テラーノベル
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朝食も一段落し、和やかな空気が流れる食卓。
そんな中、こさめが湯呑みを両手で包みながらぽつりとつぶやいた。
「ねぇ、明日さ……みんなでプール行かない?」
「お、いいねそれ! 今年行けてないんだよな~!」
ひまなつがぱっと顔を輝かせ、隣でらんも「俺も久々に泳ぎたいかも」とノリノリの様子。
ところが──
「……却下」
「……行かない」
いるまとすち、ぴったり同時に拒否反応。
「えー! なんで!」
ひまなつとこさめが揃って不満げな声を上げる。
「俺は……なつの肌、他人に見せたくない」
いるまは真面目な顔で断言し、ひまなつの頬がぽっと赤く染まる。
「うぅ、そんな……でもちょっと嬉しい……」
小声でつぶやきながらそっといるまの手を握るひまなつ。
「……俺も同じ。……だめ」
すちは静かに言いながら、みことの背中をそっと庇うように手を回す。
「え……俺も……痕、見られたら恥ずかしいし……」
みことはもじもじと俯き、首元を押さえた。
「うわ……なにそれ……じゃあ俺とこさめが普通になっちゃうじゃん」
ひまなつが思わずぼやくと、
「え? ……こさめちゃん達、痕見られるの平気なん?」
みことが驚いたように聞き返す。
「ん? うん。全然。愛されてる証って思えばむしろ誇らしいし」
こさめはケロっと笑う。
「俺も~、なんか言われても”そうだけど?”って感じだしな」
ひまなつもさらりと続いた。
「ええぇぇぇ……」
みことは真っ赤になってうずくまり、すちはそんなみことの頭を撫でる。
「だからって頑なすぎじゃない!?」
らんが笑いながらツッコみ、ひまなつとこさめは「彼氏ズが重い~」と肩をすくめる。
だが──
「まぁ……行かないって言いながら、行く可能性ゼロじゃないでしょ?」
こさめがにんまりと笑うと、すちといるまは一瞬目をそらした。
「……ないとは言わない」
「……その時次第」
「だってさ~♡」
ひまなつがこさめとアイコンタクトして、いたずらな作戦を企む顔を見せる。
らんはやれやれと苦笑いしつつ、みことは心のどこかで「これはきっと巻き込まれる」と悟っていた。
リビングに集められた「参加拒否組」すち・みこと・いるま。
こさめとひまなつは顔を見合わせ、作戦開始の合図を交わすと、にっこり笑って一歩前へ出た。
【第一ターゲット:みこと】
「みこちゃん、聞いて?」
こさめがやさしく微笑みながら、みことの両手をそっと握る。
「……な、なに?」
「すちくんと海外行っちゃって、なかなか遊べなくてさ。正直ちょっとだけ寂しかったんだよね」
「……う……」
「だから、ね? 埋め合わせってことで……明日一緒にプール、行ってくれないかな?」
みことはしばらく視線を泳がせ、ついには罪悪感に押されて小さくうなずいた。
「……わかった……俺で良ければ、行くよ……」
「やった!」
こさめがぱっと笑顔になり、らんが後ろで親指を立ててガッツポーズ。
【第二ターゲット:すち】
みことは決意を固め、すちの元へとトコトコ歩み寄る。
「……すち」
「ん?」
「明日……プール、行きたい」
「……誰が?」
すちの目が静かに細まる。
「……俺が」
「……行きたくないって言ってたじゃん」
「でも……こさめちゃんたちにも誘われたし、ちょっと寂しかったって言ってたし……」
みことはもじもじとシャツの裾を握る。
「……じゃあ、俺が我慢すればいいの?」
すちは少し意地悪に聞いた。
「…我慢してほしい……お願い……」
みことの目が潤んだように見えて、すちは観念した。
「……わかったよ。みことの頼みだもん」
ぽん、と頭を撫でながら、優しく微笑んだ。
【ラストターゲット:いるま】
「いるま!」
最後の砦、ひまなつが満を持して向き合う。
「ん?」
「……明日、プール行こ?」
「断る」
「そんなん言うと思った。だから、これを用意しました!」
ひまなつは指を1本立てて宣言した。
