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ライラ からぴち・シクフォニ♡
20
「それになんだよ、ホテルって。俺に電話してから来るまで、2時間もかかったのはそういうことかよ!」
「……うわぁ、いつきくん意外とそういう感じなんだ」
「……冗談で言うたのに。それはさすがに引くわ……」
わたわたと慌てふためき、顔面を真っ赤にしたいつきくんが、狐に向かって「違う!」とだけ連呼している。違うならその理由を早く言えばええのに。
……俺はもう、千年の恋も冷めてもうた。あんなに好きやったのに。たぶん、日曜のあの瞬間に、もう冷めてたんやろうな。
「おっは! しゅうと、日曜楽しかったね!」
満面の笑みで教室に入ってきたのは、今回の容疑者のもう一人。火種の「ゆうた」だ。
「おい、お前。何がしてぇんだよ。……帰れよ」
「え?」
教室に入ってわずか5秒。ゆうたは、りゅうせいくんに意味もわからずブチギレられている。……今回は助けへんよ。俺も、今はりゅうせいくん側やから。
「……うちのとホテル行ったって、本当?」
やけに冷静な「狐」の声が怖い。いや、この人は元々こういう温度の人やったか。
「え!? いつ!? 俺、ホテル行ったの!?」
ゆうたは笑いながらキョロキョロして、自分の胸を指差している。……まあ、これは嘘じゃないんやろな。行ってないわ、こいつは。
「日曜、俺が帰った後にバイトや言うてたけど、ほんまやったん?」
「……うん、本当。せっちゃんに聞いていいよ」
「ほら」とスマホを差し出される。……ええよ、番号知ってるし。
「……じゃあ、2時間遅れた理由は?」
狐が一息ついて、いつきくんに問いかける。……なんなん。いつきくん、頑なに理由言おうとせえへんやん。
「……言えない。けど、ホテルには行ってない」
うぐぅ、と何かを飲み込むような声を出すいつきくん。
へぇ。狐の気持ちよりも大切な秘密があるんや。理由を隠して、こんなに険悪になってるのに。これじゃ、ほんまにゆうたと何かあるって思う方が正解なんちゃうかな。
「ねぇ、それ日曜の話? それなら俺のせいだよ。俺がいつきくんを引き留めたんだ」
「……やっぱり、お前といたんじゃん」
いつも温厚なりゅうせいくんが、笑わずに漏らす低い声は本当に怖い。もうええて。はよ全部言うてスッキリさせようや。
不穏な空気のまま、時間だけが流れていく。
休み時間になっても、ゆうたはそんな空気をもろともせず笑顔で話しかけてくる。一方で、ゆうたの顔を見たくないりゅうせいくんは、狐と赤ちゃんヤクザ三人衆で固まっている。
……それより、いつきくんはどこへ行ったんや。まさか、吐きにでも行ってるんちゃうやろな。
「いつきくん!!!」
「……しゅうと」
放課後。とうとう教室に帰ってこなくなったいつきくんを、校庭の隅っこで見つけた。
「……なんか、ごめんな? 冗談のつもりやってんけど」
「……ううん。しゅうとに変な態度をとってたのも、二時間遅れていっちゃんのとこに行ったのも事実だし……」
あー、俺への態度がおかしい自覚はちゃんとあったんやな。
でも、このまま明日からも引きずるわけにはいかんし。俺は意を決して、ずっと気になっていたことを口にした。
「……いつきく、……いつ……いっ、いっちゃん……。ふぅ……その、理由は、いっ、ちゃんに言えへんことなん? 俺にも?」
「……ふふっ」
「いや、今笑うとこちゃうやろ」
いつきくんが笑った理由はわかっている。あの狐のことを、初めてあだ名で呼んだからや。しかも本人のいないところで。ちょっと緊張しながら。
……はず。なんで俺が顔真っ赤にして照れなあかんねん。
「……そう。今は、言えない」
「……あー、そう。……でも、ちょっと安心したかもしれん。俺に冷たくした理由があるなら。俺、しつこく『好き』って言いすぎて、ほんまに嫌われてもうたんかと思ったから」
「……そんなことない。嬉しいよ? しゅうとに好きって言われるの」
「……へぇ、そうなんや」
あーあ。朝からいつきくんのカッコ悪いところをいっぱい見たのに。千年の恋も冷めたはずやったのに。一瞬で心を持ってかれてもうた。罪な男やな、いつきくんは。
「……でも、俺のことを好きだって、暗示をかけるみたいに思い込んでるだけかもしれないよ? 見えていないだけで、本当に大事なものは他にあるのかもしれない」
「……なんすか。謎解きゲームでも始める気ですか?」
結局、俺のことをどこかで突き放したいのは伝わってくる。いつきくんは俺と友達でいたい。その「好き」に切り替えてほしいと思っているんや。
「……しゅうとはさ、なんで俺のこと好きになってくれたの?」
「それは……一人やった時に、声をかけてくれて……俺の関西弁を『可愛いね』って褒めてくれたから」
そう。俺はゆうたのせいで、二年も一人ぼっちやった。あいつに関西弁を笑われてから、自分から人と喋るのをやめたんや。
「あと、フットサルに誘ってくれた。俺がいくら断っても、笑顔で何度も何度も声をかけ続けてくれた。りゅうせいくんと二人でずっと俺のそばにいて、友達になってくれた」
本当は寂しくて寂しくて、何度も学校を辞めようと思った。自分を変えることもできん。どうしていいかわからん。
そんな時、偶然廊下でぶつかったいつきくんに、謝り方を間違えた。また笑われる。なんで俺は関東に染まられへんのやろう。一瞬で入学式の日のことがフラッシュバックした。
『……可愛い。俺、その話し方すごい好き』
その時の優しい笑顔と温かい声は、今でもはっきりと覚えている。
自分の心が、恋に落ちた音だって。
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