テラーノベル
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元イタリアンマフィアの幹部だからといって、普段の組内での仕事は他のメンバーとそう変わりはしない。
シマの見回りやシノギ、風俗店のケツ持ち等だ。
ただやはり過去の経験を活かして、諜報部門や外交部門で、新しく来た舎弟の教育を任されることが多い。
「上杉の兄貴、こちらの資料でよろしいでしょうか?」
「allegria(よくやった)! 頼りにしているぞ。」
「ありがとうございます。本当に、兄貴のおかげです。」
兄貴…
日本では、タテの序列が厳しいときく。
しかしそれは私にとっては寂しく思われた。
舎弟たちがいつもどこか、私の機嫌を損ねないように、嘘をついているようにも思えるからだ。
しかし、この言葉に違和感を覚える理由は、それだけではない。
「ところで上杉の兄貴、来月の旅行の話はご存知ですか?」
「ああ、聞いているが…。」
「兄貴も、参加されますよね? 折角ですから、日本の良さを…」
「一生懸命に準備を進めてくれる君たちには、誠に申し訳ないのだが…。私は行くことができない。」
「えっ…!そう、ですか…。」
「温泉という、見知らぬ人たちと同じ風呂に入るというのは、どうも苦手でな。」
「それでは、仕方ありませんね。ご心配なく。兄貴は不参加と、伝えておきます。」
「ああ、すまない…。ありがとう。」
そう言って事務所を出る私に、こんな声が聞こえてくる
「上杉の兄貴、付き合い悪いな…。時々何言ってるかわかんねぇし。」
「だって外国人だろ…?欧米では個人主義っていうけど、ただの自分勝手じゃないか?」
私が組の温泉旅行に行かない理由…
それを知るものは、この組には一人しかいない。
コメント
4件
初めまして!見てると素敵です。