「明日、行ってくれたら……俺、1個だけ、なんでも言うこと聞く」
「……なんでも?」
「なんでも」
ひまなつがドンと胸を張る。
いるまの目が細められ、5秒ほど沈黙。
そのあと、スッと腕を伸ばしてひまなつの腰を引き寄せた。
「……わかった。……何か考えとくわ」
「…さんきゅ……!」
嬉しそうにすり寄るひまなつを見て、こさめが「ふふ、やったね」と小声で笑った。
〔プール当日・午前〕
「……すち、これほんとに着るの?」
みことが手に持っているのは、黒地にブルーラインの入ったシンプルなラッシュガード。
「当たり前。むしろ足りないぐらいだけど」
すちはすでに自分の分も着終えて、タオルを肩にかけながら手際よくみことの袖を通させる。
「見えない方が安心はするけど……」
「誰にも見せたくないの。……俺だけが見てればいい」
甘い低音に、みことは顔を真っ赤にしてうなずくしかなかった。
一方その頃。
「なつ、ラッシュガード着て」
いるまは言いながら、ひまなつの背後に立ち、軽く肩に手を置く。
「えー、俺別に肌くらい出しても……」
「見せるなら、俺にだけ」
低く、やや拗ねたような声が耳元に落ちる。
「……はいはい、わかったわかった」
ひまなつは苦笑しつつも、渡された白とネイビーのラッシュガードを素直に着込む。着ながら小さく、「……ちょっと嬉しいな、独占」と呟いたのは、もちろん聞かれていた。
6人が並んでプールサイドに出ると、その場の空気が一瞬ざわついた。
「え、見てあの人たち……全員イケメンじゃない?」
「えぐい……モデルグループとか?芸能人っぽい」
小さな子供たちがはしゃぐ一方で、周囲の若い男女が露骨に視線を送ってくる。
とくにラッシュガードの下からチラ見えする引き締まった体に、水で濡れた髪、整った顔立ち。注目されるのも無理はなかった。
数分後、案の定。
「ねえ、そこの人たち~!」
複数人の女性グループが近づいてくる。
「よかったら一緒に泳がない?どこから来たの~?」
みことは話しかけられた瞬間、ビクッと肩を揺らし、そのまますちの背に隠れる。
「わっ、ちょ……ご、ごめんなさい、あの……ぼく……じゃなくて、俺……すちが……!」
「はいはい、みことは俺の後ろで大人しくしてて」
すちは当たり前のように守る姿勢を取りながら、みことの手を握り直す。
女性たちを一瞥したのち、みことの腰を抱き寄せる。
みことが驚いて顔を見上げると、すちは目を伏せずにじっと彼を見つめたまま、腕に力をこめた。
その意思表示だけで、話しかけた側が一歩引くほどの威圧感だった。
「……え、無視された?」
「怖……」
いるま はひまなつの手を取り、指を絡ませるようにしてがっちりと恋人繋ぎ。
「……俺、こいつのだから」
にやっとした笑顔で言い放ったあと、そっとひまなつのこめかみに口を寄せてキス。
「は……っ、バカ……人前っ…」
頬を染めたひまなつが耳まで赤くしながらも、嫌そうじゃないのが丸わかりだった。
「すみません、気持ちは嬉しいですけど……僕、間に合ってるので」
と笑顔で断るこさめに、隣のらんがそっと目を細める。
「ほら、うちのかわいい子にあんま声かけないでくれる?」
淡く微笑みながらも目が笑っていないらんに、声をかけたグループはやや怯んだように引き下がった。
___
しかし変わらず周囲からちらちらと視線が注がれ、やがて、勇気を出した別の女性グループが近づいてきた。
「ねえ、一緒に遊ばない?」
「写真撮ってもいい?」
女性たちは軽い調子で声をかけながら、すち、いるま、らんに自然な流れで腕を絡める。
みことはその光景に瞬時に顔をこわばらせ、すちの腰にしがみつくようにして身を寄せた。
「……触っちゃやだ……」
小さな声で呟きながら、すちの肩に額をこすりつけるみことの姿に、すちは目を細める。
その瞳は冷たく、女性たちに向けられた。
「――離せ」
短く低い声で、すちは言い放つ。鋭い視線に、女性の一人が肩をすくめて手を放した。
