夜が深くなると、山々の間を覆う闇が村を静かに包み込む。その闇の中でひそやかに動く影、それは八つの頭を持つ恐るべき怪物、ヤマタノオロチだった。
毎年、オロチは村の生け贄を貪る。村の者たちは恐怖に震え、若い娘を差し出すことでその猛威から逃れようとしていた。しかし、今年は違った。村人たちが捧げたのは、美しさを持つ女性ではなく、病に冒され、痩せこけた少女、ツバキだった。彼女の目には生への執着も、死への恐れもなく、ただ虚ろな光だけが残っていた。
オロチはその供物を貪ろうと、ツバキを飲み込む。しかし、その瞬間、オロチは異変を感じた。体内でうごめく何かが彼を苦しめる。ツバキの病が、オロチの内側から彼を侵食していくのだ。
八つの頭が苦しみに吠えた。体が腐り始め、その膨れ上がった腹からは腐った血と膿が溢れ出す。彼の鱗が剥がれ落ち、肉が溶けるように崩れていく。オロチは自らの体が崩壊していくのを感じながら、激しい痛みと狂気に苛まれた。
しかし、ツバキはオロチの腹の中で微笑んでいた。彼女は、ただの病に冒された娘ではなかった。彼女はその身に呪いを宿した魔女であり、彼女の病は死をもたらす呪いそのものだったのだ。
オロチはツバキを呑み込んだことを後悔したが、手遅れだった。彼の体は次第に崩壊し、八つの頭は次々と地面に落ち、腐敗していった。その中で唯一生き残った頭は、オロチの意識を保ちながらも、自らを貪り食らうことで少しでも苦しみから逃れようとした。しかし、その行為も無駄だった。オロチの体は全て腐り果て、骨と腐肉の塊と化していった。
村人たちは翌朝、山に残されたオロチの無残な姿を見つけた。彼らは恐怖と共に、その光景を見つめた。ツバキの犠牲により、彼らはオロチから解放されたが、代償はあまりに重かった。村の者たちは、ツバキがただの娘ではなく、呪いを持つ魔女であったことを知り、彼女の名前を二度と口にすることはなかった。
しかし、ツバキの呪いは終わっていなかった。オロチの腐った体の中から、新たな生命が芽生えたのだ。呪いによって歪められた怪物が、再び闇の中で蠢き始める。そしてその日が来れば、ツバキの呪いが蘇り、村は再び恐怖に包まれることだろう。