テラーノベル
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学年主任の先生は、
その日の昼休み、廊下の端から三人を見ていた。
赫。
黄。
瑞。
———動き方が、昨日までと違う。
赫は保健室登校のはずなのに、
用もない場所を歩いている。
視線は落ち着かず、
校舎の外———
校舎裏の方を、何度も確認している。
黄は、
人の少ない時間帯を選ぶように行動していた。
掲示物を確認するふりをして、
誰がどこにいるかを見ている。
瑞は、
明るいままなのに、
妙に周囲を気にしていた。
(……探してるな)
先生は、確信に近いものを感じた。
職員室に戻り、
机に置いたiPadを開く。
例の動画。
再生はしない。
ただ、
“提出日時”と
“撮影期間”だけを、指でなぞる。
(気づくのは、時間の問題だった)
先生は、
深く息を吐いた。
——でも。
(本人が、話したがらない)
(それを、
この子たちが無理に暴くのは……)
放課後前。
先生は、
赫を呼び止めた。
「赫」
赫は、
一瞬だけ肩を強張らせてから、振り返る。
「はい」
「少し、話せるか」
保健室ではなく、
人気の少ない相談室。
ドアを閉めて、
先生は、ゆっくり切り出した。
「……最近、
証拠の提供者について、調べているな」
赫の目が、
はっきり揺れた。
「……」
否定しない。
それが、答えだった。
「責めるつもりはない」
先生は、すぐに続ける。
「守られたままで
終わりたくない気持ちも、分かる」
赫は、
唇を噛みしめた。
「……俺」
「俺、誰かを犠牲にしたまま、
平気な顔してるの、嫌なんです」
その言葉に、
先生の胸が、きゅっと締まる。
「……だがな」
先生は、
声を低くする。
「その人は、
“自分が見つかること”を、
まだ望んでいない」
「それは、
勇気がないからじゃない」
「……守るためだ」
赫の眉が、
わずかに寄る。
「……守る?」
「そうだ」
先生は、はっきり言った。
「君たちを、
そして———“君たちの家族”を」
その一言で、
赫の中で、
また一つ、違和感が形を持つ。
(家族)
(……翠にぃ)
でも、先生は、
そこまでは言わない。
言えない。
「だから、約束しろ」
先生は、
まっすぐな目で、赫を見る。
「独断で踏み込まないこと」
「危険な場所に、
確認のために近づかないこと」
「……そして」
一拍置いて。
「もし、
“明らかにおかしい”と感じたら」
「自分達で踏み込む前に、必ず俺に知らせること」
赫は、
ゆっくり頷いた。
「……分かりました」
その返事を聞いて、
先生は少しだけ安堵する。
(……間に合え)
(本人が、
これ以上壊れる前に)
相談室を出たあと。
先生は、
窓の外———校舎裏を見た。
そこには、
もう誰もいない。
でも、
“いた痕跡”だけが、
確かに残っている気がして。
先生は、
すぐにメモを取った。
・赫達が提供者に気づき始めている
・本人の状態、要再確認
・保護介入のタイミング、再検討
歯車は、
もう逆に回らない。
“探す子どもたち”と
“守ろうとする大人”と
“一人で耐える本人”。
その三つが、
同じ一点に、向かい始めていた。
コメント
1件
ちょいいストーリーすぎる 結構もうバレてるのか バレて欲しいけど、翠っちゃんの気持ちになるとバレたくないなぁ