一方、いるまに腕を組んできた女性に対して、ひまなつはさらりとラッシュガードの前を少し外し、いるまにぴたりと身体を寄せた。
「こいつが愛してんのは俺だけだから」
挑発するような甘い声に、いるまはクスッと笑ってその腕をほどき、ひまなつの腰を自然に引き寄せる。
「……俺の恋人、強気だな」
ひまなつは得意げに微笑んだ。
こさめは、らんに腕を組んだ女性に困惑の表情を見せたあと、少し唇を噛んで黙り込む。
目が潤んだその様子に、らんの表情が凍る。
「……泣かせんじゃねーよ」
らんは静かに、しかし確かな怒気をにじませた低い声で言う。
その空気を察した女性陣は、徐々に顔を引きつらせながら一歩、また一歩と後ずさっていく。空気が張り詰める中、誰一人として彼らの隣に残ろうとする者はいなかった。
――6人の間に流れる、確かな愛情と絆。
周囲の視線は、やがて遠巻きの好奇心へと変わり、誰もがもうその輪の中に入れないことを悟っていた。
女性たちが立ち去ったあとも、しばらくその場には静けさが残った。空を仰いで深く息をつくひまなつに、いるまが声をかける。
「……ありがとな」
「ん? 何が」
「ちゃんとお前が“俺の”って言ってくれて、嬉しかったわ」
「へへ、当たり前だろ。いるまの彼氏だもん」
隣では、みことがすちの腕の中でまだ頬を赤くしていた。
「……俺、もっと堂々としたいのに…すぐ怖くなっちゃう」
すちはその柔らかな髪に指を絡めながら、低く囁く。
「いいんだよ、俺のとこに隠れれば。それが“俺の可愛い子”の特権だから」
みことは恥ずかしそうに目を伏せながらも、すちの胸元に顔を埋めた。
少し離れた場所で、らんは静かにこさめの髪を撫でていた。
「泣き顔、俺だけに見せて」
「……うん。……でも、らんくんがこんなに怒るなんて思わなかった…」
「そりゃ怒るよ。こさめのこと、大事に思ってるんだから」
日差しの強いプールサイドで、ようやく訪れた穏やかなひととき。6人は並んでデッキチェアに腰掛け、足元をちゃぷちゃぷと水に浸していた。
こさめが小さく言った。
「……なんだか、学生の頃みたいだね。みんなで遊ぶの、久しぶり」
「うん、懐かしい。……でも、今の方がずっと、好き」
そう答えたのは、みことだった。すちの手を握りながら、少し照れくさそうに。
その言葉に、皆が笑顔を浮かべる。
過去の絆と、今の関係。
守るべき存在があるから、少し強くなれた。
――もう、誰にもこの場所を乱されることはない。
プールサイドを歩く6人の視界に、大きなウォータースライダーが飛び込んでくる。二人乗り用の浮き輪を使って滑るタイプで、緩やかなカーブが幾重にも重なり、楽しげな歓声が響いていた。
「うわぁ! らんくん、見て見て、二人乗りだって!」
こさめが無邪気な笑顔でらんの手を引き、一気に駆け出す。
「こさめ、そんな走んなって……あ、ちょ、待てって!」
らんが苦笑しながらも小走りで追いかけていく後ろ姿に、残された4人は自然と微笑みを交わす。
「……あいつら、元気だなぁ」
いるまは腕を後ろで組み、プールを流れる水の音を聞きながら視線を流す。
「俺らはあっち行こ? 流れるプール、ちょー気持ちよさそうだし」
ひまなつが軽く袖を引っ張る。
「いいね。ゆっくり流されてよーぜ」
2人は連れ立って、気ままに水の中へと足を踏み入れた。
残ったのは、すちとみこと。
人の楽しげな声、チャプチャプと水が跳ねる音が満ちているのに、みことの心の中ではそれらの音が遠く感じられていた。
ちらちらとウォータースライダーを見ては、またすちの顔を見て、またすぐに逸らす。浮かべた笑顔はどこか不自然で、落ち着きがない。
すちがゆっくりと、そんなみことの前にしゃがみ込み、顔をのぞき込むようにして問いかける。
「……どうしたの? そんなそわそわして」
みことはびくりと小さく肩を震わせ、はっとしてから、ぎこちなく笑った。
「……あの、あれ……一緒に、すちと、滑ってみたいなって……でも、俺から言ったら、変かなって……」
視線は下、足元に落としたまま、声もどんどん小さくなる。
