「……食事を作ってくれるお手伝いの方はいたのですが、私が夜遅くまで起きていたりすると、父が夜食を作ってくれて……」
「美味しかったんですね、きっと、本当に……」
「ええ…とても……」
再び、彼の食べる手が止まる。
「……私には、父との思い出しかないのです。……母は家庭には興味がない人だったので、私にとっては、父だけが唯一の家族でした……」
そう話す彼の手から、箸がカタン…と小さな音を立て取り落とされた。
「……大丈夫ですか? 先生…」
拾って箸を手渡すと、
「ああ、大丈夫です…すいません」
彼はメガネを外し、涙が滲んだ目の両端を親指と人差し指でぐっと押さえた。
コメント
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お母さんの代わりに、お父さんが人として大事な事を経験させてくれていたんですね。