向けた。
「館長どう?意外にいい人でしょ?」
「えっ!まあ、そうだね」
少し慌てたように言った友梨佳に、麻耶はもしかして?と思う気持ちもありニヤニヤしてしまう顔をなんとかこらえていた。
「それより麻耶こそ……麻耶?あ……」
返事の無い麻耶の目線の向こうを見て、友梨佳も言葉を無くした。
「誰だろ……」
そこには芳也と髪の長い女の人がホテルの中に入っていく姿があった。
ぼんやりとその姿を見ていた麻耶に、
「ちょっと!何よ!麻耶追いかける?」
友梨佳の怒ったような声に、麻耶は首を振ると目線を戻した。
「行こう。友梨佳」
「でも……」
(ホテル……って……)
いつもの席に座り、ほとんど変わらないいつものメニューを頼み、考え込むような顔をした麻耶に、
「お姉さんとか?」
「お兄さんしかいない」
「じゃあ、ちょっと道を尋ねられたお礼に、ロビーでお茶とか。あそこのホテルのケーキすごくおいしいし」
無言になった麻耶に、
「はっきりと聞いたら?あの人は誰で、何をしていたか」
麻耶の顔をはっきりと見て言った友梨佳に、麻耶も「ごめん」と謝ると水を一口飲んだ。
「せっかく久しぶりに楽しく飲むはずだったのに。最初からこんな雰囲気で」
肩をすくめるように言った麻耶に、友梨佳は睨むように、
「そんなのは別にいいに決まってるでしょ!それより気になるなら聞く事」
「うん……でも。怖い」
「別に怪しい様子はないんでしょ?」
その問いに、麻耶は言葉に詰まった。
「え?あるの」
「うん……」
麻耶の不安そうな表情に友梨佳も食べる手を止めた。
「どんな風に?」
「決定的な事があったわけじゃないの。でも最近よく考え事をしていたり、電話が良くかかってきて……」
「誰から?」
「わからない。すぐに自分の部屋に行っちゃうからどんな話かも分からないの」
不安から涙が出そうになって、麻耶は無理やり笑顔を作った。
「聞かなかったの?」
表情を変えず友梨佳はいつも通りキノコのアヒージョを口に入れた。
「聞ける?」
「……聞けないか」
「一応ね、何か悩んでることはないかって聞いたんだけど、無いって言われちゃって。それ以上聞けなくて」
二人して黙りこんでしまい、麻耶は空気を変えるように仕事の話を始めた。
ぼんやりと友梨佳と別れて、足取り重くマンションへと向かっていた。
友梨佳の家に泊まるかと提案もされたが、決定的に何かがあったわけでもないのにそんな事もできずに帰ってきた。
落ち着かない気持ちと、不安な気持ちでドアを開けるがまだ真っ暗の部屋に、更に麻耶の気持ちは落ち込んだ。
シャワーを浴びて、ソファーからきらめく夜景を眺めていると、携帯にメッセージが来たことを知らせる音がなり、麻耶はテーブルの上からゆっくりと手にすると、アプリを起動した。
【ごめん。仕事でおそくなる。先に寝てて】
芳也からのそのメッセージに麻耶は、顔をしかめるとポイとソファーに携帯を置いた。
(仕事……本当に?)
ギュッと膝を抱えて、自分を抱きしめて大きく息を吐くと、携帯を拾い画面に指を滑らせた。
【お疲れ様です。無理しないでくださいね。おやすみなさい】
芳也を信じたい自分と、不安な自分。仕事と言う芳也に不満や不安をぶつけてはいけない。
自分にそう言い聞かせると、麻耶は自分の部屋のベッドへと潜り込んだ。