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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第79話 〚 澪に知らせないと決めた夜〛
― 担任視点 ―
廊下の電気は、
夜になると少し白すぎる。
生活指導室の前で、
私は立ち止まった。
中には、
真壁恒一がいる。
叱った。
はっきりと、
そして何度も。
言葉は選んだ。
だが、
曖昧にはしなかった。
「それは“好意”じゃない」
「相手が怖がっている時点で、アウトだ」
彼は納得していない顔をしていた。
反省よりも、
混乱に近い表情。
——やっぱり、と思う。
この子は、
“自分の気持ち”しか見ていない。
そして、
“相手の沈黙”を
許可だと勘違いする。
それが、
一番危ない。
私は、
深く息を吐いた。
(……澪には、言わない)
その判断は、
簡単ではなかった。
澪は、
聡い子だ。
言えば、
察してしまう。
察して、
自分を責める。
「私が鈍かったから」
「私がちゃんと拒否しなかったから」
——そんな風に。
それは、
絶対に違う。
今回、
澪は何もしていない。
守られるべきだった。
ただ、それだけ。
だから私は、
“何もなかった顔”を
選ぶ。
海翔の表情が、
ふと浮かぶ。
あの子は、
分かっている。
分かった上で、
黙っている。
守るために。
(……同じ判断だな)
それが正しいかどうかは、
分からない。
でも今夜は、
これしかない。
私は、
真壁に最後に一言だけ告げた。
「今日は、
もう部屋に戻りなさい」
「澪には、
一切、関わらないこと」
強く、
短く。
真壁は、
不満そうに頷いた。
扉が閉まる。
廊下に残ったのは、
私ひとり。
遠くから、
生徒たちの笑い声が
かすかに聞こえた。
——あの中に、
澪がいる。
何も知らずに。
何も背負わずに。
それでいい。
今夜だけは。
私は、
職員室へ向かいながら、
心の中で決める。
明日も、
目を離さない。
近づけさせない。
そして、
澪には——
“修学旅行は楽しかった”
そう思わせたまま、
帰らせる。
それが、
大人の役目だ。
この夜のことは、
誰も知らないままでいい。