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頭の中は、まだぐちゃぐちゃだった。目覚めたら、推しと全裸で同じベッド。
こんな現実、受け止めきれるわけがない。
「……あの、なんで私……ここにいるの……?」
震える声でそう聞いた。
誠也は、どこか困ったように笑った。
『うーん……それ、俺も聞きたいくらいやな。ただ、1つ言えるんは……俺、ちゃんと手ぇ出してへんで……。』
「えっ、そ、そうなの?」
『多分な?』
「“多分”って何!?」
つい叫ぶと、誠也はクスクス笑った。
『ごめんごめん、からかっただけ。でもほんまに、変なことにはなってへんと思う。昨日は2人で飲んでて……酔うてて、気づいたらこうなってたんや……。』
「私が誠也くんと飲んでた……? そんなの全然覚えてない……」
『やっぱりな。覚えてへんか。まあ、無理もないかもな。昨日の夜、あんたが泣いてるの見てん。駅のベンチで』
「……泣いてた?」
『うん。めっちゃしんどそうな顔してて、見てられへんかった。それで声かけたら、いきなり俺の名前呼んだんや。“誠也くん”って……。』
「そりゃ……推しですから……」
『ちゃうねん。ファンとか、そういう感じやなかってん。もっとこう……“前にも会うたことある”みたいな顔しとった』
その言葉が、なぜか胸に引っかかった。
『なんでか俺も、ほっとけんかったんよな。気づいたら2人で飲みに行ってて、あんたがちょっと笑えるようになってて。それが嬉しくて……そんで、うち来て……。』
誠也の声は優しかった。
落ち着いていて、どこか懐かしさすら感じる。
「けど、なんで裸なの……?」
『俺が聞きたいわ!笑ソファで寝よう思てたんに、気づいたらここ。服脱いでた理由も、全然わからん。もしかしたら、酔って風呂入ったんかもな。』
ありえる。
けど、だからって2人とも裸って。
そして誠也は、そんな状況でも自然すぎて、逆に怖い。
『ホンマごめんな。びっくりさせてもうて』
「……ううん。びっくりはしたけど……でも、なんか、怖くないのが不思議で……。」
『そやろ? 俺もやねん。初対面のはずやのに、なんか前から知ってるみたいやって思った。』
「……不思議」
『せやから、もうちょっとだけ俺と居ってみぃひん?』
「えっ?」
『昨日のこと、全部思い出せとは言わん。でも、今の俺のことも、ちゃんと見てほしいんよ。“アイドルの誠也”やなくて、“俺”として。』
そう言って、そっと手を伸ばしてきた。
触れた指先が温かくて、胸の奥が少しだけ震えた。
忘れてしまった“昨日”のこと。
でも、これから始まる“今日”なら、覚えていける気がした。