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家に戻り、荷物を置いてひと息ついたあと、ひまなつがぽつりと口にした。
「なんか……汗かいたまま帰ってきたから、風呂入りてーな」
「それならさ、近くの銭湯行こうよ。前にすっちーが話してた、雰囲気のいいとこ」
こさめがぱっと提案すると、全員が「それいい!」と賛成する。
みことは少し戸惑いつつも、すちの方をちらりと見る。
「……すちも、行く?」
「もちろん。みことが嫌じゃなければな」
「ううん、一緒がいい」
銭湯までは歩いて10分もかからなかった。
夜風が心地よく、浴衣姿で歩く6人はまるで夏祭り帰りのよう。
入り口の提灯がふわりと揺れ、番台にはおばあちゃんが座っていた。
「いらっしゃい、仲良しさんたちだねぇ」
「ちょっと騒がしいかもですけど、よろしくお願いします」
らんが柔らかく返すと、おばあちゃんは嬉しそうに笑った。
銭湯の脱衣所で、こさめ・ひまなつ・みことの3人が並んで服を脱ぎながらこっそりヒソヒソ話。
ひまなつがふと鏡を見て、「あ~…またこんなとこに…」と首筋をさすり、照れたように笑う。
こさめも「俺もさ、昨日寝る前に確認したら腰のとこにあってさ~、めっちゃ変なとこ付けてくるよね」と笑う。
みことはタオルで頬を赤くしながら隠し、「わ、わかるかも…足首とか……なんでそんな場所に……」とぼそぼそ。
すると、そのやりとりを少し離れた場所で聞いていたすち・いるま・らんの3人が目を合わせる。
らんが半笑いで「お前ら、つけすぎじゃね?」とぼそり。
いるまは「いや、変わらねーだろ。好きでやってんだから」と軽く肩をすくめる。
すちは無言で頷きつつ、みことに視線を向け、いたずらっぽく微笑むと、みことは「み、見ないで…」と顔を真っ赤にして背中を向ける。
ひまなつは「まぁ、愛されてる証拠ってことで♡」とウィンク。
こさめも「バレなきゃセーフってことで~」と笑いながらお風呂へ向かった。
男湯に入ると、広い湯船からゆらゆらと湯気が立ちのぼっていた。
木造の天井、高めの窓、昔ながらの丸い桶に腰をかけて、みんなで体を洗っていく。
「すちぃ……背中、洗って」
みことが少し恥ずかしそうに頼むと、すちは「勿論」と笑って、泡をつけた手で優しく背をなでるように洗った。
「なつー、こっち流してくんね?」
「おーけー、んしょっと……よし!ばっちり!」
「らんくん、こっち来て!お湯加減ちょうどいいよ!」
こさめの声にらんもつられて湯船に入っていく。
6人で広い湯船に肩まで浸かりながら、自然と笑いが溢れた。
湯船に浸かっていたみことが、脱衣所での会話を思い出し、恥ずかしさから身を縮めるようにして、タオルの端を握りしめながら顔を真っ赤に染めていた。耳まで真っ赤になりながら「そ、そんなに見ないで…」と消え入りそうな声で呟く。
その瞬間、すちの中で何かが軋んだ音がした気がした。
「……みこちゃん」
低く呼ぶ声とともに、すちの目が据わり始める。理性の枠がきしむような、張り詰めた雰囲気をまとって、すちは湯船の端で無言のままじっとみことを見つめていた。
「や、やめて……今ここ銭湯……っ」
慌てるみことの姿にさらに理性が揺さぶられる。
その異様な雰囲気を感じ取ったいるまが、隣の湯船からタオルを頭に乗せたまま半身を乗り出して一言。
「おいすち。頼むから……せめて、2人だけの時にしてくれ。こっちが気まずい。」
その言葉に、すちはハッと我に返るように目を伏せたが、喉奥でくぐもった笑みを漏らしながら「……我慢するの、ほんと限界」と低く呟く。
それを聞いて、ひまなつが「そっちも大変だな〜」と肩を竦め、こさめはこさめで「ふふ、みこちゃん可愛いもんね」と笑って、また場がほんのり和んでいくのだった。
ひまなつが、湯船の中ですちの据わった目をチラリと見やり、ふと笑いを堪えながら口を開く。
「でもさ、いるまも理性飛びかけてる時、まじでそんな目してるよな~。」
その言葉に、みことは「えっ…」と驚いたようにすちといるまを見比べる。いるまは一瞬で目を細めて「やめろ」と低く警告するも、ひまなつはにやにやが止まらない。
