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冒険者たちの根城の玄関扉が、ためらいがちに叩かれたのは、暫く後のことだった。
「おう、誰だぁ?」
粗末な木のテーブルを囲んで、即席の賭場を作っていた無法者の一人が、外に向かって吠えた。
「ラウスです。今、戻りました」
「で、首尾はどうだ?」
「何とか捕まえることが出来ました」
ラウスの言葉を聞いて、禿頭の破戒僧がガイに笑いかける。
「生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い込んでやりゃあ、役立たずも役に立つようになるってもんよ」
「違いねぇ」
片目を眼帯で覆った盗賊あがりの男が、手札の中から要らない1枚を場に捨てながら言う。
「じゃあ、どんな面か拝んでみようじゃねぇか」
ガイは椅子から立ち上がると、扉の近くで見張りをしていた男に言った。
「おい、入れてやれ」
見張りをしていた男が無言で頷き、閂を外す。
ガイが扉を開けた。
銀色の鎖で後手に縛られたゼルダを連れ、ラウスが玄関先に立っていた。
「どうした、中に入れよ」
ガイの言葉に促され、2人は家の中に入った。
ゼルダの姿を見た一人が、囃し立てるように口笛を吹いた。
「おい、コイツはまた、随分と大物じゃねぇか」
家の中に居る者たちの中に、誰一人上級魔神を見たことがある者が居ないのは明白だった。
ゼルダの前に立つラウスを押し退けると、ガイがゼルダの前に立った。
ゼルダの顎先に指を滑り込ませると、ぐいっと顔を持ち上げてみせる。
「ちょっとばかりとうが立っちゃいるが、まぁ悪かねぇ。この調子で次も頼むぜラウス」
ガイの言葉を受け、ゼルダが笑い出した。
「何だ。何が可笑しい?」
「お主らに次など無い。あると思っている浅はかさが、どうにも可笑しくてな……」
そう言うとゼルダは、後手に縛られていた筈の右手をガイの眼前に出した。人差し指を突き出した形で手を握ってみせる。
「おい、ラウス……」
ガイがラウスに何を言おうとしたか、は分からずじまいだった。
ゼルダの右人差し指の爪が刺突剣のように細く長く伸び、それがガイの左の眼球と大脳を貫き、血に濡れた先端が後頭部から突き出ていた。
「はきっ、はきっ」
ガイが声にならない声を上げる。脳の一部が破壊されたせいで、意思とは関係なく、体がブルブルと痙攣している。
ゼルダが爪を引き抜くのと、ガイの体が床に崩れ落ちるのは同時だった。
机を囲んで賭けに興じていた者、壁や積み上がった木箱を背に飲んだくれていた者たちが、異変に気付き、武器を手に一斉に立ち上がった。
「小僧、ワシの後ろに隠れて目を瞑れ。絶対に光を見てはいかんぞ」
ラウスを自分の身体で庇うと、ゼルダは無法者たちと向かい合った。そして、何かを押し留めるかのように右の掌を一座に向けると告げた。
「諸君、今晩は。そして、さらばじゃ」
途端にゼルダの右の掌が、強く青白く発光した。
「ああっ、目が、目がっ」
無法者の一人が、悲痛な叫び声を上げる。ほんの数秒で、悲鳴を上げた男以外の者たちも、目の中の水晶体が真っ黒になり、視力を永遠に失ってしまった。
全身を針で刺されたような激痛が、一堂を襲う。
皮膚細胞を守るためにメラニン色素が働き、男たちの肌はみるみるうちに黒くなったが、それでも追いつかず、男たちの肌は、沸騰した油の表面のように大小様々な水泡に覆われた。
目、鼻、耳、口内、性器、肛門といった体外に露出している粘膜が傷付き、出血が始まった。
ボロボロになった組織が損傷を補おうとして水が溜まり、腹部がカエルのように膨張する。
細胞の崩壊が恐ろしい勢いで進み、身体のあちこちから、腐敗したゾンビのように細かい肉塊がこぼれ落ちていく。
男たちにとって悲劇だったのは、脳は頭蓋骨によって厳重に守られているため、放射線による損傷は一番最後で、苦痛を感じる機能も最後まで残っていたことだった。
およそ人類が味わったことのない苦痛を受けて、男たちは床の上で、転げ回った。内圧に負けて腹が裂け、内臓が外に飛び出した時も、まだ男たちは生きていた。濡れたビニールのような光沢を持つ臓物と、まき散らされた体液も、ゼルダが放つ「死の光」を受けると、ブツブツと泡立ち、どす黒く煤けていった。
殺戮は終わった。