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「鍵、ついに2本揃ったね」
玄関の小さな靴箱の上、ふたつの鍵が並ぶ。
ひとつは紗季のもの、もうひとつは葵のもの。
大学を卒業して1年。紗季は東京の編集プロダクションで働き、葵は地元のNPOで子ども向けのアート教室を運営していた。
離れた日々を経て、ようやく一緒に暮らす日が来た。
場所は東京郊外の、古いけど静かなアパート。
2DK、築25年、駅から徒歩12分。
そんな“ふつう”の空間が、ふたりには宝物のように思えた。
***
最初の朝、台所でコーヒーを淹れる音に目が覚める。
「あれ? 起こしちゃった?」
「……ううん。夢じゃなかったんだな、って思ってただけ」
葵のエプロン姿に、胸がぽかぽかした。
何気ない一瞬が、すでに“幸せ”だと分かる。
洗濯物をたたみながら話すドラマの感想。
お互いの職場であった小さな出来事の報告。
眠る前に読む、隣で広げる本の話。
それら全部が、“ふたりだけの生活”を作っていった。