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「ようし、小僧。もう目を開けてもいいぞ」
ゼルダの声を受け、目を開けたラウスは、目の前の惨状に唖然とした。
床の上に広がる黒い染みの上に、ボロボロになった黒い肉塊が幾つも転がっている。
「致死量の紫外線、ガンマ線、重粒子、ちょこっとばかりの中性子でこの様じゃ」ゼルダが説明する。「生き物だけに作用し、建物やお宝は無傷でゲット。実に−−」
「あ、あのう……」
ラウスが恐る恐る話かける。
「何じゃ?」
「僕は、どうしたらいいんでしょうか?」
「うむ。お前はコイツらに強要されていただけじゃからな。ワシに協力してアジトを教えたことも考慮して、無罪としてやる」
「いえ、そんなことじゃなくて……パーティーが壊滅しちゃって、これから僕はどうしたらいいんでしょうか……」
「さ、さあな」そっぽを向いた後、ゼルダが言う。「これはワシの独り言じゃがな……小奴ら結構な額を貯め込んでいたようじゃから、それを頂けば、暫くは食いつなげるじゃろ」
「で、でもっ。その先はどうなるんですか?」
「これで良く分かったじゃろ?冒険者なんてヤクザな仕事は辞めて、堅気の仕事に就け。それが駄目なら郷里に帰って親の仕事でも継げ。な?」
「古里は戦災で焼けてしまいました。家が貧しかったんで、僕は幼い頃、弟子の居ない魔術師に買われました。帰る家はありません」
そう言うとラウスは下を向いた。
「うむむ。そういう問題は、教会の神父か牧師に相談せい。ワシは混沌の軍勢の一兵卒に過ぎん。就職相談や進路相談は専門外じゃ」
「じゃ、じゃあ。あのっ、弟子にしてくれませんか?」
「弟子ぃ?」ゼルダの顔が歪む。
「僕も、さっきのゼルダさんみたく、凄い術式を使えたら……」
「だったら、人間の魔術師のところに弟子入りすりゃええ」
ゼルダが鼻であしらう。
「僕、修行が辛くて、僕のことを買った師匠の下を逃げ出したんです。そしたら、魔術師ギルドの中で破門状が回って、僕がどんなに困っても助けるなって……」
「ワシはなぁ、つい此の間、一番手間の掛かったバカ弟子をようやく一人前にして追い出したばかりなんじゃ。暫くは弟子なんて取る気はない」
「そこを何とか……」
ラウスが食い下がる。
「いーや、駄目と言ったら駄目じゃ」
ゼルダが頭を振る。
「じゃ、じゃあ……」暫く黙った後、ラウスが意を決して言う。「下僕でも奴隷でも、犬でもいいです。僕を雇って下さい」
「君ぃ、自分を安売りしちゃいかんよ」大きく溜息をついた後、ゼルダが言った。「それだけの熱意を持って頼み込めば、破門状が回っておっても、後継者不足で困っている魔術師なら雇ってくれるじゃろ」
「僕は貴女の弟子になりたいんですっ」
ラウスが真剣な眼差しでゼルダを見る。
ああっ、もう。ゼルダは頭を抱えた。
地面に視線を落とすが、そこに答えはない。上空の濃紺色の夜空と白銀の満月を見上げるが、やはり、そこにも答えはない。
答えは、心の中にしかない。
ゼルダが大きく溜息をつく。
「分かった。もし、ワシの弟子になりたいのなら……」
「絶対、御迷惑はおかけませんっ」
ラウスが食い気味に飛びついた。
「まだワシが喋っとるっ!」
ゼルダがピシャリとねじ伏せた。
「もし、ワシの弟子になりたいのなら、質問は一切無しじゃ。いつ、如何なる時も返事は唯一つ「はい、ゼルダ様」じゃ」
「はい、ゼルダ様」
「お前の目が潰れようが、腕がもぎ取れようが、ワシャ知らん。自分でなんとかせい。そこまでの覚悟があるのなら、ワシも師匠の真似事をしてやる。どうじゃ?」
「はい、お願いします。ゼルダ様」
ラウスが深々と頭を下げた。
はあ、やれやれ。ゼルダは天を仰ぎ見た。
「よし、それでは宿を用意せい。ワシャ、デリケートだからな。こんな野っ原で契約の儀をしとうない」