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観音は静かに立っていた。周囲は一面、黒い霧に覆われ、音ひとつ聞こえない。そこだけがまるで時間が止まっているかのような異様な空間だった。
目の前には、零が不気味な笑みを浮かべている。彼は肩に巨大な鎌を担ぎ、まるで自分の優位を確信しているようだった。
「観音、お前が相手か。期待外れだな。」
零の声は冷たく響く。
観音は微笑みを浮かべたまま答える。
「期待外れかどうかは、試してみればわかるわよ。」
零が鎌を振ると、空間そのものが揺れ、炎が四方から観音を取り囲む。観音はじっとその光景を見つめ、わずかに首を傾げた。
「怖くないのか?」
零が尋ねる。
「怖くないわけじゃない。でもね、私は狩り手だから。」
観音はゆっくりと手を合わせた。
その瞬間、零の鎌が観音に向かって振り下ろされる。観音は身を翻してかわし、黒い炎の隙間を縫うようにして零に迫る。
彼女の目には恐怖の色はなかった。ただ一心に、目の前の敵を倒す意志が宿っていた。
観音は敵を素手で打ち破る術など持っていない。それでも、炎の隙間を駆け抜け、零に近づくたびに彼の鎌の動きをわずかに乱していく。
「時間稼ぎをしているつもりか?」
零が冷笑する。
観音は答えず、ただ一撃でも加えようと動き続ける。その執念ともいえる動きに、零の表情がわずかに曇る。
「…無駄だ。」
零が再び鎌を振ると、観音の足元から黒い炎が吹き上がる。観音はそれを避けることができず、身体を炎に包まれてしまった。
観音の身体は瞬く間に黒い炎に飲み込まれた。
零は勝利を確信し、鎌を肩に乗せて静かにその様子を見つめる。
「だから言っただろう。期待外れだと。」
しかし、炎の中から観音の声が聞こえた。
「わからない。」
炎の中で立ち尽くしながら、観音は微笑みを浮かべていた。その目は、まるで何かを見通しているかのようだった。
「私たち狩り手が、どうして戦うのか。」
零の顔がわずかに引きつる。
観音の身体は黒い炎に崩れ、静かにその場に倒れた。炎が消えた後には、彼女の微笑みだけが残されたように見えた。
零はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて冷たく笑った。
「無意味な戦いだ。」
だが、観音の最期の微笑みが、零の胸にわずかな違和感を残したことに、彼はまだ気づいていなかった。