私は無意識のうちに彼を睨んでいたらしい。
もちろん彼を睨んだつもりはない。
ただ
「菊一人で何億相続するのっ⁉」
「お国入りなんてもったいない。なんとか私たちに残させないと」
「菊に遺言を書かせたらいいじゃん」
「半年から一年だって。好都合じゃない」
など、不快な言葉を思い出しただけ。
「親戚って…意味ある?」
我ながら冷たい声が出たけれど、早川さんは特に表情を変えることなく、ただじっと私を見ていた。
「帰らないんだな?」
コクン…
「だが、売却書類がこれでは不十分。査定が終わったら連絡する」
「印鑑証明書とか?コンビニで取れるでしょ?」
私がそう言うと、彼はデスクへ行って一枚の紙を私の前に置いた。
「不動産売却必要書類一覧…固定資産税納税通知書…」
持って出ていない。
「もう一度聞く。空き家か?」
「……違う」
「住人がいるのを追い出すのか?」
「違う。私が出たから…」
「家財がある状態ってことな」
コクン…
「分かりました、一ノ瀬さん。まず、査定に入ります」
改まってそう言った彼は
「訳あり臭がするから、社員に任せられない。俺が行く。それでいいか、一ノ瀬菊?」
と鍵を手にした。