「わかる~」とこさめが湯船の縁にあごを乗せながらふんわり笑い、横にいるらんを見上げる。「らんくんもさ、無言で迫ってくる時、ちょっと怖いけど……好き」
らんは頬を赤らめつつ「別に怖がらせようとしてねーし」とそっぽを向いた。
そんな様子にみことはきゅっとタオルを胸元で握りしめ、「みんな……意外と野生なんだね……」とぽつりと呟く。
「当たり前だろ。好きな奴が可愛すぎんのが悪い」と、いるまが即答し、再びすちといるまに視線を送る。
すちは微笑を浮かべながらも、目だけはまだ据わっていて、みことはもう一度、胸のあたりをぎゅっと押さえて、小さく震えた。
「……っつーかさ」
いるまが目を細めながら、ひまなつにじとっとした視線を向ける。「お前も理性飛んだとき、俺に縋って離れねぇだろ。こっちがびっくりするくらい必死にさ」
「……は?」
ひまなつは目を見開いて頬を赤く染め、「それは……っ、あのときは俺だって我慢してて……っ!」と、言い訳のように早口で反論するも、いるまの口元がわずかに緩んだ。
「まあ、そういうとこもかわいいけどな」
「……っ、バカ……っ」
ぼそっと言ったいるまの言葉に、ひまなつはぷいとそっぽを向きながら、耳まで真っ赤になっていた。
その様子を見ていたらんが、隣のこさめを軽く抱き寄せながら言う。
「こさめもさ、『やだ、まだだめ……』とか言いながら、ぎゅーって抱きついてくんだよな。あれ、まじで可愛い」
「ら、らんくん……それ今ここで言うことじゃ……」
こさめが湯気の中で顔を真っ赤に染めて、らんの胸を軽く叩く。
そして、ふとらんがすちの方に目を向けると、彼はいつもの静かな表情のままだが、目元にはかすかな緊張感が滲んでいた。
「……すち。大丈夫? 理性のゲージやばくない?」とらんが苦笑する。
「……無意識に煽ってくるのはやめてほしい」
すちは低く、静かにそう答えた。その言葉の裏に張り詰めた何かを感じ、みことは肩をビクッと震わせ、すちの腕をそっと掴む。
「ご、ごめんね……?」
その一言に、すちはふっと微笑みながら頭を撫でたが、目の奥はどこか熱を帯びていた。
___
お風呂から上がり、ふわりと湯気が残る体に涼しい風が心地よく吹き抜ける。
みんなで休憩スペースに集まり、懐かしい銭湯の定番、コーヒー牛乳を手に取る。
ひまなつが蓋を開ける音に続き、らんやこさめもそれぞれごくりと飲み干す。
「やっぱこれだよな~」とひまなつが満足げに笑い、らんも「うん、癒されるわ」と頷く。
いるまはみことに向けて瓶を差し出し、「さ、みことも一息つけよ」と優しく声をかける。
みことはすちの手を握りながら、少し照れた笑顔でコーヒー牛乳を受け取り、一口飲んでから、「これ、ほんと落ち着くね」とつぶやいた。
すちはそんなみことを見つめ、「お前が笑ってるとこが一番癒される」と穏やかに言う。
ぽかぽかの体とコーヒー牛乳の甘さが、みんなの距離をさらに近づけた。
ゆったりとした時間の中、6人の絆が静かに深まっていくのだった。
___
銭湯から帰宅した6人は、湯冷めしないように軽く着替えを済ませ、リビングに集まった。どこかほんのり火照った顔で、心地よい疲労感に包まれながらも、まだ名残惜しそうに誰も眠る気配はない。
「なぁ、ボードゲームでもやろうぜ」とひまなつが言い出し、賛成の声が次々と上がる。
「それいい!せっかくだし、みんなで遊びたいな」とこさめが目を輝かせると、らんがすぐにボードゲームの箱を何個か引っ張り出してきた。
「運ゲー系?それとも心理戦?」といるまが聞くと、「せっかくならチーム戦がいいなぁ」とみことが提案。
「じゃあ、チーム恋人で!」とこさめが提案すると、みことが「えっ……強そう……!」と不安げに笑うが、すちに「大丈夫だよ」と優しく囁かれ、頬を赤らめてこくんと頷いた。
選ばれたのは定番の「カタン」。資源を集めて街を作っていく戦略型のゲームだ。
ゲームが始まると、予想外にひまなつの交渉力が炸裂し、いるまの冷静なサポートでぐいぐいポイントを伸ばしていく。
らんとこさめチームは終始和気あいあい、ゆったりペースながらも侮れない動きを見せる。
