🐾異変
・・・これだけ?
最近ご飯と水の量が減ってきた。一日三食で、量もたっぷりあったのに。今は一日三食だが、一回の量が少ない。水も一回に入れられる量が少ない。クラウディアなんかお腹がずっと鳴りっぱなし。「ねえ。クラウディア。いつもこんな少なくなかたよね。」わたしはそばにいる黒い犬に話しかけた。そばにいる黒犬はクラウディア。元野犬で、まだ生後2〜3ヶ月の子犬。胸元だけが白いんだ。茶色がある目がなんともいたずらっ子のような雰囲気を醸し出している。「うん。いつもはもっと多くてゆっくりめに食べられたのに。」目をギラつかせて、わたしに一瞥もせずにご飯にがっついている。元野犬だから生存競争に勝たないと生きていけないのもあるんだろう。わたしもいつもより早くご飯を食べるようになっている。ああ、里緒奈と一緒の頃だったらゆっくり幸せにおいしいご飯を頬張れたのに。里緒奈はわたしの飼い主の少女。わたしのクラウンという名前からりりという名前をくれた、長い黒髪を持っている優しい女の子だよ。そういえばこの前里緒奈が、とてもいい匂いとしょっぱい匂いのする食べ物をパンと一緒に食べてたな。ママが、あれはサロっていうんだよって教えてくれたなぁ。(サロは、豚の塩漬け脂肪で、そのまま食べたり、パンと一緒に食べるウクライナの伝統料理の一つ) あ、いけないいけない。ぼうっとしてた。早く食べないと。わたしは慌ててご飯を食べた。
翌日、マークからたくさんの飲水とご飯(フード)とおもちゃ、温かい毛布が届いた。ソフィアの声がする。「ありがとう。マーク。おかげでうちの動物たちは飢え死、乾き死にせずにすんだ。ありがとう」ソフィアはここのシェルターの管理人なんだ。娘のマテリーナも「ありがとうございます」と頭を下げている。マテリーナはここの後継ぎなんだ。「さあ、みんな。ご飯だよ。たんとお食べ」「わああい!」わたしたちはたくさん食べた。ソフィアとマテリーナはにこにこしていた。と、ソフィアとマークが話しているのが聞こえた。「ロシア兵がコンビニとかの周辺をうろついてて、うかつに近づけなくて…」「この前なんかシェルターが爆撃されたらしい。それで一匹の茶色い子犬が命を落としたとか…」「まあ。そんなことが… ここはキーウ近郊のボロディアンカ。いつ爆撃されてもおかしくない…」
『ロシア』
聞いたことがある。たしかあの時、ウーーーーーーー!っていう大きな音が鳴って雷みたいな音がとどろいた。確かニュースを見た時、ニュースキャスターが「ロシアの侵攻が‥」って言ってなかったっけ?「ロシア…」わたしはうめくように呟いた。クラウディアはじっと話に耳を傾けている。怖くなってきた。犬たちの中には震えていたり、怖さのあまり、おもらしをしている子までいる。きっと『ロシア』を知っているんだ。 最初の不安のうずは自分では消えたと思っていた。でも、また巻き始めた。きっと今度は比べ物にならないくらい大きく、深いうずになるだろう。
🐾 不安の兆し
その後もなんとか普通に暮らしていた。でも、ある日。
バンバーン!バババーン!銃声が鳴り響いた。
「キャン!」クラウディアも悲鳴をあげる。「何?」「何なの?」「怖いよう‥」みんな不安にかられた。 その日、ソフィアとマテリーナ、その他のシェルターの職員たちは見かけなかった。わたしたちは自慢の嗅覚、記憶力をつかい、あちこちを探していたが、明日の明け方まで見つからなかった。「りり、お腹すいた…」クラウディアが話しかけてきた。さっきからずっとクラウディアはお腹がなっている。一晩ずっと探し回っていたからお腹が空くのは当然だ。「昼になったら来るかもしれないでしょ?だからさ、ね、もう少しの辛抱だよ!ま、わたしもお腹すいたけど。」
「おーい!みんなー!大変だよ!武装したロシアの兵士がシェルターの出入り口を塞いでる!」茶色い犬がこちらに駆けてきた。その茶色い犬を見た時、りりは無意識に叫んでいた。「ウィーナ!」 「りり!」ウィーナと呼ばれた犬も叫んだ。「久しぶり!ウィーナ!」「りり!会いたかった!」尻尾を触りあっていると、「そうしちゃいられない!」とウィーナが言った。「さっきも言った通り、武装したロシア兵がシェルターの出入り口をふさいでるんだ!だからソフィアやマテリーナたちは来れないんだよ!」
ソフィアやマテリーナ、職員たちがこれない。つまり、飲水、食べ物がないということだ。全身の毛がぞわりと粟立った。最悪、死に至るかもしれない。そういう恐怖が胸をよぎってくるようになった。
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