テラーノベル
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ナーンタリの午後の陽光が、スパホテルの屋内温水プールの水面を宝石のようにきらめかせている。
私は今日、陽一さんに見てほしくて選んだ、とっておきの白い水着を身につけていた。
(ちょっと大胆で恥ずかしいけれど……ここはフィンランド。周りを見れば、私よりずっとセクシーな水着の人もいるし)
今日の私の勝負服――いや、完璧な「武装」である。計画はこうだ。まずプールデートで彼を誘惑し、その熱に浮かされたままホテルの部屋へ戻って、まったりとイチャラブを楽しむ。これは、そのための最強のカードなのだ。
(……陽一さん、喜んでくれるかな?)
私は優雅な足取りで水際へと歩み寄った。
数歩進んだ、その瞬間。
「あれ……?」
足元が、消えた。
「えっ――っ!?」
北欧の成人用プールは、日本と規格が違う。平均身長の高い彼らに合わせた水深は、158センチの私には深すぎた。
私は――泳げない。慌てて手足を動かすほど、体は無情に深い水へ沈んでいく。
(やばい……っ)
「助けて……っ!!」
***
「……ひよりさん?!」
タオルを取りに行って戻ったときだった。彼女の姿が水面に沈むのが見えた。
僕は考えるより先に、持っていたものを放り出していた。そのままプールへ飛び込む。水中でもがく彼女の体をつかみ、両腕で抱き上げた。
「ぷはっ……! げほっ、げほっ!」
水面に顔を出した彼女は、空気を吸い込んだ。
「陽一さん! 今、絶対に離さないで……っ!」
水に濡れた彼女は、必死に僕の首へしがみついていた。彼女の体温と、水に濡れた肌の滑らかな感触。心臓が、ドクンと跳ねる。
(……っ、うわ、柔らか……っ!)
けれどすぐに彼女の肩が、小刻みに震えていることに気づく。
(……何考えてるんだ、僕は。今は、それどころじゃない!)
ゆっくりとプールサイドまで泳ぎ、彼女を引き上げた。
「……大丈夫?」
プールサイドに投げ出していた大判のバスタオルを拾い、彼女の肩を包む。
「ひとまず、これ羽織って」
「僕がもっと早く戻っていれば……。北欧のプールがこんなに深いなんて知らなかったよ」
「ううん、大丈夫。私の方こそ油断してたから」
***
私はデッキチェアにもたれ、タオルに顔を半分埋めた。
(……あーもう最悪)
セクシー水着で彼を翻弄するはずが、溺れて全力でしがみつくなんて。
恥ずかしすぎる。
でも――助けてくれたときの陽一さん、カッコよかった。
「陽一さん」
「なに?」
私はタオルの中に顔を隠したまま言った。
「私が泳げないの……誰にも言っちゃダメだからね。子供みたいって笑われるから……」
少し間を置いて、小さく続けた。
「……私のカッコ悪いところは、ぜんぶ陽一さんだけが知ってればいいの」
彼は少し困ったように笑った。そして、ぽん、と私の頭を軽く撫でた。
「大丈夫だよ。何回でも助けるから」
その言葉に、心がふわっと温かくなる。私は顔を上げて彼を見た。
「……ずるい」
「なにが?」
「そういうこと、普通に言うところ」
私はタオルに顔を隠し直した。
「……ありがとう、陽一さん」
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#独占欲
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