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凪川 彩絵
#独占欲
大人になってからは外食という便利なものを覚えたし、コンビニ弁当もそう悪いものじゃないと知った。商店街に行けば美味い総菜をテイクアウトできる店も多い。
たまに弟が経営しているイタリアンレストランに行くのも楽しみになっていた。
そんな感じ。晴永にとって〝料理をする〟というのは何よりも大変なことという位置づけだったから、『弁当も含め、無理はしなくていい』とだけ言って、瑠璃香が我が身に負担を課すことを止めたつもりだった。
『晴永さんは料理が苦手ですか?』
だが、そう言った途端、瑠璃香にくすくす笑われて晴永は戸惑った。
『会社で小難しい書類と睨めっこするより、よっぽど料理の方が簡単ですし……楽しいですよ? 私、お料理するの、好きなんです。だから、よろしければ私に任せてもらえますか?』
弟のこともある。
世の中には料理を作るのが楽しいという人間が存在するということは晴永だって知っていた。
瑠璃香がそこまで言うのなら、晴永には瑠璃香を止める理由はない。
『じゃあ、頼んでも……いいか?』
『お任せください!』
そんなこんなで、瑠璃香が家に来てからこちら、晴永は外食から遠ざかっていた――。
その卵焼きが、思った以上に人の目を引いていることを、晴永はまだ知らなかった。
***
コミュニティルームの片隅。木島悦子は、外のキッチンカーで買ってきたチーズサルサソースのホットドッグにかじりつきながら、そっと自分の前へ座る小笹瑠璃香の弁当へ視線を走らせた。
(——やっぱり、似てる)
さっきチラリと見た、新沼課長の弁当。
右上にどんと存在感のある卵焼き。
ブロッコリーの胡麻和え、れんこんとさつまいもの甘醤油煮、アスパラガスのベーコン巻き、ひじきの煮物入り鶏バーグ。
目の前の弁当箱の中身と、脳内で照らし合わせていく。
味付けまでは分からないが、少なくとも見た目の方向性が、あまりにも合致している。
中身の量は男女差というか……弁当箱の大きさが違うのでもちろん大分違っているが……、それにしても、だ。
(偶然……にしては、一致しすぎじゃない?)
悦子はコーヒーをすすりながらちらりと、瑠璃香の様子を盗み見る。
瑠璃香は悦子の観察に気付いているのかいないのか。黙々と箸を動かしていた。
いつもと変わらない。
特別そわそわしている様子もないし、スマホを気にするでもない。
——だからこそ、余計に気になる。
「ねえ、瑠璃香」
声を落として呼びかけると、瑠璃香は一瞬だけ肩を揺らし、こちらを見た。
「最近、前にも増して……料理にハマってる?」
「え……?」
間の抜けた返事。
悦子は、あくまで雑談のトーンを崩さない。
「ほら。なんかお弁当のおかずの品数が急に増えたなーと思って……」
元々まめな同期である。瑠璃香が手作り弁当を持参する姿は今も昔も変わらないのだが、どうにもここ数日、やたらと中身が豪勢になっている気がしてならないのだ。
その変化が起きてからこっち、たまたま営業課に配属された仲良し同期のもう一人、日下仁人がいないから平穏にランチタイムを楽しめている。けれど……今の瑠璃香の弁当を彼が見たら、大騒ぎしそうな気がする。
コメント
1件
なんか起こりそうな気がする。 大丈夫かな。