すちはふっと優しい笑みを浮かべ、みことの頭に手を乗せると、ふわりと撫でた。
「変じゃないよ。誘ってくれて嬉しい。……俺も、みこちゃんと滑りたいな」
「……ほんと?」
「うん。行こう?」
その言葉に、みことの顔がパッと明るくなる。瞳は太陽のように輝き、ぱたぱたと手を胸の前で揺らしながら、頷いた。
「うん……っ!」
2人は手を繋いでスライダーの階段を上がっていく。少し照れながらも幸せそうなみことと、それを見守るように包み込むすち。
その後、浮き輪に2人並んで乗り込み、スライダーの上から見える景色にみことは驚きの声を上げる。すちはそんなみことの手をぎゅっと握って――。
「離さないから。安心して、楽しもう?」
「……うん!」
勢いよくスタートする浮き輪。風を切り、水しぶきが舞う中、2人の笑い声が溶け合って、夏空に響いていった。
勢いよく滑り降りた先、スライダーの終点で水しぶきをあげながらふたりはプールへと着水した。
「わあっ……!」
みことが顔を上げると、頬も耳も濡れた髪も、全部が笑顔に包まれていた。
「た、楽しかった……!」
みことの目がきらきらと輝いていて、すちはその姿に思わず見惚れてしまう。
「ね、すち、もう一回……!」
興奮気味に浮き輪を握ったまま言うみことに、すちは微笑んで、濡れた頬に手を添えた。
「……かわいい」
「ふぇ……? な、なんで今……」
「ずっと言いたかったから」
そう言って、すちは水に濡れたみことの髪を指で梳きながら、額にそっとキスを落とす。
「もう一回、滑りに行こうか。今度はもっとくっついて」
「……う、うんっ!」
ふたりが浮き輪を抱えて笑い合いながらスライダーの階段を上がっていくと、ちょうど流れるプールから顔を出したひまなつがその様子を見つけ、手を振る。
「おーい、いってらっしゃ~い、ラブラブペア~」
いるまがその隣で少し目を細めながらも、みこととすちに向かって軽く手を挙げる。
「楽しそうで何よりだな」
その頃、こさめとらんはスライダーから戻ってきて、水辺で座り込みながらお互いに水をかけ合っていた。こさめが笑い声をあげ、らんが苦笑しながら「こら」と言いながら水をかけ返す。穏やかで、楽しげな空気が流れる。
そして2回目のスライダーを終えたみこととすちは、今度はもっとぴったりと身を寄せ合って降りてきた。すちがみことをしっかりと胸に抱き寄せるように乗ったせいか、途中でみことは何度もすちの腕をぎゅっと掴んでいた。
着水してすぐ、みことは少しだけ恥ずかしそうに顔を赤くしながらすちを見上げる。
「……すちと一緒だと、なんか、全部楽しくなる」
「俺も。みことが楽しそうにしてると、嬉しい」
静かにそう返されて、みことの瞳が潤むように揺れる。
「……だいすき」
水のきらめきの中で、すちがその唇にそっと口づけると、ふたりの間の空気は、夏の太陽よりもあたたかく包まれていった。
「ここ座って。冷たい飲み物、買っといた」
プールサイドに戻ったすちは、タオルを広げた上にみことを座らせ、自分はその隣にぴたりとくっついて腰を下ろす。
手にはみことの好きなフルーツジュース。ペットボトルが汗をかいて、指に冷たく張りついている。
「わ……ありがとう、すち……」
みことは両手で受け取って、蓋を開ける前にちらりとすちを見る。
「すちのも、飲んでいい?」
「もちろん。俺のものは、みことのものだろ?」
そう返されて、みことはきゅっと唇を結びながらも、嬉しそうに笑って頷いた。
一口飲んだあと、すちのボトルにも口をつけて、「うん、すちの方もおいしい」と小さく言った。
その様子をちょっと離れたところで見ていたひまなつが、流れるプールからあがってびしょぬれのまま笑いながら近づいてくる。
「相変わらず甘々だなー、お前らは!」
「うるさい」
そう返すすちの口調はぶっきらぼうだが、視線は甘やかだった。
そのあとを追うように、いるまも水しぶきを立てて近づいてきて、タオルで髪を拭きながら言った。
「なつ、ちゃんと水分補給しろよ」
「はーい」
