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「ねぇ、リョウガ。ちょっと頼みがあるんだけど」
タクヤがそう言った時点で、嫌な予感はしてた。
「俺と、付き合ってるフリしてくんない?」
……ほら来た。
「は?」
思わず素で返すと、タクヤは少しだけ困った顔をした。
「ちょっと面倒なのに絡まれててさ。恋人いるって言っても信じてもらえなくて」
「それで俺?」
「……ダメ?」
その一言が、ずるい。
断る理由なんていくらでもあったはずなのに、気づけば頷いていた。
「……期間限定な」
「ありがと、リョウガ」
その時の笑顔が、“仕事の延長”に見えなかったのが、全部の始まりだった。
最初はただの演技だった。
肩を組むのも、距離が近いのも、全部“設定”。
でも——
「リョウガ、もうちょっと寄って」
そう言って自然に腕を絡めてくるタクヤに、心臓が変に反応するようになった。
(演技だろ)
分かってるのに。
「……お前さ、距離近すぎ」
「恋人なんだから普通だろ」
軽く笑うタクヤ。
その“当たり前”が、俺には当たり前じゃなくなっていく。
ある日、例の相手の前で。
「リョウガ、好き」
そう言って、タクヤが俺の肩に頭を預けてきた。
演技だって分かってる。
分かってるのに——
「……俺も」
気づいたら、嘘に嘘を重ねていた。
それが“演技”じゃなくなってることに、自分だけが気づいてるのが、最悪だった。
「もう大丈夫そう。ありがとね、リョウガ」
数週間後、タクヤがそう言った。
「あいつ、もう諦めたっぽい」
終わりの合図だった。
「そっか」
軽く返したつもりなのに、やけに声が乾いていた。
これで終わり。
“恋人ごっこ”も、“触れる理由”も、全部。
「じゃあ、元に戻るね」
元に戻る。
その言葉が、妙に引っかかった。
(……もう元に戻れねーよ)
一回知った距離を。
一回許した温度を。
なかったことにできるほど、俺は器用じゃない。
「なぁ、タクヤ」
気づけば呼び止めていた。
「ん?」
振り返る顔は、いつも通りで。
だから余計に、腹が立った。
「……あれ、全部演技だった?」
一瞬だけ、タクヤの表情が揺れた。
でもすぐに笑って、
「当たり前だろ」
って言った。
その“当たり前”に、今度はちゃんと傷ついた。
「あっそ」
それ以上、何も言えなかった。
言えば壊れる。
でも言わなくても、もう壊れてる。
嘘から始まったくせに、
終わる時だけ、やけに現実的で。
(……笑えるな)
好きになったの、俺だけだったのかよ。