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あめ猫@サボり魔
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#見捨てられた
リコりす@アナログタノピイ
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試合が終わる。
霧は静かに薄れ、生存者たちの悲鳴だけが、館の外へ置き去りにされていく。
FORSAKEN最奥。
スペクターの私室だけは、いつもと変わらぬ静けさに包まれていた。
深紅のソファへゆったりと腰掛ける支配者。
その膝の上には、当然のようにアズールが収まっている。
黒く染まった身体を主人へ預け、ウィザードハットの影から、期待に満ちた瞳を見上げていた。
「スペクター様。」
弾む声だった。
「今日の試合、お聞きになりますか?」
スペクターは静かに微笑む。
「もちろんだとも。」
「君の話を聞く時間は、私のお気に入りだからね。」
その一言だけで、アズールの表情がぱっと明るくなる。
「……はい!」
まるで褒められるのを待っていた子どものように、勢いよく話し始めた。
「ツータイムは、私を見た瞬間から震えていました。」
「何もしていないのに、立っていることもできなくて……あんなに怯えた顔、初めて見ました。」
くすくす、と嬉しそうに笑う。
背中の触手も、主人の邪魔をしないよう小さく揺れている。
「私が『初恋なんて価値がない』と言った途端、あいつ、本当に世界が終わったみたいな顔をしたんです。」
「声も出なくなって……あはっ。」
「おかしかった。」
嬉しそうに笑うたび、スペクターは何も言わず、その髪を指先で梳いていく。
その優しい手付きだけで、アズールは幸せそうに目を細めた。
「それから……」
「一本ずつ、動けなくしていきました。」
「私のことを何度も呼んでいましたよ。」
「『アズール』って。」
少しだけ首を傾げる。
「でも、不思議なんです。」
「もう、その名前を呼ばれても何も感じませんでした。」
「ただ……」
恍惚と微笑む。
「あなた様が喜んでくださるかなって。」
その言葉を聞いて、スペクターは細く笑った。
「よくやった。」
静かな声だった。
けれど、その一言だけで十分だった。
アズールの肩が震える。
「君は期待以上だ。」
「君ほど美しく、この領域に尽くしてくれるキラーはいない。」
指先が頬へ触れる。
「……っ。」
胸の古傷が熱を帯びる。
「ありがとうございます……!」
主人へ抱きつく。
「あなた様に褒めていただけるなら……私は何度でも戦えます。」
「何度でも。」
スペクターはその身体を受け止める。
まるで壊れ物を抱くような優しさで。
そして耳元へ唇を寄せる。
「けれど、まだ足りない。」
その一言で、アズールは顔を上げた。
「……足りない?」
「ツータイムはまだ壊れていない。」
スペクターの声は穏やかだった。
「肉体を傷つけるだけでは、人間は本当には壊れない。」
「心だ。」
「希望だ。」
「救われるかもしれないという幻想だ。」
静かな囁きが、ゆっくりとアズールの心へ染み込んでいく。
「次に会う時は、もっと長く絶望を味わわせてあげるといい。」
「追い詰め。」
「逃がし。」
「また追い詰める。」
「希望を見せてから奪えば、人の心はより深く沈む。」
アズールは食い入るように主人を見つめていた。
神託を聞く信徒のように。
「なるほど……。」
「そうすれば……。」
「もっと喜んでいただけますか?」
スペクターは柔らかく微笑む。
「もちろん。」
「君が私の言葉を覚え、実践してくれるなら。」
「私は何度でも君を褒めよう。」
アズールは目を潤ませて頬を染めた。
「私は……。」
「もっと頑張ります。」
「もっと。」
「もっとあなた様のお役に立ちます。」
勢いよく膝から滑り降りると、主人の足元へ跪く。
恭しく革靴へ額を寄せる姿は、祈りそのものだった。
「あなた様のためなら。」
「私は何度でも、この領域を駆けます。」
「何度でも収穫してまいります。」
スペクターは静かにその姿を見下ろす。
帽子の影に隠れた瞳は、どこまでも冷たい。
この青年は、もう自分で考えることはない。
褒められるために狩り。
認められるために傷つき。
そのたびに、自ら檻を狭めていく。
それでもアズールは幸せそうだった。
主人の言葉ひとつで笑い、主人の視線ひとつで満たされる。
それこそが、自分に与えられた救済なのだと信じ切っていた。
スペクターは、その頭へ静かに手を置く。
「いい子だ、アズール。」
そのたった一言だけで、青年は震えるほど嬉しそうに笑った。
館の外では、再び霧が濃くなり始める。
終わらない夜。
終わらない試合。
そして今夜もまた、一匹の猟犬は、主人から与えられたたった一言を胸に抱き、嬉々として霧の向こうへ歩き出していくのだった。