「わかってるって、ダーリン」
ひまなつがふざけているまに頬を寄せると、いるまは眉をぴくりと動かしたが、それを拒むでもなく、むしろ静かに肩を引き寄せる。
「ん? …なに、照れてんの?」
「煽ってんのか」
「どっちだと思う?」
言ってるそばからおでこを寄せるひまなつに、すぐそばのらんが「あーあ、始まった」と苦笑する。
「らんー! こさめはー?」
「今、トイレ行った」
らんのその表情は穏やかだけど、こさめがそばにいないだけで少し寂しそうにも見えた。
ちょうどそのとき、こさめが戻ってきて、らんの隣にちょこんと座る。
「らんくん、待っててくれてありがと」
「うん。おかえり」
「ふふ、ただいま」
そしてふたりは自然に手を繋ぎ、らんはこさめの髪をタオルで丁寧に拭いてやっていた。
優しい時間が、そこだけゆっくり流れているようだった。
みことは、そんな仲間たちのやりとりを眺めながら、すちの肩に頭を寄せた。
「こうして、6人でまた遊べて嬉しいね」
「……そうだね」
「ずっと一緒にいてね、すち」
「もちろん。絶対に離さないよ、みこちゃん」
耳元で囁かれて、みことの頬が真っ赤になる。
「……たまに呼ぶって言ったのに……もう……」
「嫌だった?」
「……いやじゃない……」
「なら、たまに、じゃなくてもいいかもな」
「すちぃ……っ」
赤くなったみことの頬に、キスを落とすすち。
その様子に、ひまなつがまた大声で冷やかしながら笑っていた。
――楽しい一日は、まだまだ続いていく。
午後のプールも終盤に差し掛かり、館内放送で「間もなく閉園の時間です」と柔らかな声が流れはじめた。
「……あーあ、終わっちゃったなー」
ひまなつがタオルをばさりと肩にかけ、少し名残惜しそうに伸びをする。
「また来ればいいだろ。次は夜のイルミネーションとかのあるとこにしようか」
いるまがTシャツを着ながら、何気ない調子で言うと、ひまなつがにっと笑ってうなずく。
「それ、いい!絶対!」
「荷物、全部持った? 水着忘れてない?」
らんがこさめに確認しながら、リュックの中を丁寧に点検していた。
「うん、ありがと。……さすが、らんくん!」
「こさめの持ち物、俺が全部覚えてるからね」
そんな微笑ましい2人の横で、みことは濡れた髪をすちに丁寧にタオルドライされながら、されるがままになっていた。
「みことの髪、乾きにくいから。風邪ひかせたくない」
「……ありがとう、すち。ん、くすぐったいけど……嬉しい」
「じゃあ行こうか、車の方に」
すちがそう言ってみことの手を握ると、みこともきゅっと握り返す。
他の4人もそれぞれペアになり、自然と歩き出した。
夕焼けに染まる空の下、夏の終わりのような風が少しだけ吹いていた。
駐車場までの道を、6人は笑いながら歩いた。
途中でコンビニに寄って、それぞれアイスを買ったり、お互いのTシャツにこっそり水を垂らし合って小さな水遊びを始めたり、些細なことで笑い合う時間がとても心地よかった。
「ねえ、またこうやって6人で遊ぼうね」
みことがぽつりと呟くと、
「もちろん」
「当たり前」
「おう、俺もしたい!」
「また絶対に、行こう」
「うるせーけど、楽しーしな」
それぞれの言葉が重なって、夏の夕暮れに吸い込まれていく。
車に乗り込む直前、すちはみことを軽々とお姫様抱っこして、車の助手席に乗せた。
「わっ、すち!? な、なんで……」
「疲れたでしょ。今日は甘えていい日」
みことの顔がまた真っ赤になる。
その横でひまなつが「うわー!こっちもラブラブ!!!」と叫んで、いるまに引き戻されていた。
すちは車にみんな を乗せゆっくりと走り出す。
目的地は、すちとみことの家。今日も、そのままみんなで泊まる予定だった。
遊び疲れたみことは静かに目を閉じた。
――この時間が、ずっと続けばいいのに。
そんな思いを胸に、すちは穏やかな笑みを浮かべて前を見つめた。
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