みことはというと、ちょっとした場面で迷ってしまうものの、すちが小声でアドバイスを送るたびに、少しずつ自信を持ってプレイするように。
「みこちゃん、次、木と羊を交換してくれる?」とこさめに言われると、「えっと……すち、これ交換してもいいかな?」と控えめに聞き、「いい判断。やっておいで」と優しく促されて、にこっと微笑むみこと。
ゲームの途中で、いるまが冗談交じりに「まさか、すちの甘やかし戦法で勝つ気じゃないよな?」と突っ込むと、「俺が勝つっていうより、みこちゃんに勝たせたいんだよ」とさらっと返され、みんな一斉に「うわー出た……」と茶化しつつも、ちょっとあたたかな空気が流れる。
何時間かプレイして、最終的には接戦の末、みこととすちチームが勝利。みことは自分の勝利に信じられないといった様子で、思わず「やった……!」と小さくガッツポーズ。
すちはそんなみことの頭をくしゃっと撫でて、「よく頑張ったね」と微笑み、またみことは照れて顔を伏せた。
その後も別のゲームをしながら、夜は穏やかに、けれど笑い声の絶えない時間が過ぎていった。仲の良さと信頼が滲み出るような、そんな温かい夜だった。
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楽しく遊んだ夜も更け、ボードゲームの熱気が徐々に心地よい眠気へと変わっていく。あくびを噛み殺す声がちらほらと聞こえ、誰からともなく「そろそろ寝ようか」と呟いた。
すちは立ち上がり、まだ微かに眠たげな目をしているみことの肩をそっと抱き、「空いてる部屋と毛布、ブランケットは好きに使ってくれていいよ。洗ってくれれば汚れても問題ないから」と全員に向かって穏やかに伝えた。
「ありがとー……」「助かるわ」と、皆が感謝を口にするなか、すちはみことをひょいと抱きかかえる。
「……すち…」
うとうととしながらも、安心しきった声でみことが小さく呟き、すちはその声に頬を緩める。「一緒に寝ような」と優しく答え、寝室へと足を進めた。
こさめとらんは、隣の空き部屋を使うことにし、こさめが「ここ静かでいいね」と微笑むと、らんが「こさめがいればどこでもいいけどな」とさらりと答え、こさめは照れてそっと肩を寄せる。
ひまなつといるまは、「リビングのソファが落ち着く」と言ってブランケットを広げ、ぴったり寄り添って眠る準備をしていた。ひまなつが「お前の膝枕、けっこう好きなんだよな」とぼそっと呟くと、いるまは「そうかよ」と小さく笑った。
寝室に入ったすちは、みことをベッドに優しく下ろすが、みことの指がすちのシャツの裾をぎゅっと掴んだまま、離さない。
「……どうしたの?」
みことはうつらうつらしたまま、ゆっくりと目を開け、眠たげな瞳のまますちを見つめる。「……いかないで……」と、微かに震える声で囁いた。
「俺は行かないよ。どこにも」
そう答えたすちに、みことはふわりと笑って、まるで夢の中にいるような動きで手を伸ばし、すちの頬に触れる。そしてそっと、すちの唇に、自分の唇を重ねた。
それは静かで、あたたかくて、何より愛情に満ちたキスだった。
「……すき……」
みことの小さな声に、すちは黙ってその体を抱きしめた。
その言葉にすちの心が静かに熱を帯びる。ふたりの唇が再びゆっくりと重なり合い、温もりを確かめ合うようなやさしいキスが交わされた。最初は静かに、けれど次第に深く、感情がにじみ出るように甘く絡み合う。
みことは夢うつつの中、すちの胸元に身を寄せたまま、ぽつりと囁いた。
「……もっと、すちを感じたい……」
その無邪気で無防備な言葉に、すちの心の奥底にあった理性の薄氷が、音を立てて軋んだ。
ふと、みことの瞼がわずかに揺れ、再びすちを見上げる。その表情に込められた信頼と甘えが、すちの胸を強く締めつける。愛しさが溢れそうになる。
「……そんなこと言うと、ほんとに止まれなくなるよ」
すちは低く、震える声で囁いた。けれどその目は優しく、みことを包み込むような深い愛情に満ちていた。
みことは、小さく笑うようにして、再びすちの胸に顔を埋めた。
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